メルキアデス・エストラーダの３度の埋葬

話は３回。３度の埋葬とその途中にある旅の話。
タイトルからして何か惹きつけられそうな感じだが、
１度目の埋葬は、あっと言う間に終わり、２度目の埋葬は
ごもっともで、３度目の埋葬に向かう旅を間に挟む。

この旅が、最初は友達の死に対する復讐っぽく始まるが、
旅をする過程で、ピートがマイクに罪を償わせ、罪悪感を
軽くする旅のように見えてきた。
そしてピート自身も彼を憎むことより許す旅に。

さて、彼らの終着点、メキシコのヒメネスとは・・・。

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国境沿いの田舎町で働く国境警備隊は、貧しいメキシコ人が不法入国してくるのを防ぐため、成るべく穏便にしかし差別的に毎日を過ごしている。
メルキアデスがコヨーテを撃つ為に使った銃の音に驚いた警備隊員のマイクは誤って彼を撃ち殺してしまうが、彼が不法入国者でありメキシコ人であった為非常に軽く扱われ、見て見ぬふりをしたまま、早々埋葬してしまうが、掘り起こされ、親友のピートの元へ帰ってくる。
とても、哀しい映画であり、残酷な映画だが、アメリカ内での人間の孤独が国境を越えてメキシコへ向かうにつれ、徐々に和らぎ、知らぬ人に親切にされる。
埋めてくれと言われた「ヒメネス」を捜すけれど見つからない。
でも、結局は、無事埋葬されることとなる。それまでの道のりと心の変化が見どころである。

ピートの深いメルキアデスへの愛情は、憐憫も感じられ心にしっとりとしみわたる。
孤独のうちに死んだメルキアデスが三度も埋葬されなければならなかった理由が非情に複雑で、でも、見終わるとシンプルな話だったのかとも思う。
マイクに象徴されるアメリカ。でも、親友のピートもアメリカ人である。二つの顔を持つアメリカ。適当な場所に墓を作ればさっさと出て行くのもアメリカ。アメリカの多民族に対する二面性を情緒豊かに映像化した、とても素晴らしい映画だと思う。

長めだが見ごたえがものすごくあった。すごい傑作。トミー・リー・ジョーンズがもっと好きになった。脚本の間合いが素晴らしい。
メキシコ人のメルキアデス・エストラーダは童貞だったのだろう。彼の残した遺言がすべて泣けるし、それほどまでに貧しいのかとお国事情が大いに気になった。豚フルが流行る今、彼らメキシコ人の家計をさらに逼迫することのないように祈る。
すべてを手にしたはずのアメリカの虚しさを浮き彫りにした作品。アメリカという国は結局、何も得ていない、ひとりぼっちの魂をさすらうしかない、という悲しみ。日本も同じになるのか？何とか「情」や「感謝」くらいは残したい。

私の知っているメキシコは、東京ディズニーシーにある「ミゲルズ・エルドラド・キャンティーナ」メキシコ料理のレストランです。口に合わないなぁと言いながら、入園の度必ず行かないと気が済まないのは、独特の雰囲気にあるのです。間延びした歌声のBGM、作り込まれたレトロな街並みを眺めつつ、運河沿いの木の椅子に腰掛けて生ビールをあおる至福のひと時…、癒されます。

この作品には余計な音楽が有りません。要所、効果的に使っています。心理描写がリアルなので、重い印象を受けました。

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生前にメルキアデス が、まるで桃源郷であるかのように遠くを見る目で語るヒメネス
その場所を目指して、埃っぽい荒涼とした場所で繰り広げられる二人＋死体のほんの少しのユーモアを交えたロードムービー。
途中で、時には優しく、時には乱暴に、人の良心に触れる。
渇きをおぼえるような過酷な状況にあっても、旅の途中で出会う人たちの疑うことを知らぬ優しさに心も身体も潤される。
この映画の外観は、むさくるしくて、かなり格好が悪い。
しかし私たち女には寄り付きも出来ないダンディズムが見える。
「生まれてくる時も死ぬ時も所詮人間はひとりぼっちさ。でもね、その人生の旅の途中には色んな人と出会い、心の中に自分なりの桃源郷を見出させばいいんじゃないか」
なんて言っているように。