第三の男

戦勝国4カ国に分割統治されている戦後のウィーン。瓦礫の街と下水道。そびえ立つ観覧車。まことにいい映画だわ。

　友人ライムを訪ねて戦後のウィーンにきた三文作家のハリーだが、ライムは交通事故で死んでしまったと告げられる。警察から事故状況をきいたハリーは、事故に不審な点があることに気づく。
　そのことを警察に話しても聞く耳持たずの態度をとられ、ハリーは自分で事件の真相を追い始める。事故直後ライムを抱きかかえて歩道に運んだ人たちに会いにいくハリー。当初、運んだ人は２人
　という話だったが、調べを進めるうちに実は３人目の男がいたことが明かされる。

　３人目の男は誰なのか？それがそのままタイトルになっている本作。第三の男が分かったとき、「おまえかー！！」と思わず言いたくなります。また人間模様にも心が引き込まれます。ライムの恋人アンナに
　警察官のキャロウェー少佐。調査のためにアンナに事情を聴くうちに、ハリーはアンナのことを愛してしまうし、キャロウェー少佐は、ライムの事故死の真相について立場上隠さなければいけないことが
　あったりします。そしてさらに本作のいいところとして、言葉にできない人の感情の美しさ、を映せていることだと思います。「笑ってよ」とハリーに言われたアンナが流す涙。彼女を助けたかったハリーを
　振り切って、アンナが店を立ち去るときの構図。そしてラストシーン。白黒の画面でも豊富な感情が映し出されています。

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レビュアーさんのお薦めで鑑賞しました。

破産した三流小説家マーチンは招待した親友の家に着いた途端にハリーが自動車事故で亡くなった事を知り、葬儀に参列する。

本当についていないマーチンに思わず笑ってしまいましたが、ストーリーはそんな簡単な内容ではありませんでした。バックに流れる音楽がその画面画面にあった曲を奏で、しかも音が大きいのですが気にならない。映画を観ながら音楽も楽しめる２倍楽しい映画です。

マーチンが死んだ時に警察も知らない第三の男が居た事。その第三の男が誰なのかをマーチンは探る。そんなところから話はサスペンスへと変わって行く。

この映画で面白いなと思ったのは肝心な場面を映さず、想像させるカメラワークで撮っていること。それは髄膜炎の赤ちゃんのシーンや地下道での影の動きで犯人が何処にいるかを想像させるシーンと実に想像力を刺激させてくれる映画だと思います。

　アントン・カラスのチター演奏は、前から聴いていましたが、映画を観たのは初めて。オープニングから流れる演奏を聴いただけで、いよいよ名作が始まるという感じで、ちょっと背筋を伸ばして見てしまいました。
　大まかなストーリーは、大体つかめたのですが、細かい部分で、分かりづらい所もありました。
　ハリーとホリーの友情関係、アンナ（アリダ・バリ）との三角関係など、複雑に絡み合いながら進行して行くのだけど、その周辺の人物関係や、アンナが持っていた偽装旅券は、何の意味があったのかとか、細部の所がちょっと分かりづらかった。

　いちばん印象に残ったのは、ハリー（オーソン・ウェルズ）が下水道に追われて、ホリー（ジョゼフ・コットン）に見つかったときの、二人が見合わせたあの表情・・・。銃声一発、響いたけど、ホリーは本当に友人のハリーを撃ってしまったのか。もしかしたら、彼はハリーを見逃したのではないか・・・と思ってしまったのですが、どうなのでしょう。
　ラストが墓地から始まるシーンなので、悪党ハリーはやはり、倒れたと解釈するのが妥当なのでしょうね。
　ハリーの、政治や社会を、斜交いから見ているような、ニヒルな性格が、真面目なホリーと対照的に描かれていて、この映画の面白さの一つだと思いました。

　ラストのシーンは、ホリーは失恋したってことなのでしょうか。そして結局「第三の男」っていうのは、ハリーのことだったのかな。
　サスペンスで娯楽ものにしては、なかなか解釈の難しい映画だと思いました。いろいろな含みを持たせているのも、名作といわれる所以なのでしょうね。

映像の構図が美しく目を見張る。奇抜なアイデアマンでありアイロニーな作風のグレアム・グリーンが、この映画のために書いた原作だけあって内容が深い。たまたま原作も読んでいたのでいかに練られた奇抜な筋であるかが、しみじみと伝わってくる。
再会の舞台を観覧車にしたのは非常に巧妙でありお洒落、取り交わす台詞は卑劣だが疲れた大人の哀愁に満ちている。
闇商人として次第に悪質化する昔の親友＝オーソン・ウェルズは非情そのものだがなぜか共感する気にもなる。非情のライセンスの魅力か。
傑作です。