ドゥ・ザ・ライト・シング

ドゥ・ザ・ライト・シング（１９８９年・アメリカ、カラー、１２０分）

ＮＹ・ブルックリンの黒人街にあるピザハウスに出入りする人々の、様々な日常が描かれた傑作。
人種差別、貧困など、アフリカ系アメリカ人社会が抱える多様な問題を、皮肉がたっぷり効いた辛口のユーモアを交えながらクールに描いています。

その年一番の暑さを記録したブルックリンの夏のある日。黒人街でピザ屋を経営するイタリア系のサル（ダニー・アイエロ）は、人種差別主義者のピノ（ジョン・タートゥーロ）と、暢気なヴィト（リチャード・エドソン）の２人の息子と共に、近所の黒人たちにピザを売っている。そして配達人として黒人のムーキー（スパイク・リー）を雇っていたが、彼は仕事の暇をみつけては妻のティナ（ロージー・ペレス）に電話している。ティナは、子どもの面倒をみないムーキーに呆れている。サルの店には、飲んだくれの老人（オジー・デイヴィス）、黒人至上主義者（ジャンカルロ・エスポジート）、大音量でラップ・ミュージックを聴き続ける大男（ビル・ナン）、言語障害をもつ男（ロジャー・グーンヴァー・スミス）など、色々な客が訪れる。そんな日常を、マザー・シスター（ルビー・ディー）と呼ばれる老女が静かに見守っている。やがて、酷暑の中、些細な小競り合いが街のあちこちで起こり、それがピザハウスでの大騒ぎへと発展、潜在していた黒人と白人の対立が決定的となる．．．。

本作は黒人の立場がより明確にされ、人種問題の複雑さが見事に描きだされていると思います。
高い支持を受けながら、アカデミー賞などで無冠に終わり、その結果そのものが当時のアメリカの厳しい現実を思わせたものでした。
スパイク・リー監督の出世作で、彼自身も、妻子がありながらアルバイト生活をしている青年役で出演し、自分の勤めるピザハウスにドラム缶をぶつけ、暴走する乾いた熱演をみせています。

上述の登場人物のほかに、毎日道端で毒舌を吐いて楽しんでいる中年の黒人３人組が登場しますが、その中の一人がポール・ベンジャミン。「アルカトラズからの脱出」（７９年）で、クリント・イーストウッドを助ける寡黙な図書館の係員を演じていました。その渋さにすっかり参ってしまったのが思い出されます。
飲んだくれ老人役のオジー・スミスと、マザー・シスター役のルビー・ディーは実生活では夫婦でした。
又、スパイク・リーの実妹であるジョイ・リーが、本作中でも妹役で出演しているほか、彼らの実父であるビル・リーが本作の音楽を担当しています。（2022.09.08現在、９４歳でご存命）

クレジット１位のダニー・アイエロが好演ですが、アカデミー賞では助演男優賞にノミネート。
受賞は「グローリー」のデンゼル・ワシントンでしたが、ダニーは主演男優賞のノミネートでもよかったと思います。

本国アメリカだけでなく、世界各国で公開と同時に大きな話題を呼び、カンヌ国際映画祭でも話題を独占したようです。しかし結果的には何も賞が与えられず、観客席はブーイングの嵐だったとか。
アカデミー賞では、プレゼンターで出席していたキム・ベイシンガーが ‘ドゥ・ザ・ライト・シングが作品賞にノミネートされていないのは残念です’ と発言し、物議を醸すなど論争に発展しています。

この映画は、表立った人種差別はあるものの、心の中の温かさも感じられ、街に暮らす人々を温かい目で見つめているようでもあります。
芸術的な複雑さを犠牲にすることなく、危機的状況に焦点が合っていたのではないかと思います。

ブルックリンのとても暑い一日。

「チーズ多めは$２だ」
ピザ屋に来る黒人客たちは皆、ピザのチーズの量に文句を言う。

「俺のピザを食べて育っていったんだ。俺はそれを誇りに思う」
ピザ屋のイタリア人主人は、この街を不満に思う息子に言って聞かせる。

「私は黒人だ！あなたたちと一緒だ」
デリの韓国人店主は暴動を起こしている黒人に訴えかける。

誰もがは誰かに依存している。
それが憎しみだったり、恐れだったり、時に愛情だったり。
この映画は人と人との関係を、取り巻く環境を突き詰めて見せてくれている。
肌の色って何でしょうか？
人種差別はなくならないのでしょうか？

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全体的にむき出しな感じ。
保守的な予定調和の映画観というのを打ち破るようなところがある。ただ好き嫌いは大きく分かれるような気もする。

特に最後の部分で、イタリア人の店が破壊されるところ。
世話になったとか信頼関係があったとかいう個人的な事情よりも、最終的に自分は黒人である、仲間が殺されたんだ、ということが重要視されるという感覚は、僕にはちょっと理解できないところがある。
こういう感じの報復が続いて民族紛争とか終わらねーんだろうなと思うと虚しささえ感じる。スパイク・リーは最後に疑問提起しているけど、彼自身はおそらく報復肯定の立場で撮っていて、その感じが、全編を通じて個人的にずっと違和感を感じさせるようだ。

暴力と報復、抗争。そういうことが日常的にある世界は、正直僕から遠いが、それが常識な世界も存在する。それはそれで真実だろう。
だけど、仲間を大事にするといえば聞こえはいいけど、例えば、アメリカのラップの東西抗争で死者が出る。そういう社会には異常さを感じる。あまりに凶暴すぎる。
同じ民族、同じ国民、同じ人間で、勝手にカテゴリーと仲間意識をこしらえて、なぜそんなに殺し合わなきゃいけないのか、それでいったい本当に何が守れるのか。
そういうことに共感できる日本人は、どのくらいいるんだろうか。

まあそういうことも含めて問題提起するのが狙いなら、それもいいだろうけど、好きにはなれない。でも見る価値はそれなりにはあるのかもしれない。
変わった映画であることはたしか。クセが強い。
ストーリー的には、特におもしろいわけでもない。

個人的には☆2〜3。

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クライマックス、俺んちにアルパチーノの写真かけるからピザ屋にマルコムの写真をかけろっつーならわかる。けど人の店に来て理不尽なこと言ってボイコットしにきてラジカセ壊されて、警官の手によってラヒームの死につながる。それをム−キー（スパイクリ−）自身がたたみかけちゃう。あれがスパイクリ−の訴えてる黒人の悲劇っていう意味？殺される原因作ったのはバギンとラヒ−ムだかんね。何だかんだでピザ屋のサルは黒人のことを理解してたと思う。黒人差別がもっと深いとこにあるとしても。単純に楽しい映画だからそれさえもユーモアだったらやられたって感じです。

アメリカの黒人社会、ごちゃごちゃの人種間の確執のなかでも、そこにある和解や癒し、気遣いや思いやりがあることが、テンポよく描かれます。日本人の私には理解できないエピソードややり取りが続きますが、雰囲気はよくわかる素晴らしい演出です。でもそうした救いも、憎しみや誤解、価値観や生活習慣のすれ違いなどの連鎖と積み重ねで、最後は暴力となって爆発します。最後のメッセージ（これもうまい演出！！）を、この平和な毎日に生きる我々はどう受け止めればいいのでしょう。日本でも最近の痛ましい事件がありますから、こんな映画をきっかけに考えてみるのもいいかも。最近の若者（そういうことを言うと私も老けたか）、心がコントロールできない、残念な人間も未だにいる。