ガープの世界

　綺麗すぎる！
　しかし、こんなガープの世界もあるのかも知れない。アーヴィングの原作をまだ読んでいないひとは、（両方を鑑賞する予定ならば）この映画から先に観るのが得策にも思う。作品としては、ハリウッドっぽくお行儀良く草を刈り込まれたように、売れっ子作家アーヴィングが主人公のアイドル映画という感じだけど、こういうのはアリだ。山登りなんてしたくない！ と思っているひとを、こっそりとどこかの頂へ連れていけるかも知れないのだ。

　この作品については、やっぱり観ることでしかこの作品はありえないわけで、いくら刈り込まれた芝生でも、要素はいくつも入っている。観たもの同士、それらについて語り出したら切りがなくなるほどかも知れない。あるいはこの先、思いも掛けないところでこの作品に通じるような場面に出くわすかも知れない。なにげなく散歩をするようにこの作品を観たらなにかを踏んづけて、靴の裏に知らずにべったりと何かを貼り付けて歩いてきてしまった、ということになるかも知れない。

　愚かさもひっくるめて慈しみあえたら良いですもんね。なんて思うこともほんの一部のこととして。

ジョン・アーヴィングは、『サイダーハウス・ルール』しか読んだことがありませんでした。あーばかばか。

見終わって思いました。

絶対読みます、原作。

２０年ほど前私の映画好き仲間の一人が、僕のベスト１は「ガープの世界」です、と言ったときの顔が妙に思いつめていたようだったので、なぜかずっと観るのをためらっていた。
ようやく観ることができました。もっと早くみるべきだった、ごめんね。
冒頭ポールの歌When I'm Sixty-Fourが流れ、赤ん坊が宙に舞い上がるのを見たとき、反省しました。私の思い込みはなんだったんだろうって。なんかとんでもない映画だと勘違いしてたんですね。
「ガープ？」「ガ−プ！？」それはビックリするわ。観ればとってもよくわかる、考えさせられる映画でした。
そのわかりやすさは、母親と息子（ガープ）の対比としてのわかりやすさです。母親は、肉欲（情欲）を理解できない。この理解できなさの描き方がまた面白い。息子は出生の事情はどうであれ、いわゆるまともな男として育つのです。恋をし、不倫をし、結婚生活が破たん寸前まで行ったとしても、母親にはそれを理解する度量と傷を癒そうとする愛情は人並み以上にあるのですね。その細やかさが他者へとも向うがゆえに、彼女は女性解放運動に関わらざるをえない。そのように自分の確固とした信念に基づいて行動する彼女に対して、一方の息子はじつに人間らしい愚かさと優しさで人生を生きる。
この二人はそれぞれのリアルを生きている。その生き方が作家としての二人が書く小説の内実として描かれます。母親は大部の自叙伝を書きあげれば、あとは行動あるのみです。息子は生来の空想好きで小説を次から次と出版して成功するが、現実生活の苦渋に対して衝動的な行為に出てしまう。映画を観ながら観客は、忍び寄る悲劇をひしひしと感じるのですが、それはこの映画が最初から最後まで貫く「生と死」の問題をすでに見定めているからです。したがって観客にとって注目は、彼がそのあとどう変わるのかです。
彼は、母親と同じ「政治的な」小説（最後の）を書くのですね。しかしそれは、母親の（イデオローグとして祭り上げられた）思想的立場への異議申し立てだったのです。ここで映画は一挙に政治と暴力の世界へ足を踏み入れます。この映画は、日常的であることは政治的であることを語ります。母親のリアルと息子のリアルは、一見すれちがうようでいて接近していくのです。
ユーモアを交えつつテンポのよい短いシークエンスを積み重ねながらガープの一生を描くこの映画は、重いテーマながらも、ビートルズの曲にのせて希望を感じさせてくれるものでした。私としては昨夜、ＮＨＫのスペシャルで「貧者の兵器とロボット兵器」を見たばかりで、現実の「非対称性」について暗鬱な気持ちになっていたので、やけっぱちな思いから多少とも救われる気がしたのでした。

原作を損なわない出来栄えです。アーヴィングの世界観をそのまま見ることができるのも、脚本と役者が良いからでしょう。心が疲れた時、繰り返し見る種類の作品です。癒されはしませんが、一生懸命に不条理な世界で生きてみようと思うことができます。

数々の作品が映画化されているジョン・アーヴィング原作の映画。

生まれた時のこと、幼少時代、青年時代、仕事、結婚、子供・・・・ガープという一人の男の人生がダイナミックに描かれているヒューマンドラマ。

ガープも素晴らしいけど、お母さんも素晴らしい。
この映画では、「親子」の関係について考えさせられるシーンが多々あります。
ガープとガープの母親、ガープ夫妻とその子供、そして子供失うことになる二人、子供を望めないゲイのアメフトプレイヤー・・・・などなど。

また、この映画は、「嫉妬」という、人としては厄介だけど誰しもが生きている限りは必ず付き合っていかなければ感情が、非常に効果的に巧妙に物語に織り込まれていて、関心してしまいました。
ガープに対するプーの嫉妬、妻に対するガープの嫉妬・・・・逆に嫉妬という感情に縛られずに生きている人として、ガープのお母さんやゲイのアメフトプレイヤーなどが対比的に描かれていたりします。
おそらく、人生において人が葛藤する局面に陥るのは、たいていが「嫉妬」という感情がもとなんだと思いますが、そのことがもたらす悲劇も含め、巧妙に描かれていました。

そして、観ていて、自分自身に置き換えたり、自分に身近な人と自分の関係に置き換えたり、いろんなことを思った映画でした。

誰しもが経験する人生の痛さと優しさが描かれたステキな映画です。

もう何度も観た映画ですが、ふとした時に無性に観たくなる映画の一本です。