キラー・インサイド・ミー

　保安官助手ルー（ケイシー）の考え方、行動、殺し方がホラー。殺人の動機が突如目覚めた個人的美学に基づいているようで、周辺の人たちが過去の経験則から彼の反応、行動を予測しようとしても不可能になる。娼婦ジョイス（ジェシカ）との出会いがルーのＳ的美学を覚醒させたのだろう。
　彼の完全犯罪を意図した行動は、50年代のテキサスという田舎暮らしのせいか全く洗練されてない。追求する側も同じく決め手に欠けているが心理戦はなかなか楽しめた。ケイシーの無表情な演技は不気味だが、私的に芸人の有田とダブって見えたのはややマイナスだった 笑
　レビューをこうやって書いてみると、どこがおもしろかったのかという感じだが、観てる間ずっとおもしろかった。ノスタルジックな雰囲気と描写される犯罪がぴたりとマッチしたのかな。


※レーティングは、A+,A,A-＞B+,B,B-＞C+,C,C- の9段階。

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　好青年な保安官の主人公だったけど、実はとんでもないサイコパスでそんな人の日常の話。

　無表情で淡々と喋る主人公のケイシー・アフレックが素晴らしい映画で、自分の障害となる女性をいきなり殺したりする胸糞悪くなる人物を演じていました。理由もよくわからずいきなりボコ!　と殴りつけて殺していくのはかなりきついです。
　モノローグが多く多用されていて主人公の気持ちがわかるようになっているのに、全く何を考えているのかわからないままの映画でした。

　ただ何を描きたいのかが散漫な印象で、サイコパスを描くホラーなのか殺人を犯した主人公が追いつめられていくサスペンスなのか異常性愛を描く内容なのかすべてが中途半端でした。主人公を怪しむ検事さんとかもそこまで追い詰めてくる感じではない恐ろしい存在とかにも見えなかったです。

　好き嫌いがハッキリ別れそうな映画でしたが、不気味な映画で最後まで集中してみることができました。

何を考えてるのかよく分からないケイシー・アフレックがまっこと見事にジム・トンプスンらしいキャラクターを作り上げることに成功しております。
それに比べると女優陣2人はちょっと見劣りするかな、という部分もありますが、やたら曲者揃いの脇役陣と合わせて及第点。

何よりラストは原作を改変して映画性のある終わらせ方にしており、これが中々気に入りました。原作ファンとしては文句ありません。

　たいへん面白く観たので、レビューが酷評の嵐なのにビックリ。確かに冷酷な殺人犯のオハナシだから楽しい気分にはならないし、主人公に共感も同情もしないのだけど。ただ、主人公が自分の中に潜む何か（＝内なる殺人者）に気付き、それを解放するようにまるで「必然」のごとく人を殺していく様が、心をざわつかせ引き込まれてしまった。人間をこんな風に描いてしまうジム・トンプソンという作家の特異性を思わされる。

　本来、人間は混沌として整合性のない闇の部分も多く抱えている存在だと思う。人の心は割り切れない。そんな「余り」の部分を自我がひとまとめにして、自分の中で折り合いをつけて精神の均衡を保っている訳だが、その「統合」の作業に寄与し、無意識の中に混濁したものを掬いあげて意識の光明の下に晒し、時により崇高な次元へと昇華させてくれるのが小説や映画の一つの役目だと思っている。ごっちゃごちゃのお部屋をキレイに整えてくれる収納王子コジマジックみたいなもんね。（違うか）

　ま、ともかく、その意味で美しく整えられたドラマツルギーがカタルシスを与えてくれるのは当たり前なんだけど、この映画の場合は、ごちゃごちゃを案外ごちゃごちゃのままに見せてる感じ。見せる収納？（さらに違うか）　分からないものは分からない、でもこういう衝動はあるんだって事なのか、正視できないくらいの暴力描写は嫌悪感を催すけれど、もしかしたらそれは自分の中にもそんな心性があるが故の防衛反応なのか、あ〜ホントに分からないけど、でもたぶん人間ってこんな不可解で恐ろしい部分も持っている気がしてならない。世の中にはたくさんの悲惨でおぞましい出来事が溢れているのだから。金を無心する放浪者の手のひらにジュッと煙草の吸いさしを押しつける主人公の姿に、震撼すると同時に、私は何かキュッと心が痛む感じを覚えてしまった。生理的に嫌悪感を覚える相手に対して、具体的な行動こそ起こさないものの心の中では確実に悪意を発動させている自分に気づくことがある。主人公ルーの姿にはそんな偽善者の自分がチラと映り込んでいた。これは共感ではなく内なる自分との対峙なのです。むぅぅ。
　

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ジム・トンプスン原作「The Killer inside me」・・・
何か他人事のような言い回しだが、俺の中の殺し屋、それこそが主役である。
しかし映画の方はどうだろう。残念ながらルー・フォードそのひとが主役だった。
つまりケイシー・アフレックに「俺という殺人者」を延々と演じさせている。

原作は1952年、丁度60年前に発表されたので当時、殆どの人間に無視された事は容易に想像がつくが
トンプスン死後、評価された点の一つに、この恐るべき人間の姿を通した虚無的な後の半世紀への洞察が挙げられるだろう。
主役をアメリカの“どこにでもいる”ルー・フォードという名にし、小説の語り手にしている。

その南部訛りのヴォイスオーバーをも担当したケイシー・アフレックのミスキャスト説が囁かれるが、それを言うなら、
本作でもラジー賞にノミネートされ、最低助演女優賞を贈られたジェシカ・アルバだろう。あんなに体を張っていたはずだが！？

申し訳ないけれど、殴打シーンで変化が余り感じられなかった。それほど初めから生の雰囲気（人間としての生々しさ、その演技）
を持っていなかったという事なのか。
娼婦ジョイスとの出会いはルー・フォードが長年（15年間）押さえつけてきた殺人衝動に駆られていく大事な導入部だと思うので残念。

60年前の時代設定もそのままで、原作に忠実だった。しかし何か大きく殺ぎ落とされている印象なのは、現代に照らすものが無かった。