リチャード・ジュエル

1996年のアトランタオリンピックで爆弾事件があったとは知りませんでした。
正義感が強すぎて？無実の罪を着せられた警備員のリチャード・ジュエル。
合衆国政府とメディア。こいつがクロだ、と狙いをつけたら、どんなことがあっても有罪にしてしまう。
新聞を読み、テレビをみる私たちも、それが真実だと信じてしまう。
事件が起こると捜査官がおおぜい家宅捜索に来て、何もかもダンボールにつめて根こそぎ持って行く。
自分は無実だ、大丈夫だ、と信じていても、何を証拠に有罪にされるかわかったものではない。
おそろしいことです。

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　考えさせられる映画だった。リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は権威信奉主義なところがあり、自分が犯人扱いされているにも拘わらず、積極的にFBIに協力している。すぐにモノに触りたがったり、へんな正義主義があったり、稚拙さと劣等感が入り交じっている。依頼した知人弁護士ワトソン(サム・ロックウェル)に反発する。「デブだ脂身だといわれても、あんただけが人間扱いしてくれた。あんたのようには出来ないが、俺は俺だ」こういう心情はリアルに理解できる。
　ここに描かれるのは権力のウラでの取引や犠牲ということだろうが、さらに裏では大衆の熱狂という魔物が見えてくる。メディアのすっぱ抜きも、オリンピックの金メダル選手も、FBIの権力誇示も、私たち大衆の目がそれに飛びつくからだ。英雄を作り上げるのも、犯人に祭り上げられるのも、決して他人事ではないだろう。ましてや現代ではSNSで容易に発信することが出来る。何が真実でデマかは分かりづらくなる。たぶんもっとも分かりやすい正義か悪かで二分されるだろう。しかしそんな簡単に真実は判定されるものではない。
　イーストウッド監督は現代の情報氾濫や、それにより相手を殺めてしまう人たちのプロセスなど、警鐘的な意味があったのではないかと思う。リチャード・ジュエルは被害者ではあったけれど、彼が行きすぎた権威をふるって、反対にだれかを犯人扱いして英雄になった可能性もなくはないのだ。★★★★

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爆弾を見つけ人々を助けた警備員が犯人に仕立て上げられそうになるという実話を元にした恐ろしい映画です。最終的には無罪となり、ホッとしましたが危ない展開でした。お母さん役のキャシーベイツの演技がとても素晴らしかったです。お薦めします。

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人生は点ではない
線なのだ
長く続く線なのだ
一時的な視聴率の点ではなく
一時的な購買率の点ではなく
一件の単純な事件でもない
人生は犠牲だ
アホとクソに踏みつけにされ
その時間を
その誇りを
その真実を捧げる犠牲そのものだ
犠牲にして
犠牲にして
犠牲にして
再び光を浴びる場所は
もとの場所ではない
その場所には
二度と戻れはしないのだ
「すみません」も
「申し訳ない」も
「悪かった」の一言もない
世界は次の点を求めていく
傍観者は次の点を求めている
正義を振りかざす愚か者は
次の点を求めていく

天下のFBIの捜査があんなにも「ずさん」でいいわけ？
報道メディアの取材が裏取りもしないでいいわけ？
あんなアホばっかりでいいわけ？
最初も最初にすることを
スルーして進む恐怖にかられることはないのかい？
それで不安にならんのかい？
それすらも麻痺しちゃったのかい？
おい、そこの捜査官よ
捨て台詞？
ダサさの極みだなオイ
おい、そこのマスコミよ
勝手に後悔して泣いてんじゃねーよ
お前には後悔すらする権利もない

泣くような物語ではないと思っていましたが
色々感情が揺れ動いたせいなんでしょう
最後の最後の後日談で
涙が溢れてしまいました。
怒りやら何やら渦巻いていた感情が
出口を探していたんだと思います。

主演の方は上手ですね。
途中、無性に腹立ちます（笑）
おい！黙れ！と（笑）
ちょっとズレている
そしてタイミングが悪い（笑）

プロファイリングで犯人像に一致したからっていうんだけど、リチャードがもしスリムでハンサムなイケメン男だったらどうだった？
あるいは彼の家が名門で当主が代々街の名士であるとかだったら、ＦＢＩは第一発見者だからといっても、簡単に容疑者にはできなかったのではないか。
良くも悪くも、人は見た目やイメージで相手を判断する。これを全否定はできないのだが、公権力を行使する側の人間はよくよくわきまえて、法と理に基づいて職務を執行しなければならない。これはマスコミも同様である。

事のきっかけは、リチャードが警備員として働いていた大学の学長が、事件を見て彼の素行についてＦＢＩにチクったことだった。
そこからＦＢＩアトランタ支局はプロファイリングでリチャードを容疑者に仕立てた。ところが、その機密情報が洩れ、アトランタ・ジャーナル紙がそれを報じたことから彼と母の運命は一気に暗転する。
作品では、情報を洩らしたのはＦＢＩの捜査主任で、アトランタ・ジャーナル紙の女性記者が色仕掛けで彼から情報を得たことが映されている。捜査主任と女性記者はどちらも自らの立場と手柄が大事で、人権に対する配慮は無いように見えた。弁護士がついていなければ、リチャードはいとも簡単に犯人にされていたのだ。ただ、リチャードはやや教条主義的で柔軟性に欠ける部分はあったかもしれない。また生真面目で権威を重んずる性格から、マスコミに対する警戒感も薄かったのだろう。

特典映像でイーストウッド監督は「いまだに彼を犯人と考える人もいる」と言い、製作のティム・ムーアは「クリントは、リチャードの爆弾犯のぬれぎぬを晴らしたかった」と監督の気持ちを代弁している。そして彼らが最も伝えたかったのは、弁護士のワトソン・ブライアントが転職するリチャードに戒めとしてかけた次のことばだろう。
「いいか、リチャード。バッジを付けても、クズ野郎にはなるなよ」「権力をもつと、人は怪物になるんだ」と。
このセリフに作品内容のすべてが、真実が集約されている。リチャードに起きた悲劇は、世界中のどこでも、誰にでも起こり得る。

ところで、ラストのほうでリチャードは弁護士とともにＦＢＩ支局の一室で審問を受けるのだが、その廊下の壁に南北戦争時の南軍旗が飾られていることに気づいただろうか。廊下で会話中の人物の背景としてなんども映されている。私には、これは意図的にカメラのフレーム内に入れられたように思えた。考えてみると、これはおかしなことである。ＦＢＩは連邦政府の機関なのだから、合衆国の現国旗(星条旗)を掲げるのが当然なのである。
これは、この冤罪事件について、ジョージア州アトランタという地の風土、社会の空気の影響を示唆する巧妙な隠し絵である。