ミルク

愛した人が、自分と同じ性別だった
それが原因で、愛する気持ちが許されない
怯えてクローゼットから出られない・・・

そんな人たちの心の扉を開いた、一人の人物ハーヴィー・ミルク

ガス・ヴァン・サント監督も自らゲイであることを公言していますが
彼は、ミルクの功績を称えると同時に
同性愛者たちの愛と嫉妬と欲望を、赤裸々に描き上げてくれました
そう、彼らがまるで、秘密の楽園にいるかのような
その愛の深さの透明度を推し量るような、過剰な美化は微塵もなく、です

カミングアウト
それは、彼らにとっては時には家族を失い、住む所も失うことを意味する・・・
でもそれは、自分が今ここに生きていることの証でもある

ミルクがここまで偉業を成し遂げたのは
その行動力と、自分らしく生きる為の権利を奪還するという大きな目的
そして何よりも、彼が放つ言葉たちの持つ強い力がそこにあったからだと思う

彼がテープに残したメッセージ
最後の言葉が、私の心の奥を突き動かして
知っていた筈の結末なのに、涙が溢れ出して止まらなかった

マイノリティという境界線が、いつか無くなればいい

マイノリティという言葉自体、無くなる日がくればいい

真の意味での「平等」は、私たち一人一人に委ねられているのだと
ミルクの言葉の重さを感じながら、ラストの光景を眺めていた

　人種差別や性差別に比べ、同性愛者への差別って意外に軽視されがちですよね。
　第二次世界大戦でも、同性愛者は実はユダヤ人より下級として収容所に送られ、最低の扱いを受けていたそうです。（『ベント』という映画でそれを知って衝撃を受けました。）
　本作でも70年代にはまだ「彼らは人間じゃない」くらいの主張が堂々とまかり通っていたという事実に非常に驚きました。

　ショーン・ペンが２度目のアカデミー主演男優賞に輝いた本作。ジョシュ・ブローリンが助演男優賞候補でしたが、いやいや本作、この２人以外もすごいんです。

　ミルクの生涯の恋人だったスコット役のジェームズ・フランコ。最近けっこうその演技力が注目されているようですが、私は本作で初めてそれを実感しました。
　そしてエミール・ハーシュ！！何者ですか、彼は！
　『イントゥ・ザ・ワイルド』で「なんだ実は渋い役者だったのか」と『スピードレーサー』のアイドル的な印象は消し飛んでいたものの、本作で度肝を抜かれました。『モンスター』のシャーリーズ・セロンにも似た衝撃です。彼が全く賞レースに絡んでいなかったのを知って逆にびっくりです。
　ジョシュ・ブローリンはそんな曲者揃いの中、いたって普通の（だが実は最も危険だった）ダン・ホワイト役を演じます。その他、ミルクの２番目の恋人役を演じたディエゴ・ルナ、ウーマン・リブ的な女性を演じたアリソン・ピルと、若手中心に全員が素晴らしい仕事をしている！

　ショーン・ペンはまさに彼らを代表して受賞したのだなあと思いました。
　誰かがいい演技をして、誰かがそれに引っ張られるようにいい演技をする。そしてそれが大きな渦になる。ちょうどハーヴェイ・ミルクの行動がいつしか大きな渦を作ったように、本作も、俳優たちの演技が幾重にも重なって、大きな渦になっていました。
　名演の相乗効果ってあるんだなあと思いました。

実在の人物の半生の物語で、ゲイの社会的地位向上に生涯を尽くした男という題材は、ガス・ヴァン監督に最適と白羽の矢が立てられたのか、監督の巧みな演出力でそつなく水準以上の出来だったのですが、自身の思いは込められたのかの微妙な作品でした。

実際の映像を多分に挿入するあたりドキュメンタリーをかなり意識していて、事実からの逸脱は許されなかったのか、従来の監督らしさはBGMに感じられ映像はいつもながらに美しくはあるのですが、弱者の儚さとか愁いとかを独自のイマジネーションとして膨らませた表現力は制限されるのでした。
監督は自身をマイノリティと認めている人で、それを、これは全くの想像なのですが、声高に叫んで認めさせるのではなく感じ取って欲しいと願っている人だと思います。その表現は、過去の自身が脚本を書いた作品に顕著に表れているように思います
本作には、ミルク氏の苦悩は真摯に感じられるのですが、万人が寄り添うことのできる、脆く弱き者への吸引力は持ち得ていないのではと感じました。

ドキュメンタリーに少々の彩りを加えた、偉人伝とでもいうお話なのか。実際のドキュメンタリー作品からフィルムを借りてまで製作して、新しい切り口をなぜ提示できなかったのかと思いました、残念ながら。
期待していただけに、辛口の★２＋。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

きっと。
人類誕生時からいたんです。
突然変異的に増えてきたわけじゃないんです。
神がこの世にいるならば。
その存在を神が認めたんです。
だから「いて」「在る」んです。
それを何を一生の敵のように攻撃するのか。
たとえば宗教なら。
神が認めたからこそいるのでは。
ならばその存在証明を消し去ろうという行為は。
あなたたちが都合のいいように崇める神への背徳ではないのか。
２種類なら３パターン。
誰もが疑わない事実ではないですか。
人は神を超えることはできないのなら。
人のすることは全て神の想定外。
ということはこの弾圧も想定内か・・・
つくづくイジワルだねぇ、神様って。

昔ほど「隠して生きていかなければならない」時代ではなくなり。
自由をつかめる喜びを表現できるようになる。
しかし、自由を手にするのはイバラの道であり。
未来への土台作りであり。
変わらぬマイノリティーとして。
二本足で大地に立ち、陽の光を浴びるという断固たる決意である。

彼らは種の保存に背いている。
が、地球には優しいのかもしれない。
そのやさしさはいつか奇跡を生んだりして・・・

最初はやはりツライですね。
矢面。
大きな幸せのためには。
ひとつの幸せを犠牲にしなければならない。
という、誰もが悩む苦しみ。
手段を問わない姿勢。
演じるショーン・ペン。
お見事でした。
どっからどうみてもゲイにしか見えませんでした。
思えませんでした。
表情から「女性」しか感じられない。
仕草もが自然すぎて。
ショーン・ペンがゲイであることに疑問がわかない。
スンナリ入ってくる。
何から何までショーン演じるミルクのシーンは印象的ですが。
やはり冒頭の「出会い」と最後の「暗殺」のシーンは忘れ難いです。
彼を惜しんで続いた光の列。
それはまるで川のように。
ミルキーウェイ。

そして少ない出番ながらも印象的なブランコ。
瞳が語るねぇ。

結局、人の気持ちや辛さがわからない人はわからないんだって思った。
でも、そんな中、世の中が少しずつ昔と変わっているのは、どこかで誰かが心を痛めて、涙を流して、血を流して、苦しみに耐えて味わったから、、、だから、自分にできることを考えさせられる。
生きていて、世の中は汚いことの方が多い。
でもそれだけじゃないこともわかる。
それを知って、自分ができることをしたい。
そうしてきた人が、たくさん今までいたんだって。報いのためにも。
と感じた映画でした。