慕情

これは小学生のときテレビで観て感動した映画。ウィリアム・ホールデンがかっこいいなぁ、アメリカ人てかっこいいんだなぁと子供心に思った。音楽も素晴らしい。良い映画は音楽も必ず良いと後年発見する先駆けになった映画だ。

何度も観ているが、後年気付いた事がある。そして、ここのレビューを全部読んだがひとりもその事に気付いていない。それは、この映画は異人種間の偏見がテーマなんだということである。女医のハンの友達に金髪に染めた中国娘が出てくる。西洋人と結婚する事を現実的な課題としてハンに語る。別に恥ずかしい事でも卑しいことでも無い。誰だって幸せになりたいのは同じだ。出自で人間を区別する事こそ卑しいことだ。

ハンは重慶に行く。このシーンも覚えていなかったが、とても重要なシーンなのだ。なにしに行ったのか。セリフをよく聞いてもらいたい。

あの丘のシーンは忘れられない。木立ちしかない、という背景が余計に二人の姿を際立たせているのだ。あの絵にすることを決心した人は偉かったと思う。今でも忘れないもの。

この映画を観てから20年後、香港に初めて行った。「慕情」の香港だなぁ、と感慨深かった。私にとって香港とは「慕情」の香港なのである。それは一生変わらない。

自分も外国人と結婚したからこの映画のテーマに気付いたのかもしれない。
永遠の名画である。

※LOVE IS A MANY SPLENDORED THING を「慕情」と訳した当時の人も本当に偉かった。

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恐らく誰もが一度は耳にしたことがあると思われる有名な主題歌を持つこの作品は、いわゆる不倫劇に相当します。しかし、不仲が原因で長い間別居を続けている特派員記者と夫と死に別れた若き女医とが主人公で、半ば独身同士の恋愛劇に近いものですから不倫という言葉から想像されるようなドロドロした感じは全くありません。それどころか、パーティーでジェニファー・ジョーンズに一目惚れしたウィリアム・ホールデンの紳士的なでも強引とも言える一挙一動に次第に胸をときめかせ彼に惹かれていくジェニファー・ジョーンズの様子などはまるで少女か初な女性の振る舞いのようで、とてもさわやかなものを感じさせてくれます。しかし、こうした人物造形や物語設定以上にこの作品に清涼感をもたらしているのは、断続的に現れるこの作品の「テーマ」と言っても差し支えない丘陵地におけるシーンでしょう。

ウィリアム・ホールデンの押しに半ば躊躇しつつもジェニファー・ジョーンズが「(勤務している)病院の後ろにある丘で」と初めての逢い引きの場として指定するこの丘陵地は、香港というこの作品の設定になんか関わりもなく、またロケーション自体も特に美しいとは言えない凡庸な草原の丘に過ぎません。振り返れば100万ドルの夜景もしくは昼景が眺められる場所という設定であるにもかかわらず、この美しい風景は部分断片的もしくは慎ましやかに背景の一部として利用されるだけで、カメラは数本の木だけが生えたなだらかな丘の場面を仰角から捉え続けます。

最初の逢い引きでは先にジョーンズが到着し、ホールデンが来ていないことを不安の眼差しでその丘を見上げているのですが、テーマ曲に乗せて直後に丘の向こう側からホールデンが現れ、ホールデンもまた時間より前に到着していたことを告げ、以降二人はそれまでの戸惑いや不安を捨てた純愛関係に陥っていきます。このシークエンスを観た時に恐らくこのシーンが今後繰り返し現れ出るであろうことを確信的に感じたのですが、実際にその通りで、ラストシークエンスでもほぼ同じ構図やショットが使われるのを始めとして、この丘の、特に仰角から捉えたショットが幾度も繰り返し登場してきます。

ラストシークエンスは、愛する男性を失い失意と男性に対する愛慕とに引き裂かれそうになっているジェニファー・ジョーンズが、想い出の場所である件の丘に立ち戻るという設定なのですが、多くの人が予想し期待もする彼女が涙するアップのシーンは殆ど用いられることなく、突き放したように誰もいない丘のショット(それは最初に登場した丘のショットと同じ構図です)でこのシークエンスも、そして作品自体も幕を下ろします。

一目惚れ、困難な状況を乗り越えた純愛そして別離という物語設定も、上述のラストシークエンスもいずれも「予定調和」なものではありますが、予定調和であるが故に、そのことに対し自覚的で意識的であるが故に、その構造をそのまま利用しているが故に(いわば「脱構築」ですね)、この作品には予定調和を超えた素晴らしいものがあるのだと思います。ヘンリー・キング(的な作家と)とウィリアム・ワイラー(のような作家)との違いって、こんなところにあるのではないでしょうか?

そして、キング的な「予定調和」には古さ新しさはありませんし、時間の経過がこの作品に古臭さなどもたらしていないことは言うまでもないことです。

静かに情熱的な映画でした。
恋をする、人を愛おしく思う、愛が溢れ出る、そんな恋愛の醍醐味をひしひしと感じさせる映画。
観終わった後、愛おしい人を抱きしめたくなりそうです。

1949年の香港。女医で未亡人のハンと、妻のある新聞記者のマーク。
パーティーでハンに一目惚れするマーク。
ハンはどの時点でマークの事を好きになったのだろう。
でも気がついたらもう恋は始まっていた。恋ってそういうものですよね。
paroleさんも言われてますが、マークの誘い方がとてもスマート。電話をかけてくるタイミングや、デート後の一本の電話・・・素晴らしいほどの基本を押さえていて、これでは女性はたまらないなぁと、ハンが恋に落ちていくのを頷きながら、共感しながら、一緒にドキドキと恋の始まりを楽しめるのです。

不倫といいながら、マークが妻とは長い間別居中で妻もどことなく強かな女性であることが感じ取られ、心にわだかまりを抱くことなく二人の恋愛を楽しめる。紳士的なマーク、聡明で愛情深いハン。男女が知り合って、お互い惹かれあって、結婚を誓い合って・・・そんな瞬間瞬間の、心の喜びや嬉しさ。大人の落ち着いた中に見せる瑞々しさ。

ラスト、思い出の丘でまぼろしを見る。
何て切ないのだろう。青い空が悲しいくらい切ない。
そこから迸る愛、溢れ出る愛で胸がいっぱいになりました。

監督：ヘンリー・キング（1955年・米・102分・カラー）
原題：LOVE IS A MANY-SPLENDORED THING
原作：ハン・スーインの同名自伝的小説
※1955年アカデミー賞歌曲賞受賞
※1955年ゴールデン・グローブ賞受賞

優しく切なくムーディーな映画音楽の名曲。一部分、「ある晴れた日に」と似ているメロディが聞こえて来る。
舞台は1949年のイギリス領香港。
俯瞰で当時の香港の全景が映し出され、やがて救急車のサイレンが鳴り響き、病院へと入って行く。
ここで働く研修医の女医ハン・スーイン（ジェニファー・ジョーンズ）が本作のヒロインで、父親が中国人、母親がイギリス人のハーフだ。
スーインの上司キース医師（マーレイ・マシソン）に連れられて、病院の理事宅でのパーティーに出席し、アメリカ人の特派員マーク・エリオット（ウィリアム・ホールデン）と知り合う。
マークには6年以上も別居中の妻がおり、スーインは夫を共産党員に撃たれて亡くしていた。
二人はやがて恋に落ちることになるのだが、スーイン曰く“妻帯者と寡婦”の恋だった。

毎日、3000人の難民が中国から流入して来るという香港の背景も描かれる中で、自分の体を流れる中国人の血とイギリス人の血に葛藤するスーインの心情の描写が素晴らしい。
スーインの女学校時代の友人スザンヌもハーフだったが、彼女は自分の中の中国人を捨て、髪も金髪に染めて、イギリス人として生きて行く道を選んでいた。
スーインの場合は、ほとんど中国人としての意識だったが、マークと知り合った当初、彼と会う時は（チャイナ服ではなく）ドレスを着ることで西洋人として振る舞っている感じだった。（西洋人は感情に従うという意味で）
スーインによって語られる中国の故事や諺も興味深く、スーインが妹を心配して故郷に一時帰国した際の家族（一族？）の絆の強さを感じた。
特に、マークとの結婚の意志が固いと知った親戚が一人ずつ、自分の分身だという翡翠をスーインに渡して立ち去る場面は、それぞれの思いが伝わって来た。

マークの妻は離婚に応じず、二人の交際は世間や病院幹部たちのスキャンダルの種となる。
病院理事の妻アデライン（イソベル・エルソム）は、スーインを呼びつけ忠告（非難）するが、スーインは既に気持ちが決まっており、マークに会いに行く。
そんな折、朝鮮戦争が始まり、マークは従軍記者として戦地へ行くことになった。
二人はいつもの丘で別れるのだが、病院の裏にあるこの丘は、スーインとマークが逢瀬を重ねた場所だが、そこから見える風景は香港の街並みや港、湾の向こうまで見渡せる静かな場所だ。
マークからは毎日のように手紙が届き、スーインも手紙を書いた。
ある日もマークからの手紙を読んでいると、友人が新聞を手に入って来る。
スーインは信じられない思いで、丘へと急ぐ。
丘には、木がいつものように立っている。
一瞬、マークが手を振っているように見えたのは幻だった。
ラストで流れる主題歌は女性コーラスが入る。
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原作者のハン・スーインさんは、2012年11月2日、スイス・ローザンヌの自宅で95歳で亡くなったそうです。
彼女の写真は、こちらで。
https://www.cinematoday.jp/news/N0047541

麒麟麦酒のコマーシャルソングになっているこの名曲を唄っているのは　「美空ひばり」さんです　作家　韓素音（ハンスーイン）は香港を「借りた時間」「借りた場所」と表現しるように香港は難民の街です　南京条約によってイギリスの植民地となった香港は第二次大戦後は大陸の共産党政権から逃れてきた人達の逃避場所となりました　この映画はこんな背景から始まっています　物語は典型的ラブストーリーで　三角四角関係　交通事故に記憶喪失　嫉妬に貧富の差と言う　韓国ドラマを見慣れた若者にはちょっと物足りないかもしれませんが　たまには好いじゃありませんかこんなお話も　詳しくはparoleさんのレビューでどうぞ