ツォツィ

良い映画とは鑑賞したあとに、誰かにその感動を無性に伝えたくなるものだ。私はこの作品の感想を誰かに伝える為に、今、正に文章を興している。

最近はアフリカ映画が盛んに公開されている。題材はさまざまだが、大半は「白人がアフリカをどのように見ているか」なのである。アフリカの現状を伝える事と、アフリカの肉声をぶつける事は全く違う。この点は気をつけなければならない。

さて、この映画の素晴らしさはアフリカ人の内なる声を高らかに響かせているところにあるように思う。しかしながら、この内なる声は誰かに助けを求めたり、誰かに恨みをぶつけたりというものでは無い。アパルトヘイトが撤廃されて10年以上経つ南アフリカを、自分達がどう変えていかなければならないか、と南アフリカの監督、スタッフ、キャストが綴っている。外側の人間が描くのとは訳が違う。だから骨太に製作されるのだ。

そしてこの監督は、生まれたばかりの子供は無垢で穢れを知らない。アパルトヘイトが撤廃されて新たに誕生した南アフリカをこよなく愛し、貧富の差を無くし、穏やかで心豊かな生活を送れる国にしようではないか。そんな気持ちをツォツィと赤ん坊の関係に投影したのではないか。私にはそう思えてならない。

また、家庭崩壊、個人の尊厳、命の大切さ、（この映画は環境と貧富の差から生まれているが）が描かれていることから、現代の日本社会の問題にも当て嵌まる処は多い。暴力の描写を理由にR-15に指定されるのはいかがなものだろうか？

人間には生善説と生悪説が存在するが、本来どちらも持合わせているのが人間である。生きている環境もあるとは思うがこの二面性を導いて行くのが自分自身の心と命。この映画の1人の青年が変わっていく様子は、人間として生まれてきた者、全ての希望であって欲しい。

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本当の名前を捨て、「ツォツィ(不良）」と呼ばれながら南アフリカのスラムで生きる少年。強盗をして奪った車の中に残されてた赤ん坊を連れ帰る。
ツォツィにとって赤ん坊は全く未知の生きもの。どう世話をすればいいのか,何を食べさせればいいのかさえもわからない。「そんなふうに扱ったら腕が抜ける〜。」というような扱い方をしたり、存在をすっかり忘れて出かけてるうちに、赤ん坊は蟻におそわれたり、ひやひやしどうし。
赤ちゃんを連れた女性の家に押し入って、自分の赤ん坊にお乳を与えるよう強要するが、その様子を見守るツォツィの目は、それまでの厳しいまなざしと違って、とても暖かい。

ツォツィたち不良グループが、最初に地下鉄の中で殺してしまうのも、ツォツィが強盗するのも、被害者はツォツィたちと同じ黒人。豪邸に住んでいる人がいる一方で、土管を家にしている子供がたくさんいる。アパルトヘイト後、黒人社会に格差が生まれたことは聞いていたが、これほどだとは。

それにしても、赤ん坊の存在ってすごい。無条件で自分を頼りにしてくれる、どうしても守らなければならない人がいるというだけで、人はこんなに変われるのだ。
希望がもてるラストなのもいい。2種類の「もうひとつのエンディング」が収録されていて、レンタルした甲斐がありました。音楽も独特で好きでした。

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構成全体が非常にシンプルかつストレート。
南アフリカにおける貧富差と治安の現状と、"生きる"ことの絶望と希望を、小さな命に関わるスラム街に生きる主人公を通して描いています。

シンプル。エンターテイメント性を排除した簡潔すぎる程の描写。「実際はもっと悲惨…」という思いはもちろん、ハリウッドに慣れた我々にとって「物足らない」と感じる向きもあるかもしれません。
しかし、アパルトヘイト後の諸問題をしっかり織り込みながら、人間ひとりの心の葛藤、変化のドラマを短時間で凝縮して描く本作は、奥の深さも感じる事ができる優れた作品だと思います。

主人公達少年ギャングによる幼稚な犯罪、スラム街と高級住宅地の差、ＨＩＶ、ＤＶ…主人公に関わるエピソードで、南アフリカの諸問題を語ります。
また、赤ん坊を奪われた黒人夫婦が、白人刑事に「怠慢だ！」と迫る場面。自由を得た高級階層の黒い肌が、白い肌に怒りの感情をぶつけます。足を組んで（偉そう？）困った顔の白い肌…何を否定せずとも、現状を垣間見たのは気のせいか。

主人公プレスリー・チュエニヤハエが素晴らしい！！カミソリの様な切れた表情と、小さな命に接する際の柔和な表情との差。そして徐々に"品格"を学習し、次第に感情を持つ、生を意識する人間になっていく様を、これまたシンプルにストレートに演じています。

原作に忠実でなく、映画ならではのラストシーンを選択した監督にも拍手です。
不幸な過去があるとはいえ、人間を取り戻したとはいえ、性善説とはいえ、情状酌量の意があるとはいえ…犯した罪は償わなければなりません。
ラスト後のエピソードを鑑賞した個々が、それぞれの解釈でかみ締める。よいラストだと思います。
★★★★

ハリウッド映画がアフリカ問題を扱うときの視点と全く違う。

多分、実情に近い状況が描かれているんだろうと思う。都会であるヨハネスブルク、貧富の差、子どもの頃に家出した少年がギャングになって犯罪を繰り返しつつ生きている。

目の前の「いのち」（＝赤ん坊）とかかわるうちに、自分の過去、自分が愛にとても飢えていること、心の中にある深い傷etc...に気づいてそれにどう対処していいかわからない。

こんな態度や行動で、そういった葛藤が表現されることが、今までことのない種類のストーリーで、すごく心に残った。うまく言えないけれど、主演の男の子プレスリー・チュエニヤハエ、顔の表情の変化がめちゃくちゃ上手い！　すごい子です！

「お前に品位がない」

それがどうした？
品位で飯が食えるのか？

土管で寝起きし、とにかく生き残る事だけを考え、窃盗も殺人も生きるための手段。
そんなツォツィの目に映る世界は荒涼としたグレー。
スラムの中ではキレイゴトなんて一切必要ないのだ。
夢見る事もなく、自分を守るだけで精一杯な日々。

ある日盗んだ車の中で小さな命に出会ってしまう。

捨て置けず連れて帰る。
初めて感じる「自分以外の守るべき物」

遠く離れていた感覚が戻ってくる。
渇望し、意識の底で求め続けてたもの。
愛情。

もう彼は誰も殺せない。

気づいてしまったからには今までみたいには生きられない。
でもこれで、哀しみと同じぐらい喜びを感じられるようになるのだ。。