クレイジー・ハート

これの前に観た『娼婦と鯨』は女性向けの作品だったが、こちらは反対に男向けの映画だ。
アカデミー賞で話題になったので内容は知られていると思う。老境に入ったカントリー・シンガーの切ない人生再生物語だ。

男は大抵誰しも自由な生き方を夢見る。だが、実践したときの代償は意外と大きくて、病に手を焼き、疲れを感じて定住生活に戻りたいと思ったときにはもう手遅れ、なんてのが現実の人生だ。
「細く長く」か「太く短く」か、なんて言い方今は流行らないけど、その結果が事前にわかりゃいいな−なんて思うことはあるよね。おっと、あんまり余計なこと書くと、俺の中の“バッド・ブレイク”的なものがバレちまうな。

映画のほうだけど、ジーン(マギー・ギレンホール)との仲が子どもの一件だけで壊れてしまったのは残念でしたね。この一件の前に、ジーンがブレイクとともに生きてゆくことの是非に悩む様子を、もっと強く描いたほうがよかったかな。余談だけど、プロレスラーなど興行のサーキットで家を留守にしがちな職種の人は、やはり離婚するケースが多いらしい。愛情を保持しておくのは難しいですね。
ジェフ・ブリッジスはミュージシャンとしての顔も持つだけあって、さすがに歌がうまい。
アメリカの顔はいくつもあるけど、カントリー・ミュージックで醸し出されるアメリカのイメージが、私は一番好きだ。

ネタバレあります。
結果からみると、ジーン（マギー・ギレンホール）に“ふられた”という感じになるバッド（ジェフ・ブリッジス）だけれど、内心ではわかっていたんじゃないかな。
ジーンのベッドにもたれて作った曲が、「ここは疲れ果てた男の居場所じゃない」で始まるのだから。
「もうここで正気を失ってはいけない」もいい。
すっかり落ちぶれ生活は荒み、身も心もポロポロ状態の男が、思いもかけず、大切にしたい、ずっと愛していきたいと思う女に出会った時、愛の示しかたにはふた通りある。
正気を失って愚行をくり返すありのままの自分をさらけ出して、ここから救い出してくれるのはキミしかいないと、助けを乞うのか。
それとも、愛する相手の前だけでは苦しさを我慢して取り繕い、問題ないよと、笑ってみせるのか。
バッドは迷うことなく後者を選び、そして最後までそれをつらぬいた。これは推測だか、壊れた四度の結婚は前者だったのではないか。
ラスト、広々と雄大な山々のパノラマを望みながらのインタビュー、人生の真実をひとつ悟った風格と深い哀愁が合わさったジェフ・ブリッジスはとてもかっこよく、逆にジーンの狭量さ、計算高さが鼻について、えっ、小切手受け取るのかよと、腹立たしくなった。
しかしバッドは孤独ではない。「酒を止めたい」と息も絶え絶えに夜中に電話すれば禁酒会を手配してくれる友だちがいる。このロバート・デュバルの友情には感激した。
いちばん美味しい役どころではないのか。弟子のコリン・ファレルもなにかと立ててくれるし、マネージャーだってさほど冷酷非情というわけでもなかった。
女に無償の愛など求めるな、さいごに頼りになるのは男の友情だぜと、歌っているような映画にも見えた。

ジェフ・ブリッジスはまさにからだを張っての熱演。体を張るとは、別に女優がきれいな裸を見せつけることだけではないんだ、ぶよぶよにたるんだ初老の男の酒臭くたばこ臭く、血液検査では正常の項目がほとんどないような、不健全にゆるんだ肉体を、さらに見苦しく見えるように撮らせるでもあるんだと、瞠目させられた。
熱演をそれと感じさせない茫洋とした存在感もすごい。
さらにアルコール依存症から抜け出した後の、微妙な雰囲気の変わりようの表現も見事だった。あんなにたやすく克服できるとは思えないが。
「ウォーク・ザ・ライン」のジョニー・キャッシュもそうだったけれど、カントリーの歌手はそうたやすくは死なない。ロックミュージシャンのように若くして音楽に殉教するようなことは少なく、細々とでも歌い続けるんですね。
映画ばえはしないけれど、人間の生き方としてはそちらが望ましいと思います。

コリンファレルが好きで借りました。
味のある俳優さんたちぞろいで、まあありがちなストーリーとはいえ
楽しめました。
コリンファレルが歌がうまくてびっくり。

とどちらもオスカーとった50代の男性のストーリーだからか、「レスラー」のミッキーロークと、本作のジェフブリッジズを比べてしまいました。それでいうとレスラーほど過激＆悲劇的なドラマ性は低い、正統派のストーリーであるものの、秀作かつジェフブリッジズはとてもかっこよかったです！

あと、マギーギレンホールは素敵で愛あふれる感じの女優になりましたねぇ。レスラーのマリッサ・トメイと同じ匂いがするというか男性にとって癒し感があふれているという魅力がある、というのが共通点だと思いました。

あまりカントリー・ミュージックはきかないのでよくわからないけど、アメリカ的でアメリカ人が好むストーリーなんだろうなという気がしました。
これからも、誰にとってもいい人生が続いていくんだろうな。という安心できる気分で見終わることのができる作品はいいものです。

　学生時代、カントリーソングのコピーバンドをしていたことで、惹かれるものがあり見ることに・・。主人公と、年齢もそう違わないせいか、よくわかる部分が多かったです。

　いまだに捨てられないプライドと、このまま終わるものかという意地。なのに、歳のせいにして、現実から逃避し、あせる気持ちを忙しく過ごすことでごまかしている。酒浸りの日々も、決して満足もしてないし、いいとも思ってない。
だから、女性記者から受けたインタビューをきっかけに、彼女と心を通い合わせるようになり、今の自分を変えようとしていく。
　
　コンサート会場で、かつての弟子の存在と共演、というか前座なんだけど、すごく魅力ある歌でした。中年のよれよれしたおじさんが、その瞬間だけは、別人に思えました。