きっと、うまくいく

インドの美しい風景を観れます。お話はおとぎ話のようで現実味はないけど、役者さんたちもみんな好きになりました。最期の場面の場所に行ってみたいな。

長い映画と思いきや、あっという間に観終った。

ストーリーは、自由奔放な天才ランチョーを中心とした若者の友情と基本とした、分かりやすいもの。
インド版「スタンド・バイ・ミー」かな？
それに、近代教育批判が入っていて（学長やウガンダ「優等生」サイレンサーが代表）、そのあたりはロビン・ウィリアムズ出演の映画「いまを生きる」と似ている。
という分かりやすいストーリーだけれど、脚本がすばらしい。
伏線が最後までうまくかみ合っているし、時空が入り組んでいるにもかかわらずその切り替えのタイミングが絶妙。
くわえて、インド映画の特徴の踊り（ミュージカル）部分もあまり多くなくて、これなら多くの日本人にも受け入れられるだろうと納得した。
主題歌の「Aal Izz Well」の挿入のタイミングも最高！

ただ気になった点も。
まず自殺する人が多いこと。
ストレスが高いと言えども、こんな突発的に自殺するか？と映画を観ていて違和感を覚えた。
ある国で、ヒンドゥーのインド人の自殺率が高いという話を聞いたことがあった。
そのときは何も感じなかったが、映画を観ていてその言葉を思い出してしまった。
まあ、もちろんこれは映画で、学生の自主性を押しつぶしているという教育批判を際立たせるためなのは分かるが。
もう一つは、卑猥（とみなされる）言葉で笑いをとる場面が多いこと。
インドで女性に対するレイプが多いという社会問題をニュースで聞いたりしたことがあって、私はジョークとしてちょっと笑えなかった。
まあ、もしかすると、翻訳のせいなのかもしれないけれど、ドン引きでした。
それから、ヒンドゥー語がまだ下手な移民の子をおちょくる場面にも違和感を覚えました。
これらも、社会の現状を知るという意味では勉強になりました。

全体としてはおススメです。
どんな部分で自分は臆病になってしまうのかを上手くストーリーに織り込んだり、自分や周囲のことを心配しすぎるな、将来は分からないぜ、というメッセージを繰り返し伝えるあたりは、すばらしい。
人生が上手くいっていないときと思う時などには、間違いなく元気をもらえるでしょう。

インド映画も増大しつつある中間所得層をターゲットにし始めたと感じさせる内容でした。従来の殴り合いをしていた男たちが急に手を取り合って歌いだし女性も加わって群舞が始まるといった「なんでもあり」とは一線を画す出来になっています。なんでもあり映画じゃないと大衆は払った金の元が取れないので満足しませんでした。彼らの苛酷な日常を映画を見ている時ぐらい忘れたいという気持ちは理解できます。

しかしこの映画では大規模な群舞もやアクションシーンも抑え気味です。代わりにインドの教育制度への批判に多くの時間が割かれます。少数の手を汚さないエリート層への反感も感じられます。また従来は宗教的な理由からなかったキスシーンや出産シーンなどもあり欧米の影響が強まったという印象でした。今後この分野での刺激は益々強くなり後戻りはできないでしょう。

改めて主人公たちの顔を見てみると皆高いカーストの顔です。この映画でもカースト制度についてあからさまな批判はありません。映画のなかでも描かれる学生の高い自殺率のなかには下層カーストと一緒に教育を受けたくないという上層カーストの学生の抗議の焼身自殺（！）や逆に疎外された下層カーストの若者の自殺などが含まれています。

今まではカースト制度の持つ互助会的なsafty net機能が働いて不況に強い体質があったのですが今後は欧米化近代化している中間層に対し圧倒的に数の面では多い低所得者との格差の拡大、特に最近のITの発達によるITリタラシーの有無による格差も加わり社会の不安定化に向かっているという気持ちを強くしました。

言わずと知れたボリウッド作品中で一押しの作品。
先のインド映画ブームの折、「ムトゥ踊るマハラジャ」を観て、面白くはあるが前時代的な価値観で作られているなあ、と感じていたのですが
第２次ブームのこの作品、インド映画に付き物の様々な規制をクリアしながら、社会派的なテーマを扱うようになった点で随分と世界市場を意識しているように感じます。
世界第二位の人口を抱えてはいるものの、多くの国民が貧困にあえぎ、ダリットというカースト制度も残る国。
でも映画で見るようにハイテク産業も盛んで今期の「医龍」でも紹介されたように医療ビジネスも有名になりつつある、現代社会の矛盾が共存する国でもあります。
そのインドで勝ち組になるためには、生き馬の目を抜く弱肉強食の世界での生存競争が当たり前のことなのでしょう。
映画では、そういった問題を風刺しつつ、首つり自殺のシーンも一瞬で、そして「踊るマハラジャ」時代ではあり得なかったキスシーンも頗る健康的に描きながら
インド国民の老若男女誰もが楽しめるよう、過激な表現を抑え、それでも友情や正義といった大切なテーマを主人公のランチョーの人生に掛け合わせて描いています。
いじめの慣習や禁忌語など、インドのお国事情がよくわからず、映画での表現がイマイチ理解しづらいところもありますが、大筋の展開は分かりやすく共感できることが
多いので、久々のインターミッション（途中休憩）付き作品でしたが、勢いで観ることができる作品でありました。
ハッピーエンドで終わるであろう展開は終盤になれば読めるほど、単純なストーリーですがインターミッション直前では主人公ランチョーの意外な生い立ちが判明し、
身分差別や貧困だけでは終わらない、どんな矛盾も許されるんだ、という大国インドの大国らしさが窺えました。
やっぱりインド映画は、ある意味ですばらしい。そんな感慨を残す作品です。

感動のストーリーを期待している人は裏切られるでしょう。「ムトゥ　踊るマラジャ」ワールドを期待している人はまさに浸れると思います。
テーマ、ストーリー自体は考えさせられるものであり、よく練られていると思いますが、いかんせん、「んーインドの人にはこれが欠かせないのか！」的な展開があり、正直、自分には微妙です。
ハリウッドがリメイクしたら、なかなか感動的な作品になるんではないか？と思っています。