許されざる者

　視聴後友人から「クリント・イーストウッド監督・主演の西部劇映画『許されざる者』はいいよね〜」と言われ、調べてみてびっくりしたと共に「何だこれは！？」という気分になりました。そう言えば時代劇にしては何か変な感じがしていたのですが、こんな事ってあるのですね。李相日監督が既述の作品のシナリオをそのまま保存して、ほぼ同時代の日本に持ち込んで解凍したような感じの作品。”日本版リメイク”ですって？。ふざけた事をしています。それ程にもこのシナリオが気に入っているのでしょうか。それとも野心からか利害的な発想からか、米映画会社ワーナー・ブラザーズを口説き落としての製作と、関係者一同商魂逞しいです。そういえばバブル景気崩壊後、とある業者の経営者が「儲かることなら何でもしますよ」と、笑いながら言っていたのを思い出します。

　さて、内容は今更バカらしくて書けませんが、印象に残ったところでは、”人斬り十兵衛”こと釜田十兵衛（渡辺謙）。過去に非情で残忍な虐殺をしたらしいですが、今は刀も錆びて使い物にならず、食うもの食わずでふらふら状態。これで殺人など出来るのか？といいたいところです。これに対して警察署長の大石一蔵（佐藤浩市）がちょっと変な顔立ちで、台詞も少し変で違和感が走ります。長州出身の勤皇の志士、北大路正春（國村隼）が賞金稼ぎで蝦夷地に足を踏み入れるも、大石に踏んだり蹴ったりでボコボコにされるシーンがひどい描写でした。賞金稼ぎの話を持ち込んできた十兵衛の相棒、馬場金吾（柄本明）。柄本明は相変わらずいい演技をしていますが、三人組の仲間からひとり抜け出るシーンで「ひっひっひっ・・」と、笑いながらの台詞が視聴している自分も「クックックッ・・」と、同調して笑ってしまいました。

出演者・タイトルで面白そうと思っていたのですが、主人もあたしも途中で寝てしましました。
ただ、時間が過ぎていく感じで期待はずれでした

( ネタばれあり　)
クリント・イーストウッドのオリジナル版は「　伝説が事実に優先するのが西部　」という西部劇の法則を逆手にとり、ある兇悪な男の伝説と事実を描くことで、西部の血塗られた歴史と人間の持つ二面性を描いた傑作。

イーストウッド演じるウィル・マニーは外道、ジーン・ハックマンの保安官は正義として言い伝えられていったというのが前提として大事なポイント。
娼婦の報復への懸賞金は「目には目を」を逸脱しているし、マニーらの行動は契約殺人であり、最後の襲撃にしたって客観的に言えば私憤に過ぎない。
しかしそれでも友が拷問に耐えかねて自分の名を明かし、仲間を裏切った思いを抱いて死んでいき、死んだ後はさらし者にされたことへの憤りはよくわかるのです。

本作は、渡辺謙の主人公が賊軍である旧幕府の残党であり、佐藤浩市の署長が官軍側に対置されて、そのキャラに官軍のおごりという意味合いが出ています。
またアイヌへの和人側の虐待、弾圧側が大きなテーマになって絡んできたので、主人公の行動に反逆と天誅の意味が後からついてきてしまって、主人公が「許されざる者」ではなく、抑圧された人々の、悲劇の隠されたヒーローになってしまい、その帰還を待つ人がいます。　渡辺謙は終始傷ついたいい人であって、外道でも修羅でもないですね。
一方、佐藤浩市は冷酷な正義というより悪い抑圧者のニュアンスが強くなってますね。
善悪・好悪の対比がはっきりしています。

イーストウッド版ではその気持ちはよくわかっても私憤に過ぎないので、最後の修羅場でも暴力は無残でむごいものであり、人間の業を考えさせられます。
本作では情が強いので、暴力の無意味さが逆に軽減されているように思います。

という点でオリジナルのほうが好みではあるけれど、本作が秀作であることには違いない。
雄大かつ厳しい自然の美しさ、撮影、美術、衣裳いずれもクオリティが高いものだし、俳優も渡辺謙、佐藤浩市、柄本明、國村隼といったベテランはもちろん小池栄子や柳楽優弥、忽那汐里も演技は的確でみんなよかったと思います。
リメイクといっても黒澤明作品でなされた何作かと比べると出来はかなりいい。

李相日監督はまだ４０歳。　まだ若いのにその力量は確かなものだと思います。
オリジナルはなぞらず別の作品。　秀作だがオリジナルのほうが好みということですね。

人間臭いですねぇ
泥臭いですねぇ
「死にたくない」
「助けてくれ、死にたくない」
泥臭いです。

チャンチャンバラバラの派手な映画ではないんですけど、「死にたくない」という人間の根源的な欲望が出てます。

人ひとり死ぬシーンでもグチャグチャどろっとしてますね
そう簡単には死なない
「痛てぇ痛てぇ、助けてくれ、死にたくない」って言って死んでいきます。

平和なこの世の中に生きていると、この第一の生存欲求を忘れてしまいがちですが、人間は死にたくないんですね。
生き物は死にたくない
死にたくないから殺す

「この殺し狂いが」
この台詞キャッチーですね
いただきました

小池栄子の存在が意外と大きくて國村隼の存在が意外と小さいですね

小池栄子は、いい女優になりましたねえ。
この作品では比較的抑え気味ですが、重要な役割を担っています。

グラドルということでは好きなタイプでもないんですが、
女優としての彼女が出る作品を観てはいつも感心しています。