スパイダー　少年は蜘蛛にキスをする＜特別版＞

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鬼才Ｄ・クローネンバーグ監督の作品なので、心の準備は万端。「戦慄の絆」（１９８８）や「裸のランチ」（１９９１）を観ていれば、この程度の難解さは予定調和と言っても良い。

もっとも興味深いのは現実と虚構の狭間を行ったり来たりして、その境界性が曖昧になるところ。その感じが塚本晋也監督の「ヴィタール」（２００３）を想起させます。

統合失調症（精神分裂症）の男をＲ・ファインズが迫真の演技で見せる。彼が抱え込む心の闇がひしひしと伝わってきます。

劇場で見て、難しい内容で、よくわからなかったので
ＤＶＤでもう一度見て見ました。
すると一度見たときよりわかるし、この映画の深さを
感じました。
なんといってもレイフ・ファインズの演技の素晴らしさに
脱帽。この映画のちょっと前にレッド・ドラゴンを
見たからでしょうか。まったく違ったタイプを演じ分ける
レイフ・ファインズの演技に釘付けでした。
中身はまさにクローネンバーグ流。
細部までさすが！といった感じです。

クローネンバーグで蜘蛛なのでてっきり蜘蛛のエロいクリーチャーが出てくるホラーものだと思って最初見てましたが、もちろん全く出てきません（笑）。
一人の精神を患った大人の男が過去の記憶を追っていき、その隠された真実を思い出すお話です。途中の伏線のはり方が素晴らしく、小さなたくさんの謎が、最後の最後で驚愕の事実に辿り着きます。私はこのどんでん返しに全く気付きもしなかったので、本当にショックでした。面白いです！この映画！
新たなクローネンバーグ監督の才気に触れる事が出来る映画です。

記憶の混乱というものを、これ程具体的なイメージで示した映画もありませんよ。
狂気の淵に立つ者の悲哀と孤独を冷徹に描き出すクローネンバーグの視線が恐ろしい。
英国風景の湿った情緒を的確に映し出した撮影も特筆に値する。

この監督の深化は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」ではなく、本作と「イグジステンズ」辺りから始まったとみるべきだろう。
或いは「戦慄の絆」でピーター・サシツキーという撮影者と巡りあった時から、少しずつ深みを増してきていたのかもしれない。

レイフ・ファインズと共に、ガブリエル・バーンの演技も見事。

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非常に緻密な構成と、不条理な世界観の再現に重きを置く画像、それを演じる役者もまた素晴らしく、不条理を現実と思わせるためにごく控えめな演出を行っているため、『ありえへん』とか『この表現の真意は』とか、拒否したり画に表した以上の何かを探すと迷宮に迷い込んで、逃げ出したり抜け出せなくなってしまうので御用心。

タイトルバックの絵で本作の趣が示されており、これらの絵は意味をなさないのだが、見る者はそれに過去の記憶の一片をあてはめそれぞれの意味を見出そうとするし、一度そう思い込もむと違う絵には見えなくなったりもする。人は何かに意味や意義を求め、時により自分に都合のよい方に解釈してしまい、それが記憶として完成すれば、人格形成において闇の勢いを強めるほどの勢いを持つのだろう。
これはクローネンバーグと聞かされてなかったら気が付かなかったかの、影を潜めた過剰な性と暴力の描写は、決してなくなりはせず瞬間において爆発するほどの迸りを放ち、それにより却って人の闇を鮮烈に感じさせる。この描写で人間の内面性をさり気なく表す様にはぐいぐい引っ張られ、途中でうっすらと感じるオチなど全く気にならず、ただこの悪夢的なレイフ・フィアンズの佇まいに惑わされ続ける。
人の持つ多面性の一端を、自己の思いに重ねた男の悲劇を、映画という捉える者により多様に解釈できる表現手法でもって構築を試みた、大変な傑作であると感じた。

監督の真骨頂を発揮したかの作品で、これを観てから次作の「エンド〜」を観てたら感想がずいぶん変わってたかも。（久し振りに自分のレビューを読んで赤面、冷汗）でも、「エンド〜」の方にはやはり中途半端感が残るような気がして、それは本作が興行的に振るわなかったこと対する迷いが出たのではと、流石の監督も人の子なのだなぁと勘ぐってしまうのです。
しかし、この私の傲慢な態度は反省せねばならんと。監督、カナダの方には２度と足を向けて寝ませんと思わされる作品でした。



◆強烈なネタバレ

母蜘蛛は卵を産んだら死ぬ、それは少年にとって永遠の存在となることなのでしょう。