仕立て屋の恋

　仕立て屋のイール(ミシェル・ブラン）がとても可哀相だと思う。それ以上のなにものもない。
　イールを観ていると他人事とは思えない。のぞき見したのは悪いけれど、見られる快感に目覚め、イールを誘惑したアリス(サンドリーヌ・ボネール)は、なにも責任を感じていないのか。女はみんな小悪魔だ。
　モテナイ男は自分をよく分かってはいるが、ちょっとしたきっかけでその気になりやすい。あらぬ妄想をすぐ描いてしまう。夢が現実になると思い込む。でもそれはやっぱり夢だったってことに、いつか気づかされるんだ。奇跡なんて起こり得ないんだ。
　アリスは不思議な女だ。イールがのぞき見する以前の体験を告白しはじめたときの、蔑んだような、憐れんでいるような、あの目は、女のどんな心情なのか、私にはよく分からない。愛の欠片はあったのか？女という生き物が分からない。
　この映画は女が悪いのではなく、モテナイ男は永遠にモテナイのだと、言っているような映画だ。下手な人生賛歌でないところが、逆に真実めいていて気分が良かった。強がりではなく…。★★★★

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『愛は美しく尊く、相手を思いやる温かな安らぎのあるもの−』
だと思います。でも、愛した相手に必ずしも同じように愛されるとは限りません。むしろ残酷で哀しく冷たい仕打ちを受けることもあります。


変人で嫌われ者のイールは、近くで起きた殺人事件の参考人として刑事から執拗にマークされています。
そんなイールを近所の人たちはますます敬遠し、誰も相手にしません。また、イール自身も他人に対して心を閉ざした毎日を送っています。そういう孤独な日々の中で、イールの唯一の楽しみは向かいのアパートに住む若く美しいアリスの部屋を覗き見ることです。
朝から晩まで窓辺に立ち、アリスを盗み見ています。
そうしているうちに次第にアリスを愛するようになりました。
イールは心からアリスを愛し、真剣に「ある出来事」からアリスを救おうとします。そして永遠にアリスを愛し、護ることを誓います。
まさに尊く美しい愛です。
一方、アリスは最初から全くイールには好意のかけらも感じていなかったのだと思います。いくら愛を告白されても、永遠の愛を誓われても、アリスの気持は恋人のエミールと結婚したい、ただそれだけ。思わせぶりな態度も誘惑も、全ては愛するエミールのため。

哀しいかな、イールの一人芝居です。いくらアリスを愛しても尽くしても、アリスには全く伝わらなかったのです。
イールの真摯な気持を残酷にも裏切ったアリスを、とてもひどい女だと多くの人は思うでしょう。
でも、わたしにはアリスの気持が痛いほど良くわかるのです。
女って、いくら相手に愛されても尽くされても、ダメなものはダメなんですね。他に好きな人がいる限り、受け入れることが出来ないのです。本命の彼との愛がいくら絶望的でも、自分が彼を愛している限り、やっぱり忘れられないのです。
好きになろうとして努力をして好きになれるものでもないし、そう簡単に気持を変えることはなかなか出来ないのです。

本当にイールには申し訳ないのですが、彼の空回りで終わってしまいました。でも、彼は「後悔はしていない」と最後に言っていますね。それは多分、本心ではなくプライドだと思いますが。
ラストの、刑事に宛てた手紙がとても哀しいです。
結局、幸せになる人は誰もいないという、厳しい結末ですがこの場合それも仕方ないかなと思います。

このイールという主人公は嫌われ者で毎晩女性の部屋を覗いている世間的には気持ち悪い男性なのですが、映画を観てるときはさほど気持ち悪さは感じませんでした。
現実にこういう方が居たら気持ち悪いと思うのですが、イールの孤独さアリスへの愛に途中から切なくなり観ました。
イールという男性は世間の嫌われ者ですが、アリスとその恋人の方が実際はかなり性悪です。

アリスは愛する男性のためとはいえ、イールへの仕打ちはあまりにもひどすぎます・・・。
最後にイールがアリスにかける言葉に胸を締め付けられました。
アリスへの愛、そしてその結末があまりにも切なくて、映画館で観たときに涙が静かに溢れ出て、しばらく立てませんでした。
正直、とても悲しくなるので何度も観たくなる映画ではないのですが、とにかくものすごく切ない映画でした。

ただ、好みは分かれる映画だと思います。
私も主人公が日本の禿げたおじさんだったら、違う感想だったかも・・・。（ゴメンナサイ）

サンドリーヌ・ボネルが好きで観ました。
いやー、やはりルコント、どよよ〜んと湿った空気がよどんでます。ストーカーにあった事がある、もしくは現在被害を受けている最中の方は観ない方がいいかもしれません。

　自分がイール氏ばりに社会的適応性がないんで、音楽聴きながら凝視しちゃうあたり、妙に親近感がわくっちゃわきますが、
イールさん、ヘアスタイルの問題で顔の表面積が多い分、暗がりでも目立ちすぎです。そりゃボネルもびっくりです。（稲光のシーンはちょっと笑える）
　ヒロインの姿を求めてボウリング場やスケートリンクなどにイール氏の姿が現れますが、これはもはやイール氏の妄想ではと思うくらいの違和感で、めくるめくものさえ感じるような。

ヒロインはイール氏をただ利用したのか？　
それとも愛のかけらも持ったのか？
解釈はいかようにも。

「ピアニスト」しかり「髪結いの亭主」しかり、
おフランスのアムールの映画は、相手もしくは自分を傷つける事すらも愛の表現なのかもしれません。（ただの勘違いのはた迷惑の可能性もあるけど）

ルコントは今回も観客の心の中で玉虫色に輝きを変える謎を投げかけたんでしょうか。

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この男女の悲しいところは、行き着く先はやっぱり一緒じゃなかったというところですね。
最初っから違っていたけど、それを結局は変えることができなかった。
イールは努力したのだが、でもアリスのエミールへの気持ちは変えられなかった。
イールも淋しい男だが、アリスも悲しい女である。
卑怯な男を愛してしまい、そしてイールを選べば優しく愛されることが保証されていたのに、やっぱり選べなかった。
もともと平行線だった2人に最後の結末は、悲しいけどなるべくしてなったような気がした。

印象的なシーンがある。
それは、可愛がっていたたくさんのハツカネズミを旅立つ際に線路に放すシーンだ。
彼の気持ちを考えると、なぜああいう行動に出たのか、とてもせつなくなる。
とても悲しくせつないラブストーリーでした。
なるようにしかならないすごく現実的な悲劇ですね。

人目を気にしながら腕などを触るシーン。
あれはすっごくドキドキして、濃厚なベッドシーンなんかよりもずっとエロスを感じました。
こういうシーンの描き方って、『髪結いの亭主』のシーンといい、ほんとルコントはうまいですね〜。

最後に、イールの顔が闇の中で雷によって現れるシーン、めちゃめちゃこわかったです（苦笑）