マザー！

なんとも支離滅裂な作品で日本では公開中止になったというある意味話題作。
郊外の一軒家で暮らす夫婦、夫は詩人で最近スランプで筆が進まないようだが、妻は献身的に笑顔で家事に取り組んでいる。
ある晩訪れた一人の中年男、勿論見知らぬ人物なのだが夫は妙に好意的で男を泊めるのを快諾、妻は見知らぬ人を泊めるなんてと反対するが夫は気にもとめない。
そして翌日男の妻と名乗る女性が現れ、わが物顔で家の中を歩き回る、勝手に仕事室へ入ったり、大事にしていた物を壊したりと、この見知らぬ登場人物に対する不快感は観ている側にも充分伝わって来る。
妻の抱く不安と懸念をあまり意に介さない夫との不自然さがこの先に起こる不吉な前兆みたい。
そして今度は見知らぬ男の息子二人が登場し思いもかけない展開になってゆく。
ここまではサイコサスペンスの様相なのだが後半は益々わけのわからない支離滅裂さが続いて行く。
つまりこの作品は一般的な人々を対象に制作されたものではないのだ。
聖書の創世記に喩えられた寓話だという解説もあるように繰り返される人間の愚行を表現しているものなのだろう。
判る人には判るというスタンスなんだろう。
特に終盤の15分はとにかく強烈、でも決して後味の良いものではない。

つくった人たちは楽しかったんだろうねえ・・。観てしまったこっちは具合悪くなった。

緑に囲まれた一軒家に、カリスマ的人気を持つ詩人と彼の年若い妻が二人きりで暮らしている。
ある夜、彼らの家を男が訪問する。
不審がる妻をよそに、詩人は彼を快く迎え入れた。
男は立ち去る気配を見せず、彼の妻だという女もやってくる。
さらに、彼らの二人の息子も押しかけてきたうえ諍いを始め、殺人にまで発展する。
ようやく騒動が収まった後、妻が妊娠し、詩人は創作意欲に湧くのだった。
やがて新作が出版され、詩人と妻が二人きりの祝宴を始めようとした時、歓喜する群衆が押し寄せ…

様々な楽しみ方ができる不条理劇なのではないでしょうか。
聖書の解釈を楽しむもよし、なんじゃこれ？って意味不明さを楽しむもよし、
詩作に専念する夫を大切にし、たった一人で自宅のリフォームをしていた若妻が、
傍若無人な客やカオスな展開にブチ切れて怒りを爆発させるお話…と受け止めるもよしって感じで。

ジェニファー・ローレンスの美しさに感嘆！
メイクやヘア・スタイルを変えつつも、衣装は灰色や生成りの地味な色合いのみ。
戸惑い、喜び、苦しみ、悲しみ、怒りの表情が際立っていました。

冒頭で詩人が人力では及びもつかない創造の力を見せたり、
詩人の家を訪問した男が使った便器の中に肉片と骨が浮かんでいたり、
男の長男が次男を殺したり、それぞれ「神様」「イブの創造」「カインとアベル」など聖書を
思わせるシーがあるけれど、まったく敬虔な気持ちにならん作品です。不思議！

大体、詩人のことを神様だと思いたくない。
惜しみなく与え奪うのが神様ってのは理解するが、何回も同じ失敗をする神様なんて
神様とは思えぬ…

いきなり炎に包まれる女性の顔から始まり、これは「煉獄」の様子かなとオカルトホラーの期待が高まって、次に男がクリスタルを置いた瞬間から屋敷が甦る様子にいっそうその感を強くしたのだが...終わってみると、さっぱりわけのわからない作品だった。
これまでレビューに何度も書いていることだが、内容の芸術性とかそのマニアックな価値は別として、初見で中身がわからず素直に楽しめないこうしたタイプの映画を私は高く評価できない。解説や説明を受けなければ理解できない映像作品は、製作者（監督）の自己満足にのみ重きが置かれ、興行作品としての完成度が低いと思うからだ。

この作品についてのネタ解説はネットにかなり出ていて、そのプロットは聖書の有名なエピソードに寄っており、また監督らの言によれば作品の真のテーマは地球環境の問題ということである。予備知識なしに観たほうがいいとの意見もあるが、登場人物の設定などある程度のネタは知った上で観たほうがいいと私は思う。そうでないと、地球環境の問題の提議といわれてもわからないだろう。
近年こうしたつくり方の映画は珍しい。私がこれまで観たなかでは『ヤコペッティの大残酷』（1974）がそうした作品で、これは’７０年代に流行ったいわゆるモンド映画といわれる作品群の系譜に連なるものかなと思う。
ただ、どうだろう...今の時代にこれはフィットしないなぁ。地球環境問題を提議するのに、これほど凝ったメタファー物語にする必要あるのかなと...アル・ゴア氏（元米国副大統領）の『不都合な真実』（2006）のようなストレートな作品のほうがよっぽど効果的だと思う。

それでも、アロノフスキー監督の思いには同感する。
あの家を訪れる家族、押し寄せる人間たちに良い人はいない。つまり、「すべての人は罪人である（原罪）」と。
キリストさえも殺してしまい、大地を汚しひたすら貪るだけの人間に救いはない。煉獄の炎に焼き尽くされるほかないのだ。
なのに神は懲りずにまたそのゲームを始める。繰り返し、その創造のゲームを。
監督は哲学者ニーチェの「永劫回帰」思想を意識したのだろうか。作品では聖書のエピソードによりプロットが組まれているのだが、結論は永劫回帰になっているのである。ハルマゲドンによる終末思想にはなっていない。

みなさんは“人類（私たち）”という存在をどう考えるだろうか。
ガイアたる地球は作品中明らかに人類を拒否している。「私はあなた（神）と二人でいたいの」と。
先に書いたとおり映画作品としての評価は低くなるが、内容の意義は認めたい。
でも、それを理解できる人は少ないと思うよ、監督さん！

　ただ一人の身内がエリオット・ローズウォーターで、そいつしか頼れない状況は相当にイヤだという話。

　キリスト教的な隠喩は普通に見ててもビンビン感じるが、まあコレはアレでここはそれでとか、いちいち考えるよりズラッと見ていって感情の動きを楽しむ映画なんじゃないかしら。

　愛は正しい。だけど誰かを選ぶってのは他の誰かを選ばないってことなんだよね。
だったらパイが大きい方を選んだら、それが正解なのかしら。
全く悪意がなくて異様に器がデカい旦那はワールドワイドに人類を救済するだろう。
しかし、その足元は？　その隣にいる人は？

　こういう一筋縄でいかない真実を、そのまんま投げつけてくる映画は面白い。
何が希望だ、トラペゾヘドロンより邪悪だよ。
いや、この愛を受け止められない我々が矮小なのだ。