ボーダータウン　報道されない殺人者

こういう作品を見る度に思います。

「日本に生まれて良かった」って。

昨今、政治的、経済的、社会的に様々な「厳しい状況」に晒されている我が国ですが、少なくとも「餓え」は他国に比べて圧倒的に少ないし、「警察」はちゃんと犯罪者を捕える努力をしてくれて、政府は「出来る、出来ない」は別にして、この国を「より良い国」にするよう日々頑張ってくれている。

しかし、この作品の舞台であるメキシコの「国境の町」は違う。

この現実をにわかには理解できませんでした。
自分の浅学を恥じ入るばかりです。

今回の評価
キャスト：★★★★☆
演出：★★★☆☆
脚本：★★★★☆
尺：★★★☆☆
映像：★★★☆☆


総合：★★★★☆

個人的にＡ・バンデラス、Ｊ・ロペスというと今回のような「社会派」というよりは「エンタメ」系の作品という印象が強かったのですが、中々の熱演で見ごたえありました。
両者ともヒスパニック系ですので、当然ながら全く違和感が無くメキシコの風景に自然に溶け込んでましたね。

しかし・・・

考えさせられる作品でした。

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ジェニファー・ロペスに
アントニオ・バンデラスというキャスティング。
てっきりチープなサスペンスドラマだと思っていたけれど…
事実を基にした立派な社会派ドラマなのには驚いた！

舞台はメキシコとアメリカの国境の街シウダ・フアレス。
北米自由貿易協定によって世界中の企業が
次々とブラジルの国境沿いに工場を建設し、
免税と安い労働力によってアメリカ向け商品を大量生産しています。
フアレスには１０００以上の工場があり２４時間フル稼働。
テレビが３秒に１台、コンピューターが７秒に１台
作られているなんてっ！想像もつきません。
そこで働く工員は貧困な若い女性が多く、
夜勤時に襲われる女子工員が後を絶たないそうです。

「女殺しの天国」とされるフアレスでこの数年、
３７５人の女性がレイプ殺害され、
さらに７００人の女性の行方が依然として不明だとされる。
しかしそれはあくまで表向きの数字で、
実際は５０００人もの女性に被害が及んでいるという。

企業は利益優先で従業員の安全などお構いなし、
レイプ事件の真相を暴こうとすると国家からの圧力が…。
一体彼女たちはどこへ助けを求めればいいのだろう。
国家ぐるみで被害者女性を見殺しにするこの現状には
もぅ言葉も出ませんでした。。

冒頭からいきなりの残酷な描写に
特に女性は目を覆いたくなるかもしれません。
けれどもこれはフアレスの女性の身に
実際に起こっていることなのです。
こんなことがまかり通っているなんて
身の毛も弥立ちます…。

ジェニファー・ロペスの男勝りで気取らない演技には好感が持てたし、
アントニオ・バンデラスに至っては最後まで彼と気付かなかった位
その役柄に溶け込んでいて正直見直しました。
そしてフアレスの女性が置かれている凄惨な現状を伝える為に
身を呈して本作の制作を決行したグレゴリー・ナヴァ監督の
真摯な姿勢には感服するばかりです。
監督をはじめ出演者にも数々の脅迫があったそうですよ。

この世界は、ある一部の人たちがいい思いをするために、他社に犠牲を強いているように感じる。一部の、いい思いをする人たちのために、その他の人たちが、いろんなレベルの犠牲を要求されている。いつか、みなが幸せになれる平和な世界が来るのか。この映画でも、アメリカが強欲な国に見えるのも残念だ。

先進国の食い物にされることと内政というか治安というものは別問題では？
工場で低賃金で遅くまで働く女子工員が誘拐レイプ殺人にまきこまれるという。
なんだかこじつけが過ぎる気がしましたが...。
ＮＡＦＴＡ（北米自由貿易協定）が報道の自由の障害になっているというのもあるひとつの切り口ではあるが、なんかこう、単純に警察がしっかりしろと思う。
どう見てても警察を糾弾すべき展開の映画をみながらズレてんなぁ..と思いながら鑑賞しました。
ある意味コレはホラーで、あながちホラ(ー)でなく実話らしいので、怖いですね。

ジェニファーとバンデラスの出演なので、スリリングなサスペンスかと思っていました。しかしテーマは重い・・・。

５０００人以上の女性が殺害されても、捜査すらされない現実。
儲かるなら、弱者を切り捨てる政府。
自分がメキシコに生まれていたら・・・、家族がこんな目にあったら・・・と思うと、ゾッとしました。

最初ローレン（ジェニファー）は、出世のためと、事件を道具とみなしていました。しかし、バンデラスの命がけの仕事ぶりや、救出された女の子といる間に、彼女の行動が変化していくところが、丁寧に描かれていたと思います。

結末も決してハッピーではありませんが、ここでハッピーだったら、この現実を忘れてしまったでしょう。一部残念な結果ですが、
私もこの現実を忘れないでいたいと思います。