ファントム・スレッド

まずアカデミー衣装デザイン賞をとった、上質のドレスの数々に圧倒されました。
朝食の部屋のウィリアム・モリス調の壁紙、ロンドンのタウンハウスの古さと新しさ。
「鑑賞」に耐える品々の質の良さでした。

好きな場面は出だしの、ダニエル・デイ・ルイスの身支度場面。あの短いシーンで、彼の何たるか、
几帳面で妥協をせずに、美に徹底的にこだわる人生を描いていて、うまい。

いや〜　オートクチュールの作り手で、完璧主義、ルーティンで固められた生活を送る主人公が、自由でウェイトレスだったサプライズ好きの若いアルマと、どうなるかが物語の本筋です。
その縛り方、結局ふたりの成長の物語と見て良いのでしょうかね。

３０年ほど前に「眺めのいい部屋」で見た、もったいぶった上流階級の青年を演じていたデイ・ルイスを思い出しました。ずっと深く登場人物の内面を描いていました。これで引退とは、惜しまれます。

PTAもダニエルもお久で 何の映画何だろう 誰が何がファントムなのか
ファッション業界のスカした物語か 愛の物語ではあるのだろう

冒頭から 家屋が主役である事がわかる お針子のばあちゃん達の上昇する
動き 階段が素晴らしい 西洋の映画の大いなる魅力だ 多分ファントム
だらけの死の家で建物自体は堅牢な映画的存在感を示すのだろう 僕の
ような建築物のフェチにはたまらんのにゃ 確か外観は一度くらいしか
映らなかったのではないか

色彩は白が基調 白い家 雪の白も そして白の中の白こそ花嫁衣装！
つまり撮影 照明のシネマだな エンドロールにはライティングカメラマン
と異例な力の入ったクレジットがなされている その割には前半は人物の
ショットが弱くはないかと感じ クローズアップもいまいち フレーミング
も若干違和感があるのだが 40分経って面白くなって来ると 嘘のように
みるみると画面が良くなって来る

主人公はサンローランの持つ人間味が無くて 嫌な感じの赤ん坊野郎
中身の肉でなく服にしか興味の無いデザイナー つまりファントムは服の
中身の空洞の謂いでもある 肉に無関心は性描写を回避して それは食の
行為が代行する事となる その勿体ぶったお話では 嫌な奴ばかりの登場
で 最初嫌味に見える お姉さんのおばちゃんが 一番人間味があったのだ

母の主題は あまり深入りされず 幻視のスプーキーな花嫁衣装の母で
切り上げ あとはアルマとの支配と被支配のプロットが占める 常に周囲
にあって曖昧な存在 白の作業衣に埋もれるアルマがしかし最もファン
トムな存在で 彼女が主人公の前で確固たる存在感を示し始めた時に
倒錯した死の家が完成されるのではないだろうか

ところでメインのストーリーもそうなのだが バターアンドキノコの
ミザリーなサブプロット共 いささか古臭いのではないか それを
どこかキューブリック的な閉鎖趣味 お耽美の中で展開されても 特に
刺激されることもなくて PTAにはもっと冒険して欲しいと思うのは
僕だけだろうかね

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観をわったあと　これほど　感じ方が変化した映画はなかった気がする。
後半になるにつれ　アルマに嫌悪感と　怒り　不快感で　ただただ歪んでいる！
許せない気持ちでいっぱいになった。
でも　これも愛し方の一つの形なのか？と・・でもやっぱり許せない。
こんな愛し方は本当の愛じゃない！・・歪んでる　こんな展開か！最悪だとも・・・
相手を尊重する気持ちが本当の愛で　自分の思い通りにすることは本当の愛ではないといえるのか・・
誰でも自分だけを見ていてほしい・・自分の愛し方を受け入れてほしいと思っているのではないかと・・だからといって　何をしてもいいわけでもない！
どれだけ完璧で偉大な人でも時代の流れや　周りの環境が変われば　状況は変化する。
彼にとってそれは受け入れがたいものだったけれど　アルマに身をゆだねることにより
間接的に現実を受け入れたのかもしれない。
完璧に尽くしてドレスを仕立てた顧客さえも時代の流れで離れていく中　歪んだ愛し方でも
そばにいてくれる女の方が　今の彼には必要だったのかもしれないとも思った。
でも私はアルマのような愛し方は間違っていると言いたい。
こういう愛を受け入れたときは　人はきっと　自分で何かをしたいという情熱を失って
依存しているだけのようなっ気がするからである

映画通好みの作品、男女の愛の形の一つを描いているが単純に表現すると「愛の主導権争い」ということになるのだろうか。
1950年代のイギリス、オートクチュールの天才デザイナー、レイノルズと田舎のウェイトレス、アルマとの出会いからスタート。
さほど美形にも見えないアルマを誘ったのは別に一目惚れしたのではなさそう、レイノルズの職業的な審美眼がそうさせたのだろう。
レイノルズは亡き母の面影をひきずりながら新しいドレスを作ることに没頭しているが決して自分の生活パターンを崩そうとはしないしそれを邪魔されるのを極端に嫌がる。
単に気難しいというのではない。
モデルとしてアルマを自分のチームに加えたレイノルズ、彼が美しいと思うのはアルマ自身ではなく彼女がまとっているドレスにしか他ならない。
それが分かっているアルマ、レイノルズが完全に主導権を握っている愛の形、自分は何のために彼と一緒にいるのだろう。
自分の愛の表現にも興味を示さず、冷たい目を向けるレイノルズにアルマのとった異常な行為、これを境に愛の主導権は傾いてゆくことになる。
「倒れる前にキスしてくれ」終盤で発せられるレイノルズの名言、これが全てを物語るものと言えよう。
いささか理解に苦しむ流れではあるがこれも一つの愛の形なのだろう。

物語は・・・なんだろう、男女の部分はいまいち疎い者にとっては、よくわからんやりとりがただただ続いていくだけの作品にしか観えなかったです。

でも・・・主演のダニエル・デイ=ルイスさん。さすがです。格好いい。あんな格好いい男いないよ。映像もよく出来ていて、それも相まって、至極の男でした。だからこそ、相手さんとのやりとりは、よくわからんかったなぁ・・・まぁ、それも愛なんだろう、きっと。