ディア・ハンター

この作品は今まで見てきた映画の中で際だって衝撃的な作品であった。衝撃的とはこのようなものであると、認識した３，４日深く引き摺った史上まれに見る作品である。まずすばらしきはデ・ニーロ、ウォーケンの演技である。特にウォーケンのあまりにも鬼的な圧迫さえ覚える名演に感銘とともに立ち直れないほどの記憶を植えつけられたのだ。まさに演技とは逸脱したいえば神秘的なこわさがそこに痛く上流的で流れていたのだ。戦争の悲惨さ、無念さそれが見るのをやめたくなるほどに感じるのである。私が観た中では、反戦映画でもっとも成功を喫した作品といっても過言ではないだろう。そのチミノ監督の緻密で苦しきリアルをあくまで追及した演出に、痛さを恨んでしまいそうにさえなるのだ。また何か全体的に黒味のかかった色調の強いトーンがその悲壮を重要に浮かび上がらせている。二度と戻れない場所まで容赦なく引き連れていく戦争という現実。その過去を絶対的に忘れさせないそれに恐怖を思うのだ。見なければよかった。そうもたしかに思ったが、反戦の歌は一生胸に鳴り渡るだろうと感じた作品である。

この映画を初めて観たとき、あまりにも心に強く印象に残り、戦争の恐ろしさ、人の心までも凶器にかえてしまうのを目の当たりに見た感じがしました。ウオーケンのロシアンルーレットの場面は今でも目に浮かびます。

どんな凄い戦闘シーンより、鹿を撃つシーンが印象に残ります。一発の弾の重みを、これ程までに感じたことはありません。「鹿は１っ発でしとめなければならない。」というＲ・デ・ニーロのセリフは、生死をかけた自分自身との戦いを感じさせる。

残酷で悲惨な戦争を美化も卑下もせず、反戦を声高に訴えるわけでもなにのに胸に迫ってくるのは、ロシアン・ルーレットをする時のニック（クルストファー・ウォーケン）の虚ろな表情。彼の瞳は終始涙で濡れていた。それがこの映画の哀しさの全て。

ベトナム戦争の物語だと思っていたので、前半、一時間くらいある田舎町での出来事はびっくり。結局、戦争を描くところは少なめ。だけどそれが強烈に描かれていて物語の芯が見えてくる。

デ・ニーロが癖のある役ではなく、いい男でして、こんなに格好良かったんか、と再認識。デ・ニーロポーズはなしでした。

物語は、この頃が全盛期でこの後廃れていく鉄鋼の田舎町のアメリカ人たちの話で、ベトナム戦争は意味づけとしてはあまり関係ない。戦争に行くことによって変わってしまった心から、家族や友とのあり方、を描いています。

最後が秀逸やな。「あれ、この歌はアメリカの第二国歌とも言われている国威掲揚歌やないか、このシーンに・・・」と思ってしまうところがすごい。色々な含みがありますね。

本作は３時間余りの長丁場を３部構成のスタイルでまとめてある。
スティーヴン（ジョン・サヴェージ）の結婚式から、マイケル（ロバート・デ・ニーロ）たちが山上で鹿を追うまでが第１部、ベトコンの捕虜となる戦中シーンが第２部、マイケルとスティーヴンがアメリカに戻ってから、マイケルが再びニック（クリストファー・ウォーケン）を捜してベトナムへ戻るまでが第３部である。
この作品で大きな反響をよんだのは、ベトコンの、ロシアン・ルーレットによる捕虜虐待シーンである。レボルバーの弾倉に１発だけ弾丸を込め、自分の番がきたら、銃口をこめかみに当てて引き金を引くという恐怖のシーンである。実際にベトナムにロシアン・ルーレットはなかったそうだが、この迫真の演出は今でも語り草となっている。
公開当時、このシーンに対する批判が高まり、‘ベトナム戦争の真実を歪めて描いている、ロシアン・ルーレットの場面は作りすぎだ．．．’との評に対し、マイケル・チミノ監督の答えは‘ドラマを盛り上げるためにそうしたのであり、私はドキュメンタリーを作ったわけではない’というものだった。

戦争で傷ついた兵士が帰ってくる話には、第二次世界大戦後を題材にした作品がいくつかあるが、戦勝に湧くアメリカの民主主義を賛美することのできたそれらの作品と違い、敗戦後を描く本作は、全編にわたって悲壮感が垂れ込めており、重く暗い。
この年、同じくベトナム戦争を描いたハル・アシュビー監督の「帰郷」があったが、アカデミー賞は、作品賞、監督賞、助演男優賞が本作に、主演男優賞、主演女優賞が「帰郷」に輝いたのだった。
久方ぶりの再鑑賞で、気づきも多かった。