もののけ姫

　この映画はある意味、娯楽作品としてのぎりぎりの境界線上の位置にあると思います。監督も最初からきれいにまとめないことを覚悟して作ったのではないかと想像しました。主人公のアシタカが受けた呪い、狼に育てられた少女サン、人語を解し、馬よりも大きく見える母狼（イントロダクションでは山犬となっていますがレヴュアーにはどうしても狼にしか見えません。）、さらに森の動物たちを超える存在”シシ神”そうした人智を超えた存在と文明の象徴とも言える鉄を作り出すタタラ衆、シシ神を狙うジコ坊。こうした様々な人や獣や神が併存する世界を宮崎監督は、いつもの手つきで我々の前に差し出してみせます。
　端的に言って、ここには善も悪もないと感じました。それぞれが、それぞれの意志によって、あるいは本能によって生きようとする世界が広がっているのみではないか。だから、宮崎監督は争いも死も、生と同一のものとして描いたのではないでしょうか。それまでにはなかった人体が損壊される表現もそれを観客の心に刻みつけるために必要なものであったのだとレヴュアーには感じられました。人は何かを傷つけずには生きていけない存在であるということ。世界は美しく同時に醜い。この世界の本質を描こうとした、ある意味、無謀な試みはかなり成功したとレヴュアーには思えます。それはレヴュアー自身の心の内にすっきりしない何かもやもやしたものが今でも残っているからです。
　この混沌とした世界をきれいにまとめてしまう世界観があって、誰か（あるいは何か）邪悪なものがいて、その存在を排除すれば世界はすっきりと美しく正しいものになるという考えに人は惹かれがちですが、甘い話にはどこかに落とし穴が待ち受けているものです。今すぐ公正な世界を作ろうとした集団や国家は内部での殺し合いや強制収容所といった結果につながった例があまりにも多かったというのが歴史の教訓です。
　宮崎監督は、それと対極なそれぞれが自分の生存のために他者を傷つけてしまう世界を神が滅びようとする時代を背景に我々の前に提示したのです。ただ、対立は仕方のないことだというニヒリズムに陥らないのは、そこに対立する双方をつなぐ存在がいるからです。一人はアシタカ、山奥の村でほとんど他の社会と没交渉に暮らしてきた少年、タタリ神を殺したために受けた呪いのために村を出ざるを得なかった。それが故にタタラ衆と森の神との対立に局外者としての視点を得ることができたと言えるでしょう。もう一人は”もののけ姫”ことサン。狼に育てられた少女。剽悍な戦士としてタタラ衆と闘っていますが、彼女も神＝獣と人間との境界に立つ者です。局外者と境界者という視点から二項対立を超えることは可能なのか。その答えは宮崎監督自身も明確には得られなかったようです。しかし、あのラストには悲劇的であっても、まだ希望がありました。世界は続いていく。あきらめずに自分の一歩を進めていければいいなと思いました。
　何だか硬くて分析的なレヴューになってしまいました。宮崎作品は監督をはじめとする製作陣の全身全霊がこもっているので、こちらとしても受けとめるには相当の体力が必要なもので、文章もそういう雰囲気になってしまうのです。そこで、ここらで息抜きという訳ではありませんが、”趣味の時間”であります。劇中でタタラ衆が使う火器ですが、日本史的には鉄砲伝来は１５４３年の種子島からとなっており、これは多分、宮崎監督の想像なのだと思います。といっても根拠のないものではないでしょう。あの形の火器は火縄銃のもっとも原始的な形で、ヨーロッパで「ハンドキャノン」と呼ばれたものなのです。ちょっと長めの壺状の鉄製品の側面に小さな穴を開けます。壺の底にくぼみをつけ、そこに木の棒を差し込みます。壺の口から火薬と鉛の丸い弾を押し込み、おおよその狙いをつけて側面の穴に火のついたもの（木の枝でも縄でも）を突っ込むと火薬に点火して発射となるのです。威力も精度も後の火縄銃に比べれば数段落ちるものですが、これが中東からアジア、中国あたりを経て日本に入っていた可能性があるのではないかと考えたのではないでしょうか。まぁ、そういうのも監督らしい遊びですが。
　どうも長々と勝手な考え（妄想？）を書き散らかしてしまいましたが、本作は一度、ご覧になって損はない作品であることは間違いないでしょう。

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環境破壊への警告や自然との共存を常にメインテーマとしている宮崎アニメの中では、かなり分かりやすく描かれた作品ではないでしょうか。
もうほとんどそのままと言ってもよいくらいですね。

ただ戦いのシーンなどで首が飛んだり、腕が切り落とされたり・・・ちょっとお子さんには刺激が強すぎる場面も多いかもしれません。
具現化されたかに見える神も、結局は観念的な要素が強すぎるため、よく分からないといった印象を抱いてしまうように思います。やはり大人向けでしょうか。

ストーリーと表現の美しさに関しては及第点を献上したいところなのですが、どうしても声優のミスキャストが気になります。
中でもサンの声をあてた石田ゆり子は浮いていましたね。
ここをプロの声優がやっていれば、もっと本作の出来は良かったかも。
最近のジブリ映画は役者やタレントを起用することが多いのですが、これではいたずらに作品の質を下げてしまう結果となり、ファンのひとりとしてはいつもその部分を残念に感じてしまいます。

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＊ 宮崎監督…、どうして、この人が作り出すアニメは、こんなにもリアルに感じるんだろう？
　アニメの世界なのに、登場人物の一人一人が生きていて、生活していて……、まるで、彼が描き出した世界が、すぐそこに存在しているかのよう…。

　『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』…、どれも違う世界観なんだけど、テーマは一緒というか、同じメッセージが込められている気がした。それは、＜自然（地球？）が一番強い！＞ということ…。どのアニメも、人が作りしものは吹っ飛んで（それも見事にぶっ壊される（笑））、自然が生き残る、もしくは蘇る…。「自然こそが最強！」…、まさに、そう聞こえてくるようだ。
　そんな、同じようなメッセージが込められたアニメだけれど、この『もののけ姫』だけは、訴え方がとてもシュールな気がした…。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』で感じたワクワク感が、まったくと言っていいほど無かった…。ただただ、自然そのものの存在が描かれていたような…。

　人間にしろ動物にしろ、生きる生物すべてに無くてはならない自然…。決して、誰の物でも誰の味方でもなく、ただそこにある…。このアニメでは、その自然を具体化したかのようなシシガミという存在が描かれていた。そして、それをそれぞれの価値観で、崇めたり倒そうとしたりする人間や動物達…。＜人間VS人間＞＜人間VS動物＞…、空しい戦いが描き出されていた。

　もしも、動物に人間と同じ知能があったなら…、このアニメのような争いが起きるのだろうか？まるで、人間が石油をとりあって戦争するように、自然を奪い合うのだろうか？……。
　視聴者をその世界観に引き込むだけではなく、考えさせる…まさに、壮大なアニメだった…。

　でも、見終わった後の満足感が無かったアニメでもあった。
　まるでそこに存在しているかのような、この『もののけ姫』ワールド…。物語の結末は描かれていない…。見る人一人一人が、想像する形で締めくくられていた。これ以上にない終わり方なんだけど、この『もののけ姫』ワールドが現在進行形のまま置いていかれたようで……、アニメを見終わったという満足感がなかった…（『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』を見終わった時のような満足感が…）。

　＜未完のアニメ＞…そんな気がした…。
　この物語の主人公、アシタカとサン…、この２人の行く末がとても気になった。まだまだ旅の途中というか、人生の途中というか…、２人ともが考え中のまま終わってしまったので、結末が見えない気がした。視聴者も模索中みたいな…（笑）。

　ちなみに、このまったく同じ世界観で、サン中心の物語も見てみたい。
　このアニメには２人の主人公がいた…。動物目線で物事を考えるサンと、誰の味方でもないような中立的なアシタカの２人…。どうも、このアシタカの存在がビミョーだった…。人間と動物、どちら側でもない中立的な存在…。まるで、このアニメに登場したシシガミの存在に似ている気がした。達観しすぎて、人間くさくないというか何というか…。どうも、いまいち感情移入しにくかった…（人間できすぎてて…）。

　このアシタカの存在感をもう少し弱めて、思いっきりサン中心で構成した『もののけ姫』…是非、見てみたいです！！！

本作は、なんと池袋では二箇所の劇場で公開してたんです。凄いヒットしてたんですね。マイナーの方の映画館行ったけど立ち見と言われて帰ろうと乗り込んだエレベーターで家族連れのパパさんが、「俺たちは、断られたのはこれで三回目なんです。仕方がないから今日は、エヴァ見て帰るつもり」と言ってました。

平日夜に出直してやっと見れたのです。一度見た時は、ちょっと難しいかなという印象でしたが、再放送で何度か見ると面白さが分かってきました。

ぶっちゃけアシタカの一目ぼれの恋の物語かと。木陰からサンの姿に息を呑むシーンには、惚れたなっ！と。もう興味や心配はサンのことばかり！！　村人撃たれても関係ねぇっ！！　サンの為なら・・・美男美女だし、とてもお似合いです。

猩々という日本酒のラベルに猿のイラストがあったので、おっ！あのサンたちに石を投げてた猿かぁ。ちゃんと日本各地の神話や伝説にちなんだ動物たちが登場してたんですね。山犬は多産の神として祭られてる神社もあるし。

アシタカ役の声優の松田さんは子役で活躍されてた方です。「家族ゲーム」では、長渕剛と競演しててよく笑わせて頂きました。昔の長渕さんはコミカルな演技が上手くて、今のような威圧的なキャラではなかったんです。残念です。

話が脱線してしまいましたが、宮崎作品には珍しいストレートな恋愛映画かと私は思います。自然破壊とか神々とか難しいことは抜きにして、単純にアニメならではの表現の豊かさとダイナミックな映像を堪能すると面白いです。

この歌まねをする奴がいた！俺には無理