チャーリング・クロス街８４番地

これは思いかけず大変良い作品でした。これというストーリーがあるわけではなく、淡々とニューヨークに住むヘレンと、ロンドンの古書店の本を探す生真面目なバイヤー、フランクと古書店員たちの手紙のやり取りが続きます。２０年以上も。
英国の戦後からエリザベス女王の戴冠式あたりまでの中産階級の生活が丁寧に描かれ、印象的でした。特にアンソニー・ホプキンスさん、奥さん役のジュディ・デンチさん、渋い演技ですばらしかった。

私も古書店をあるくの好きです。厚みがあって重工な装丁の本を手に取る楽しさは、便利ですけど電子本では得られませんね。おすすめします。

時は５０〜６０年代。
アメリカのユーモアあふれる女性作家が、古書を求めて、
イギリスの老舗書店に手紙を送るところから物語ははじまる。
本の注文だけだったそのやりとりは、いつしか文通のようになっていって…。

ところどころにはさまれる文学論、引用、古い本の魅力。
まだ見ぬ人とのあたたかい交流。
本好き、古いもの好きの私としては
世界観だけでも引き込まれる映画でした。
あんな素敵な書店で、働きたいです！

そしてセリフや展開のテンポもとっても心地よかった。
ラストシーンをもっとじっくり描いてほしかった気もするけど
これはこれでいいのかなーという気も。

　アクションなし、恋愛なし、大事故なし。
　心に染みる作品でした。
　個人の人生にはこういう出来事というかつきあいというか偶然始まり続いていく人間関係、心の機微の流れがある。心の交流すべてが善意で回り出すって、あるし、もしかしたら一番幸せを感じられる人間関係じゃないだろうか。

　自分の労働（時間）をいかに高く評価させるか（稼ぐか）という競争（経済）にどっぷり使っている現代ですけど、あるがままの人間ってそうじゃない。最初はただの親切や善意がめぐって、心のWinWinになるのも人間の本質的な一面。天国にはお金は持ってけないし多分無意味。結局、死ぬ時しあわせに思えるかどうかが大切では？

　「ミステリーな人物」に惹かれる観念性も人間の一面。「惹かれる」ことと「恋愛感情」の近さも事実。またその基礎に相手への敬意がある。なければすぐ破綻する。

　ブリテンの戦後の貧しさ（戦争の痛手は戦勝国でも大きかったのですね）、アメリカの伸びゆく豊かさ奔放さも、へぇ〜っと感心しました。

「人が死ぬと章が閉じられるのではなく、その章は開かれたまま書架に置かれるのです」って良い言葉だと思いました。

　期待しないで落ち着いた気分の時、観て下さい。私的に４．５。

これは良かった。

ニューヨークの読書好きの劇作家とロンドンの古本屋店主の
文通による心温まる交流を描く。
ずっと手紙の朗読だけで進んで行くという地味な作りだが、
アン・バンクロフトのこなれた演技がうますぎる。
彼女を「卒業」だけでしか知らない人には是非見てほしい。
アンソニー・ホプキンスはまだ若さがあるが、いい演技だ。
「日の名残り」と並んで代表作かもしれない。
彼の傑作は、決して「羊たちの沈黙」などの色物映画ではない。

途中、デヴィッド・リーンの「逢引き」のシーンが出て懐かしい。
もともと本作は「フィッシャー・キング」のマーセデス・ルールが
出ているのでずっと観たかったのだが、何となく見逃していた。
で、やっと観たけど、彼女は完全に脇役で個性が生かされておらず、ちょっとがっかりした。
でも作品自体が素晴らしかったので満足だ。

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セルDVDには中年の恋愛っぽいことがかいてありましたが、全然違います。

アメリカ人の女流脚本家と、イギリスの古書店員の本の売買を通して芽生えた友情物語。実は原作とDVDでは少しストーリーが違います。戦後のドルが強かった時代だからこそ、イギリスから本を買えたというバックグラウンドがあるのですが、すぐすぐ絶版になって本を手に入れられない現代でも、通じるシチュエーションです。

古書を買うには少しマニアックな知識が必要だったり、偏った嗜好が当然あると思うのですが、それを相手は商売だから易々と理解してくれる。シニカルな女流作家と、ウィットに富んだ古書屋がお互いを好もしく思いながら、友情を育んでいく。その友情が書店や女流作家の友人も巻き込んで暖かい和になっていく。

書簡でのやりとりなので、ナレーションが多いのですが、アン・バンクロフトのざらついてハスキーな癖のある声と、アンソニー・ホプキンスの穏やかで少しセクシーなクイーンズ・イングリッシュのやりとりが素敵です。