パリ、テキサス

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わたしにとって完璧な映画。好きな映画はパリテキサスという人のことは、無条件で信頼してしまう。１番見た回数が多い映画は、クリスマスになるとつい、見ていた戦メリ。１番、記憶に、こころに深くしみついて離れないのは、このパリテキサス。

ナスターシャ・キンスキーという女優さんを知ったのはテスという映画だった。なんてきれいなひとなんだ、それからずっと気になっていた。彼女がヴェンダースのまわり道に出ていることを知らなかったので、都市の夏やゴールキーパーの不安、都会のアリスのヴェンダースが彼女を撮ったというだけで、どんな風に彼女を撮るのだろうと思った。
でも、それどころじゃなかった。まだ、中学生だったわたしには、理解できないところが多く、結末も、どうしてなの？なんでなの？ってとても苦しくなってしょうがなかった。でも、高校生になって大学生になって、大人と世間からみられる年齢を過ぎて、トラヴィスがなぜそうなったか、なぜそういう選択肢をとったのか、ジェーンの、ウォルトの、アンナの、ハンターのきもちが分かるようになってきた。

だれかをすきになる。自分の許容量を超えた愛情があふれてきてしまう。その相手が、自分を愛している。でも、肌をぴったり合わせていても、強く抱きしめていても、言葉をだしても、相手が本当に自分に向いてくれているのか、本当に自分のことを愛してくれているのか、そんなことは確認しようがないし、証明も立証もできない。容量オーバーの愛情は、自分を不安にさせ、時に自分や相手を崩壊させる。目に見えないものを確認しようともがいても、そこは空虚なだけなのだ。

砂漠。のぞき部屋。模型のようにからまるハイウェイ。
トラヴィス。トラヴィスとジェーン。トラヴィスとジェーン、ジェーンとハンター。
幕間があって３つの場所に移動し、移動とともに、人間模様も動いていく。

弦をスライドするライ・クーダーのなんともいえないギターが、ロビー・ミューラーの撮影する映像とからまる。完璧。ヴェンダースはこの映画のためのロケハン中に、ライカでアメリカ中を撮っている。その写真も本当にすてきだけれど、彼がライカで焼き付けた風景そのものの印象で、ロビー・ミューラーは撮影している。この感じは、ロビー・ミューラー以外にはとれないだろう。

印象的なシーンはいくつもある。まだ、兄夫婦寄りにこころがあるハンター。８ミリをみんなで見ているうちにアンナ、ハンター、トラヴィスの距離関係が微妙にずれだす。８ミリは、わたしの両親もたくさん撮ってくれて、ふすまに映してよく見ていた。カラカラカラという、フィルムがまわる音の中で、自分や自分の家族が記憶通りに動く様を見る気分は特別だ。その暗闇で、すこしずつ、きもちが動いていき、ずれていくのがよく出ている。
のぞき部屋のやりとりは、何度見ても胸がつまる。マジックミラーを隔てないと、はなせないふたり。マジックミラーがあるから正気を保て、はなせなかったことが話せる。最後のシーンも、今なら、トラヴィスの選択がわかる。トラヴィスは、自分のこころが強くないから、幸福な物語は、幸福な物語のままで自分の本棚にしまっておきたいから、自分の手でそっと閉じて、そっと元の場所に本をおさめるほか、ないのだ。ジェーンも、年齢を重ね、当時は理解できなかった夫のきもちが分かるようになり、だから、ふたりはこれからも距離をおいて、それぞれの道を歩いていこうと決意できる。

とてもすきな映画だけれど、同時にとてもこころが苦しくなる映画。
ジョン・ルーリーに気をつけて。

大好きな『ベルリン天使の詩』のヴェンダースの作品。
人と人が愛し合って家族になって、でもそれで一体どこに辿り着くんだろう？
そんな事をふと考える。

誰かの近くにいることを許されるなんて幸福だ。
でもふと、何かの際に思うことがある。私も、私の大好きな人も本当は独りずつ生きているんだと。どんなに心を許しあった気がしていても他人なんだと。
他の人を完全に理解する事などできない。自分を理解するのだって難しいのに。

言い争ったり喧嘩をしたりしなくても、たとえば深い青い空を見たとき、たとえば歯ブラシが寂しく立てかけてある時。遠くから自分を見つめ何もかも抱え込んだまま何処かへ彷徨ってしまいそうになる。

決して人には（自分にさえ）触れられない場所が心の奥底にはある。外の空気にさらされる事なくたくさんの蔦が絡まり花が咲いている…あるいは砂漠のように果てしなく乾いた場所。他人どころか自分にさえ迷宮のその地。

そんな場所に迷い込んでしまったら私は戻ってこれるだろうか。
…誰かが私を見付けてくれるだろうか。

Discasでは一位登録者573人、在庫は5枚…
Tsutayaさん、もう少し考えてよ。。。

1984年(西独/仏)ヴィム・ヴェンダース監督作品。

鮮烈な愛の物語でした。
私の中で、狂わんばかりのラブストーリー映画NO1は、
「ベティ・ブルー愛と激情の日々」が断トツでした。
この映画「パリ、テキサス」も同率首位に躍り出ました。

映画は冒頭のシーンで、主人公のトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)がテキサスの荒れ地に、水も無く行き倒れた放浪者として登場します。

この初老の痩せた男は、記憶喪失なのか、クチを聞きません。

ロサンゼルスから弟が迎えに来ます。
トラヴィスは4年間も音信不通で、弟はトラヴィスは半ば死んだものと諦めていました。

トラヴィスはクチを聞かないのに、モーテルから逃げ出す。
飛行機に乗ってロスを目指すと、パニックになり、降ろされる始末。
弟は仕方なくレンタカーでロサンゼルスへ戻ります。
そこにはトラヴィスの7歳の息子・ハンターがいます。

そうしてやがてトラヴィスの過去が分かります。

《若妻を愛し過ぎて、自分を失って放浪の旅に出たこと》

弟の妻がトラヴィスの元妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)の
立ち回り先を教えてくれたのです。
トラヴィスはハンターを古びたピック・アップトラックに乗せて、
元妻のいるヒューストンを目指すのです。

待ち伏せした銀行で見つけたジェーン。
赤の小型車を尾行します。

行き着いた先は、とある風俗店。
ジェーンはマジック・ミラーの個室で客の相手をする風俗嬢だったのです。

ここでトラヴィスが語るジェーンとの過去。
愛し過ぎて・・嫌われて・・逃げられて・・妻はハンターを捨てて・・

一緒に暮らすと壊れてしまうトラヴィスとジェーン。
でも、ラストに一筋の希望が見えて来るのです。

だってトラヴィスが、さすらいの放浪者から、ステキな一人前の男に
成長しているんですもの。

あまりの愛の喪失から、自分を見失った男・トラヴィス。

映画の中で、「イングリッシュ・ペイシェント」のレイフ・ファインズ
と同じくらいに愛に殉じていました。

「テキサス州パリス」が原題です。
フランスには行きません。

映画好きにとって、生涯で出会う作品の中で、真に自分の宝物として心の中で生き続ける作品は果たして何本あるのでしょうか。

この映画は、私にとって間違いなくその中のひとつとして数えられる作品です。
かといって、だれかれと薦める気にはならず、自分の中で大切にしまっておきたい、という気にさせる作品です。この作品のファンにはそういう方が多いのではないのでしょうか。

淡々としたストーリーである上、説明的なカットや台詞が少ないこの作品の中で、頑なに自分の心の一点を見つめるようなハリー・ディーン・スタントンの眼差し、そしてそこに響くライ・クーダーのスライドギターの音色は、観る側の心のひだの奥底に染み込んでゆき、いつしかこの作品の世界に引きずり込まれます。

「人生とは旅である」という使い古された月並みな言葉の意味を、心底実感できる稀な映画です。