羅生門

山賊と貴族の女性と侍（イントロダクションでは「供回りの侍」となっていたが、作品を見ると女性と侍は「夫妻」らしい）の三人が絡んだ“ひとつの事件”。
しかし、真相はひとつのはずなのに、それは三者（と言っても一人は故人だが（苦笑））の意見がいずれも異なるという不可思議な事件だった−−−。

“羅生門”という名が掲げられた廃墟のような門跡で雨宿りがてら語り出されたその話に、画面の向こう側の僧侶や男と一緒に、自分も強く惹きつけられた。

この不可思議な事件の真相を知った時、話を聞いていた僧侶ともども“今も昔も人間というものは、なんとも滑稽なまでに虚勢を張って生きているものか。虚勢を剥がせば、中身は卑屈で惨めで愚かなものだ。”とシニカルな思いが生まれたが・・・さすが世界の“クロサワ”！！
ラストのラストでは“でも、やっぱり人間、捨てたもんじゃない。”と思わせてくれた。

原作芥川の作品が『光から闇への転換』を描いたものならば、黒澤監督のこの作品は『闇から光への転換』を描いているのだと思う。
原作との比較も楽しい。ワタクシ的には☆４コ評価。

「羅生門」ってタイトルだけど、内容は殆ど「藪の中」。同じ芥川龍之介の作品なのだけれ
ど、なぜ「藪の中」を「羅生門」というタイトルで映画にしたのか、なぜ「藪の中」ではないのか、そしてなぜ「羅生門」が出てこなければならないのか。。。その辺りのことが、「藪の中」のミステリ以上になんだかとても気にかかる。
原作は短編変格ミステリだと思うのだけど、一種のリドル・ストーリー。「女か虎か」の類ですね。文学的な「人間の心の動きの不可解さ」とか「女性の性」とか「男のエゴ」とか、その辺りのことはさておき（さておくのである）、リドル・ストーリー・ミステリとしてなかなか面白かった記憶がある。この映画では、それに様々なプラスアルファがなされていて、今ひとつリドル・ミステリ部分が薄れている気もするのだけれど、たぶんそういう観方をしてはいけないんだろう（笑）。
ただ、この映画のタイトルが「羅生門」で、つまりは「羅生門」のテーマを「藪の中」にカップリングしたということであるのなら（ストーリー面で「羅生門」が特には見受けられないのだから）、この映画に「羅生門」のテーマ、「人間の（男の、と限定されない）エゴ」があるのかもしれない。しかし、この映画のエンディングは「希望」ではないのか、、、それとも、ここに何か、特に明示されていない「どんでん返し」があるのだろうか。

芥川龍之介の【羅生門】が原作とばかり思っていたら【藪の中】という短編らしい。そうだよな【羅生門】国語の教科書に載ってたけど映画のような話ではなかったような記憶だもんな。

これ意外にも原作に忠実な黒澤演出。先日読んだばかりの原作を確かめるがごとく映像が展開していく。違うのは物語の導入部と最後。映画では一応の真実として木こり(志村喬)の証言が描かれている解かり易さ。

つまり「どんな物事に対しても、当事者たる人間達の各種各様の解釈がありうること。人生の真相とか、現実の機微とかいうのもは、一端をもってとらえがたいこと。各人各種の感情や心理に従って、真実はいくつもの姿を呈すること。」というテーマを読者に投げ掛けたまま終る原作に対して、木こりを通して作者の懐疑的な人生観が語られているのが映画の方なんだと思う。

に　してもだよ、”巫女(霊媒師)の口を借りたる死霊(侍)”の証言て一番怪しくないかい?死人に口なしとは言うけれどさ、あくまでも霊媒師の戯言じゃないの?昔TVで見た心霊番組でジョン・レノンの霊を呼ぶとかいって、降霊したら「ワタシハ　ジョン　レノン　デス。」だってよ。なんとまぁ流暢な日本語ですことよ　(^○^)

ついでに気になって学生時代より遥か云十年ぶりに読んでみた【羅生門】。なるほど、映画の冒頭と最後を【羅生門】の情景で包むことによって更に一つの物語としての纏まりを成す事に成功してるんだ。でもそれってのは作者芥川の統一された作品世界観があったからこそとも思うしだい。

ちなみに、三船が演じていた多襄丸という盗人は、【偸盗】という短編にもその名前が出てきます。芥川龍之介の頭の中では、タランティーノの『レザボア』『パルプ』『トゥルロマ』のごとく、作品世界がリンクしていると考えると少しは”文学”も身近に感じることが出来る、、、というお話。

数十年ぶりに観た。
面白くない。
公開当時も日本ではウケなかったらしい。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞をとった最初の日本映画だったので名作と言われるようになったようだが、それだけのことだったのかも。欧米でこれが高く評価されたのは、遠い異国の雰囲気がエキゾチックだったのと、野蛮人のような者たちが白人文化を理解して、カミュの小説みたいに不条理をテーマにした・・・というようなことではないかと思う。

観ていて思ったのは、まず演技がひどいこと。とにかく、もったいつけすぎていてテンポが悪い。登場人物の心情を説明しようとしてるのはわかるが、空振りの連続。チャンバラもへたくそ。三船と森の乱闘はもうインチキ芝居としか言いようがない。最後の格闘では森が優勢になって目の前の三船をそのまま斬ればすむというチャンスが何度もあるのだが、わざと刀をふりそこねて空振りしたりしているのが見てとれる。
ストーリーもよくない。強姦事件とその後の殺人事件について当事者３名と傍観者１名がそれぞれの自尊心を衛る立場でウソの証言をするのだが、殺人に至る実際の顛末が最後までわからないように仕立ててある。４人の証言にはどれも穴があり、４つの証言を組み立てても事件の真相があぶり出せない。
一応ここで簡単に整理しておくが、投稿できないのでコメント欄に書きます。

　“七人の侍”や“生きる”等に比べると世界的な知名度や評価は下なのかもしれんが、おいらはその二作に負けず劣らず楽しめた。

　冒頭の志村が藪の中に入って行くシーンで並みの作品じゃない事は分かる。

　まぁ素晴らしい作品なのは言うまでもないが、その他においらが感動したのは“映画を撮る”という事。

　残念ながら映画を観る目がそれほどないおいらは、作品鑑賞中にそれらに気づく事はなかったが、黒澤の多彩なアイデアが満載。
　雨の“墨”や木漏れ日の“鏡”等は有名だがそれ以外にも斬新な発想が作品に効果的に使われているのを知った。興味のある方は調べてみても面白いかも。

　特に新しい装置や技術を開発したわけではない。誰もが思いつきそうでやらなかった事。そういう部分も映画制作の才能の１つなんだろうな。

　そしてその才能と同時に映画への愛、制作の執念みたいなものも感じた一本。

　黒澤にしては尺は短い。展開もスマート、難しさもおいらには感じなかった。観やすい作品だと思うが・・

　星？　ハイ、★★★★★です。