あの胸にもういちど

「あの胸にもういちど」（1968年、イギリス／フランス、カラー、91分）。

英題「The Girl On A Motorcycle」、仏題「La Motocyclette」。

不思議な映画です。

公開時は、子供だったので、見ていません。
アラン・ドロンの人気があった70年代、TVの洋画劇場で見たのが初めてです。
ドロンは脇役で、主役は、マリアンヌ・フェイスフル（1946生）です。

素裸に黒革のフルスーツを着て、ハーレー1200のバイクで疾走する彼女に、「格好いいいぜ」と拍手を送る。

冒頭、ドラムの音、蒼黒い車道に走り出る。
センターラインは、最初は白。
英題、役者、監督名は黄色い文字。
「MARIANNE FAITHFULL As Rebecca」が斜めに出る。バイクのハンドル操作だ。
車道の中央線は、黄色のハレーションに負ける。衝突まで90分。

これを夜にすると「ロスト・ハイウェイ」（1997）の冒頭になる。
デヴィッド・リンチ（1946生）は、この映画を好きだったのだ。

取り立てて、言うほどの物語はない。
女は、まっすぐ男に会いに行く。ただそれだけ。

ドロンがハイデルベルクの大学教授？　全く似合わない。
現実は、1200で疾走する女だけであり、彼女の記憶のなかで、男は影のように登場するにすぎぬ。

記憶が現実を越えるようになったのは、近代小説の特徴。
プルースト、ジョイス。
記憶がドラマになる。しかし、それは退屈だ。トルストイの「戦争と平和」のほうが面白い。

短編であれば、映画向きであり、この映画は成功作。
「バイク」という無機的な原題を、「あの胸にもういちど」という情的な邦題に変換した東和のスタッフに賛辞を贈りたい。

作品紹介がすべてを物語っているようなので、あまり
内容について触れることは無い。
女の身勝手な妄想と行動を、眉を顰めつつ見る。
「触れてくれたら行かないのに」と言って夫の下を去る
妻の姿からしていただけない。これといったダメダメな
理由もないのに逃げ出すくらいなら、結婚しなければ
いいのに。自己陶酔が美化されすぎて駄目。

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20代前半の頃、原作の『オートバイ』を読んだことがあるけれど名作なのだろうが、「バイクとエロ」という印象しかなく、途中で読むのをやめてしまった。まさかあんな結末だったとは。もう一度きちんと読んでみよう。

マリアンヌ・フェイスフルを知ったのは最近観た「やわらかい手」だ。
若い頃はとっても細くて美しくて猫のように可愛いのだけど、目や顔つきは今もそんなに変わらないので現在の中年姿がチラチラとよみがえってしまった。「やわらかい手」では平凡な中高年主婦の役なのにどこか内面からにじみ出るセクシーさがあり、場違いなおばさんのはずが何となく店になじんでいる事に違和感を感じたのだが、若い頃のコケティッシュな風貌を観て納得。

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サーカスの夢からパンチを喰らう。
エッチなシーンはサイケデリックで構成される。
エクスタシーの映像化を図ったのだろうか。
このアバンギャルドさは、ときどき出てくる。

主人公のレベッカにはずっと笑わされた。正直、嘲笑いだ。
最後まで、ばっかじゃねーのって子です。（いい意味でもないけど悪い意味でもない）
最後までっていうか、特に最後がばっかじゃねーのって感じです。

まず、ナルシストぶりに笑かされる。
色っぽい黒人警官にセクハラ的な尋問を受けるのではないかと心配（実は期待）したり
（結局、レベッカのお昼寝中の夢の話で、現実にはスルーされるのも冷笑）、
街のカフェでは、よその男性客からの視線に恍惚状態になったりする。
そして、妄想劇場もはなはだしい。しかも色ボケ。
私は途中で、もしかしてダニエルなんてレベッカの妄想上の人物なのではとすら思った。
いや、まさか本当に妄想上の人物だったりするかもしれない。
だって突然、窓から侵入してきた男に体を許す？？
レベッカの願望じゃない？最終的には会えないし。
あっでも、ダニエルが生徒にＹ談を説いてるシーンもあったなぁ。

たしかにダニエルという男に惹かれるのはわかる。
たとえ、自分に気がないだろうとも、あの冷たさと強引さにまいってしまう。
私もたぶんマゾなのだろう。
レイモンみたいな退屈な男の方が幸せにしてくれることはわかってる。
しかし、涙を流してでもレベッカは、アバンチュールへと向かうのだ。　
財布も時計も忘れて。（どんだけ、あわてんぼうさん？）

まさに、中毒症状。

最後の鐘🔔がよかった、若気の至りでした。