こわれゆく世界の中で

アンソニー・ミンゲラ。「リプリー」、「コールド・マウンテン」でジュード・ロウとは相性のいい監督です。
人生・愛、そのありようを深く静かに描き出す監督ですが、今回はロンドンが舞台。
キング・クロス地区。
大規模な再開発のプロジェクトにかかわる建築家のウィル。
長年一緒に暮らしている恋人リヴとは、何かしっくり行かないものを感じ始めている。
「最近見つめあったことがない・・・」というモノローグから、この映画は始まります。
最近見つめあったことがない・・・？
わが身について言えば、ご同様かな・・・残念ながら。

ある日、ウィルは事務所に泥棒に入った少年を尾行し、その母リヴに心惹かれます。
彼女は服の仕立てをしていて、わざとに用事を作って近づいていくウィル。
リヴは、ボスニアの戦火を逃れて移民してきた未亡人。
愛を求め、満たされない２人が次第に心を寄せ合っていくのですが、ようやく心が触れ合ったと思ったその瞬間から悲劇が始まります。
ウィルは、窃盗をした少年ミロをどうしようとも思っていなかった。
でも、リブは、息子の窃盗を黙っている見返りに、自分の体を求められたと誤解してしまうのです。
これは救いようのないすれ違いです。
一瞬でも、心がつながったと思えた後だからこそ、見ているほうも、切なさ、残酷さに、胸がふさがるようでした・・・。
最後には、ウィルがある決断を迫られます。
それは辛く、また、人をも傷つけてしまう事なのですが、その自らの殻を破ったときに、本当の愛が生まれるということなんですね。
切なくも感動のラストでした。

欧米では、常に夫が妻に向かって「愛してるよ」とささやきますね。
日本ではあまりないなあ・・・。
そんなこと、言わなくても解るだろう、ということなのか。
単に、気恥ずかしいだけなのか。
大切なことは、そう簡単に口にすべきでないという文化なのか。
けれど、やはり、気持ちは言葉にしないと伝わらないのですよ！！
それを怠るから、夫が退職したとたんに妻から離婚を突きつけられる。
でも、それって妻にも問題ありますね。
そこまで我慢してないで、普段から言いたいことを言ってみればいい。
と、えらそうに言ってみても、やはりうちも、最近見つめあうことがない夫婦なんだなあ・・・。
こんな夫婦の倦怠は、やはり洋の東西を問わないということか。
すみません、映画から外れてしまった。


さて、この、リヴの息子役、ラフィ・ガヴロンは、オーディションで選ばれた新人だそうですが、この、バネ・敏捷さ、すばらしいですねっ！
その身の軽さに見とれてしまいました。
絶対、また別の作品で見たいです！！

この映画を観た後では、あの「ホリデイ」ではジュード・ロウがかなりのオーバーアクションであったことがよくわかります。
ここではかなり抑え目で、自然な演技です。
ふと伏目がちの、憂いを帯びた表情・・・も〜、たまりませんねえ。

　テーマは『クラッシュ』に近いと思いました。"crash"と"break"。どちらも人と人とがぶつかり合うことの大切さを訴えています。最近、このテーマの映画多いですよね。言葉では埋められない空虚感、これって現代を象徴するキーワードなのかもしれない。

“いつからお互いを見なくなった？誰か警告してほしかった。”
　冒頭からガツンとくる台詞です。
　どんな相手でも、初めはぶつかり合います。でもそのうち、２人の間には暗黙のルールみたいなものができるんですよね。「彼のこの部分には触れないようにしよう」「ここからは踏みこんじゃいけないな」って。そうするうちに段々ぶつからなくなるんです。
　それは２人の関係を継続させるために必要なプロセスでありながら、同時に、お互いを見なくなるプロセスの始まりでもある。

　本作のウィルとリヴのカップルもそんな関係に陥った２人。
　とにかく２人ともよく謝ります。お互いを尊重するがあまり、まるで競うように、自分の方が悪いと。もし警鐘が必要というならまさに「ごめん」が多くなるのは１つのサインかもしれません。
　終始クールだったリヴが、堰を切ったかのようにキレて車を降りるシーン。リヴの“よきパートナー”の仮面がはがれ、ウィルを激しく叱責します。
　break、そしてenter。彼らの絆がまたつながった瞬間だと思いました。

なんだか生きづらい世界だなと思う。

決して大それたことを望んでいるわけではなく、それぞれがそれぞれのささやかなシアワセを求めているだけなのに、それを手に入れることがとてつもなく困難で。移民も宗教の問題も全然関係ない日本で観てるにもかかわらず、なぜかすごく同時代性を感じる映画だった。

格差社会と言いますか、映画はロンドンの上流社会と下流社会のギャップを描いていくんだけど、その視線はどちらか偏るわけじゃなく、両方に平等に注がれている感じで、丁寧だし、しかもその視線はとてもやさしくて。

もちろん、精神疾患の子どもで苦しんでいる親が観たら、あんな甘いもんじゃないと思うのかもしれない。少年犯罪に関わっているひとなら、あんま簡単には解決しないよと思うのかもしれない。でも、この行きづらい世界で必死に生きようとする人たちに対する優しい視線には、オレは非常に好感がもてた。つうか観ていてうれしくなる。希望がもてる。

それにしてもジュリエット・ビノシュはほんとすばらしい女優だな。ビジュアルはあんまイケてる感じはしないんだけど、なぜかやたら魅力的だ。さすが。

ただ、娼婦との話に夢中で建物に侵入しようとする少年になかなか気づかないとか、警察と話してて娘の行動に気づかない、みたいなあの焦らすような演出はいらんだろ、とは思ったけど。これはそういう映画じゃないでしょ、と。

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精神障害を持つ娘の母と、半同棲生活を１０年も続けている主人公。
普通の夫婦でも倦怠期を迎える頃なのに、彼女の気持ちの中心を占めるのは娘の事ばかり。同じく彼の気持も、会社のビック・プロジェクトに多くの関心を寄せる事となり、離れて行くお互いの気持ちを、核心に触れるのを恐れるかのごとくおざなりな会話で済ませてただ時だけが過ぎて行き、初めて出会った頃を思い出すことにより、切れそうになっている絆を何とか繋ぎ止めようとしていた。
そこに現れるのがボスニアの未亡人親子。
主人公と彼女の息子はある犯罪によって接点を持ち、主人公は犯罪を究明するために母親に近づいて行くのだが、彼女の純朴な心にしだいに引かれて行くこととなり、ついに関係を持つまでに至ってしまう。ただ、彼女にはその行為にある目論見があった。

鑑賞後、強く感じたのは親子の絆の強さ。
現代社会において時に希薄に感じられ、犯罪にまで至ってしまう関係の弱さが、本作の中ではしっかりとした絆として描かれている。それぞれの親子が、深い悩みを共通で持ち得ているから、鎖のような強固な関係が保てるのであろうか？
それと違って夫婦の絆のなんと脆いこと。日々のすれ違いを続けることによって、こうも無残に砕けてしまうとは。
考えると、２世帯でも無い限り、家族で血の繋がりがないのは夫婦だけなので、その関係を継続しようとすれば、言葉により信頼関係を築き上げて行くことしか無いのかもしれない。

あまり語られていないが、第３の女、あの娼婦の存在が結構良かった。狂言回し的に物語の中盤に現れ、すぐ消えてしまうのだが、主人公にとっては異性の友人のような存在であった。
また、都市再開発により自然の有る都市部を造ろうとしている主人公に「私の育ったダウンタウン、これが私の自然。じゃまなキツネのように私も追い払うの？」って言ってたような気がして、これもボスニアと同様のサブ・テーマかもと感じた。

本作は女性陣の演技が良い。繊細さ、したたかさ、純朴で有りながらも守るものに対する意思の強さが見事。ビノシュの“母の強さ”の演技に、女性の美しさを如実に感じることができた。
対するジュード・ロウは２枚目なのがアダになってか、苦悩する様がはっきり出てこなくて共感できない。でも男の弱さ、ずるさを演じているのなら上出来かも。


〈蛇足〉

実は本作は間違って借りちゃって、普段この手の映画は全くといっていいぐらい観ないので、最後まで観るのにかなりの苦痛を感じました。
でも、鑑賞中登場人物に共感できなくて苛立ってた話を、こうやって文章にまとめてみると新たな共感って生まれて来るものなのですね。発見。発見。ちょっと大人になったかも。

観終えた後も、モヤモヤが残っています…。

私には、この２時間で登場人物の本音が伝わってこなかったな。
とゆうより、本音じゃないだろうってところが沢山あってもどかしかった。

一言で言ってしまえば、不倫映画なのですが、何だかそんな不純なものではなくて、とても純粋さを感じました。

でもやっぱり最後は奥さん(まだ結婚してはないが)のところに戻るのかぁ…。

いや、奥さんに愛してもらいたかったんだけど、どんなに努力しても報われなくて、だから寂しくて甘えちゃったのかなぁ…。

あのジュード・ロウの母性本能をくすぐる眼差しの呪縛からは、きっと誰も逃れられないだろうなぁ…。

あんな瞳で見つめられたら、イチコロですわ。

ずるいずるい！

まとめると、奥さんの視点から見ても、浮気相手の視点から見ても、どっちも『あり』というところでしょうか？

どっちの愛も真実の愛だと思いますので。

ただ、どっちの女性も元旦那をまだ愛しているというところが切ないです…。