ビッグ・リボウスキ

コーエン兄弟の作品の中ではかなり好きです。今みても十分新しく楽しめるし、脇役に出ていたジュリアンムーアもフィリップシーモアホフマンも二人ともオスカー俳優になってるし（つまりいい俳優使ってるし）、コメディとしてもかなり完成度高いです。

ちょっと、というかかなりFワードは多かったですが・・・。

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　アグレッシブでサディスティックな強烈「戦争ボケ」をかますジョン・グッドマン、それにだらしなーくやる気なーく突っ込むジェフ・ブリッジズ、さらにヘンに影が薄いが一応口をはさむスティーブ・ブシェーミ、このトリオだけで充分笑えるのですが、さらにとびきりの変人奇人がエントリーするさしづめコーエン流M-1グランプリ決勝大会。アメリカのお笑いはディープで分厚いです。ゆりかごから墓場まで。女友達の「妊娠を手伝う」ジェフに笑い、太平洋に向かって散骨したはずの友達の遺灰を風向き悪しくもろにかぶるジェフに、また笑わなければなりません。

　気に入ったので２度見ましたが、意外に周到にできていて一昔前のハードボイルドまがいのストーリーにはなっています。人違いされたことをきっかけに、ハーフパンツにカウチンセーターのフィリップ・マーロウならぬジェフに次々と事件が降りかかり、さまざまな人間、皆とてつもなく濃いキャラ、が絡んでくる。その面白さは万華鏡をのぞいたときのよう、様々に枝分かれしいくつもの華麗な模様が浮かびます。遊び心いっぱいの映像も楽しめました。若干謎を残すのですが、あちこち飛び回った話は一応一点に収束して着地します。カウボーイハットのナレーターの言う「デュード（ジェフ）は死なない」
　ガーターに落ちたボウリングの球のような人生でも、しぶとく生き抜けってことでしょうかね。

　湾岸戦争のニュースを背景に、ベトナム戦争のPTSDとしか思えないジョン、朝鮮戦争で車椅子生活を余儀なくされた金持ちのほうのリボウスキ、とアメリカ社会の戦争の影の深さを知りました。平和主義者で良心的兵役拒否者のボウリング仲間（この人の風貌がいかにもそれらしくてまた笑える）がジョンに銃で脅されるなんて場面もありました。戦争をシニカルな笑いのネタにしてしまうところもある意味すごい。ただデュード（ジェフ）が９０年代のヒーローというのはどういうことなのか、いまひとつわからない。アメリカ９０年代といえば、たしかITバブルの絶頂のころ、無精者が気ままに暮らせるゆとりがまだ社会にあったということなのでしょうか。

ストライクゾーンの映画です。しかし、かなり評価の分かれる映画でもあると思います。失業中のグータラ男・リボウスキになんでもベトナム戦争に結びつける着火マン・ウォルターに会話に上手く入っていけないリズム感ないけどボウリングうまい男・ドニー・・・この三人の掛け合いだけでもう充分過ぎるほどオモシロイです。まったくゴールの見えないような会話が続きます。さらに変態ボウラーやキテレツ芸術家などキワモノもオンパレードな映画です。そして映画の全体像は「ダラ〜」って感じ・・・これがフィットしないとかなり辛いでしょう。僕が好きなシーンは変態ボウラー登場のシーンと、もちろん３人の掛け合いのシーン、そして遺灰を海に撒こうとして、風向きを考えず、灰が自分たちに舞い戻るシーンですね。灰のとこは兎に角サイコーです。いいこと言おうとして結局ベトナム戦争の話が絡んでくるウォルターがサイコーです。いつも好調のドニーが亡くなる日にストライクじゃなく９ピンしか倒れなかった映像が、その後を連想させてなんだかとっても切なかったですね。そして劇中でことあるごとにリボウスキが飲む「ホワイトロシアン」という酒が妙に気になります。僕はお酒が飲めませんが、気になってしょうがなかったです。色合いといい、ネーミングといい、なんかおいしそうでした。この映画、僕はコーエン兄弟の最高傑作だと思います。

キャストがゴージャス、みんなアクというか個性が売りのキャラ満載なのだけど、の割にさっぱりとまとまった感はありました。ストーリーや細部とかをもう一度吟味したいと思うほどではなかったから星は☆☆☆。わりあい、ゆったりしたお話なので（そう感じたのは私だけか）、ゆるい気分のときに観てみましょう。
状況が異常事態に陥っても何故か底にあるものが明るいのがコーエン兄弟の作品。不条理の向こうには希望がある。ラースフォントリアーの場合、不条理の向こうの希望は絶望のなかなんだけど。なぜだか後者の方に興味は惹かれるけども。

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見て欲しい。結構皆さんの評価低いようですが実に練られている作品。私は傑作のひとつに数えています。
　役者をこんなに生き生きとさせ得る監督はタダモノじゃありません。周りにいかにも居そうなちょっと癖持つ奴等！こういう人物造型はコーエン兄弟の真骨頂。
　タクシーのカーラジオから変なホテルカルフォルニアが鳴っている、など実に細かい演出があります。それらを筆頭にアメリカ中西部の人間が抱く都会に対するアイロニー炸裂！
空飛ぶシーン個人的には不要と思う箇所もあれども、それを補う作品といえよう。これを見たら次はバーバーへ。