あの胸にもういちど

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　見たのはもう何十年も前の話です。中学生だったと思いますが、これは中学生が見てはいけない映画だったと思います。
　素肌にレザーのスーツを着て、バイクに乗ってアランドロンに会いに行くきれいな人妻。大人の映画ですから。
　バイクで走りながら途中で回想シーンがたくさん入って速く会いたいという気持ちを表すのですが、最後は悲劇に終るんです。
　妙に印象に残っていて、タイトルもうまいと思います。最近の洋画のタイトルが味気ないものが多いだけにしっとりしてていいですね。

　凡庸な日常から解き放たれる疾走感を、オートバイという道具を使って表現したアイコン的作品だと思います。ステロタイプのエンターテイメントを嗜好する人にとってヌーベルバーグ（ニューシネマ）の文学的表現は不評ですが、見る側に想像力を湧かせるチカラがある作品であれば私はアリだと思います。
　この「あの胸にもう一度」は映像の美しさや郷愁感が好きな作品です。そして内容だけでなく、大げさにいえば日本の市場に根付く特殊な事情と経緯が印象に残る1本でもあるのです。
　公開当時の日本はモータリゼイションの過渡期でした。ごく一部の富裕層を除いて、スタイリッシュに車やバイクに乗るという文化はありません（コレに関しては今でもそうで、多くのバイク乗りはダサいでしょ）。そこへ美しく若い金髪の女性が黒いレザーズを着て、重厚なハーレーFLHに乗って登場しているだけで当時はカルチャーショックだったのだと思います。その証拠といっては何ですが実際にこの映画を観たことが無くても、マリアンヌのビジュアルは知っているという人が多いのです（とくに今の30〜50代）。その理由はポスター（マリアンヌがハーレーにまたがる写真）です。これが当時は大量に売れて（実際には1990年代まで売れ続けたみたい）バイクショップ、喫茶店、バーなど、あらゆる場所で無意識にも目に入る状況があったのです。
　それは1980年代に日本がバイクブームを迎えていたことと関係がありました。このビジュアルがテレビや雑誌の関係者の目にも多く映ったであろうことは、当時の番組や作品に多く影響されているのでDVDなどで観てみればよくわかります。
　この作品は時代の波に乗った形でアイコンとして定着していったのだと思います。以前、バイク関係の仕事をしていたときに感じたことですが、バイクに乗る女性にこのスタイル（この映画で作り出されたビジュアルやイメージ）を求める男性が非常に多かったのが印象的でした。そしてコレを模倣したトホホ商品のなんと多かったことか……（なんちゃって映画やドラマも多かったです）
　これは蛇足ですが、「バイクに乗っています」と聞くとバイクに興味が無い人でも「バイクってハーレーとか？」などと聞き返す場面が多く見られますが、バイク＝ハーレーのイメージを一般に定着させたのは「イージーライダー」だけでなく、この作品も加担している気がします。

マリアンヌ・フェイスフルを鑑賞するためだけの映画（いい意味で）。タヌキ顔バンザイ。

まあ、当時としては因習からの逃避とか、そんなような意味合いもあったんでしょうけどね。終わり方はまるっきりニューシネマだし。

同世代として、マリアンヌ・フェイスフルは憧れの美少女でした。可愛くて、不良っぽいのに品があって、しかもミック・ジャガーの恋人だなんて、私ら女子中学生にとっては、もう夢のような存在。
存在自体がロマンスでした。
ミックと別れた直後の写真が激ヤセで憔悴して、その後、薬物依存でボロボロになったと聞いてたので、これで彼女の人生オワタ・・・と思っていたら、なんと今ではしっかりオバサンになって元気に映画に出ているとは・・・？
今にも消えそうで儚い美少女、あの伝説のマリアンヌちゃんが再生するとは花の命は短くて〜というのはウソ！ウソ！
この作品そのものは、まったく説明の必要のない女の本能。
若さと欲望があれば死んでもいいと思いますよ。理由なんてないの。
アランドロンは、こういうジゴロ役になると最高にはまりますね。

で走る女。それだけ。