スリー・ビルボード

　アカデミー賞受賞作でよかったと思った映画がこれまであまりなかったので、いい意味で裏切られました。華々しい展開はなく、こういくかなってな読みが割とよく当たるのですが、全く支障はありませんでした。登場人物たちの激しい怒りが、なだらかな諦観へと変化していく様がとても自然で、見ている方も達観モードになるからかもしれません。ちなみに諦めるという言葉の原義は、「明らかに見る」という意味で、怒りで曇った眼がまさに明らかに見る方向へと変化する様が見どころです。
　「許す」という営みが大きなテーマになっているのは間違いないでしょう。それは単線的な描写ではありませんでした。複眼的に照らすからこそ、立体的な感触をもってわが身に迫ってくるような気がしました。個人的な成長課題に重なったからかもしれません。それから、結末を視聴者に委ねる手も、見事にマッチングしており、陳腐さが感じられないところも高評価です。

面白い。立て看板のアイディア、予想を上回る展開、練られた脚本、いろんな面を持ってる登場人物たち、こういう映画、とても好きだ。

単なる復讐譚ではなかった。
人は時に正しさというレールを外れて暴走してしまう。人を動かしているのは感情だから、しょうがない面もある。
怒りは怒りを生む、負の連鎖は止められない。けれど、誰かの思いが誰かの心を動かし、良い方向に転がることもあるのだ。
変な言い方だけどパチンコのような、アメリカだからピンボールのような、ある人の行動がある人にぶつかってぶつかってぶつかって、思いもよらない結果を招いてしまう感じ。人生の悲喜劇を描いてるのかな。

主人公ミルドレッドは、マカロニウェスタンのクリント・イーストウッドを女にしたようなキャラだと、町山智浩さんがラジオで語っておられた。
なるほど、と思った。

先の読めないストーリー、隙のない会話のやり取り、癖のある登場人物、単純なクライムムービーではありません。好き嫌いがあるかも知れませんが、個人的に今年のベストワンになるかも。終わり方も視聴者に想像させる感じがとても素敵です。

やられたらやり返す。いわゆる復讐。当たり前のこと。

やり返しても誰も非難しない。逆に称賛する人さえいる復讐という行為。

やり返して当たり前。逆にやり返さなかったら、馬鹿か、と思われるほど。

しかし、そこでやり返さなかったら。その人はすごいと思う。

やられても笑ってやり返さない人になるべきだ。

あらすじ

娘をレイプされ殺された母親（フランシス・マクドーマンド）は、なかなか犯人を見つけない警察を恨み、警察署長を非難する広告看板を出した。

それにより、事態は思わぬ方向に向かう・・・。


署長（ウディ・ハレルソン）はその看板の後に手紙を何通か出すが、その手紙がなかなか味わい深い。

一通は母親へ。もう一通は部下の暴力警官（サム・ロックウェル）へ。

遊び心のある手紙を書いたり、部下を激励する手紙を書いたり。存在感のある手紙だった。

まー正直それほど面白くない映画だったけど、思い返すと印象深い映画だった。

☆4つ。

犯罪被害者やその家族の事は忘れられがちですが、ある日突然愛する家族が
犯罪によって失われてしまった悲しみや葛藤を暴力で描いたストーリーだと思いました。

家庭に問題があったのかもしれない、自分自身がもっとこうしていたら。
事件や事故で子を失った親なら必ずそんな辛い思いを抱えてしまうでしょう。

主人公は娘の事件の心境は言葉で語らず、ひたすら怒りの行動で表しています。
広告を出すことなど捜査が進まない警察への抗議でそういった自責の念を発散しているように見えますが、被害者の家庭環境や服装がどうであろうが、道端でレイプ殺人に遭う理由にはならないという信念を感じました。

犯罪被害者のご家族は皆、こんな風に暴れ出してもおかしくない辛い気持ちを抱え、マスコミによって好奇の目にさらされ、傍観者から勝手な同情や批判を寄せられる。
どれだけ時が経とうが心の傷が癒やされることはないかもしれません。
ただ理不尽な重犯罪を「あの子の家は片親だから」「黒人だからそういう連中と付き合ってたんだろう」というような、被害者の環境で判断しない社会であってほしいと訴えているのではないかと思います。