チェイサー

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

いかにも韓国映画というような作品。
似た題材の「殺人の追憶」や「オールドボーイ」に非常に似ている。

題材となっている実際の事件「ユ・ヨンチョル事件」を基にしているとのこと。
「殺人の追憶」が終盤秀逸だったのに対して、チェイサーは前半が秀逸品。
後半は意外とまとまりもなく、オールドボーイを見てるかのような格闘シーン。

実際の事件でも警察の不手際が多々あったようで、それに対する痛烈な
批判を脚本化することにちょっと執着しすぎたのではないだろうか。

連続殺人や猟奇殺人を扱った映画では犯人がどれだけ魅力的な（映画
としてひきつけられるか）がミソ。

チェイサーのよさは明らかに構成。
前半で逮捕させそこから話が展開していくというある意味斬新。
いつものなら脚本の核となるはずの
なかなか捕まらない犯人。。。
警察との知恵くらべ。。。
謎に包まれた犯人象。。。
これらが全て存在しないのだからかなりの博打だったかもしれない。
しかしそこはミジンをあまりにも不遇なエンディングへもっていくこと。
非常に魅力的な子役を使うこと。
徹底的な無能警察の描写なんかで相殺しさらに猟奇シーンで他への
意識を遮断してる。

もちろん、悪くはないんだけど、チェイサーという作品自体は意外と
粗いつくりでクオリティとしてはそれほどでもない気がするし、なるほど
初監督作品なんだと納得しちゃう出来栄えでもある。
されど、脚本化「ナ・ホンジン」としては侮れない。間違いなく。

これだけの好評価を得ているわけだから、博打には勝ったわけだが、
これも新人監督で低予算、期待されない環境で好きに作れたから
こそなのかもしれない。
好き嫌いは別としてギドクのように明確な世界観を作り続けていくので
あれば見逃せない監督のひとりになる可能性は大だ。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

夜の街。
携帯を片手に、どうやら待ち合わせをしているらしい女。
程無く一人の若い男が現れ、二人は、女が運転してきた車でその場から立ち去った。
男に言われるままに車を停めた場所は、住宅街の坂道だった。
そこから、さらに坂道を歩いて上って行く二人。

風邪で寝込んでいるミジン。
携帯が鳴り、幼い少女がミジンにその携帯を渡す。
仮病扱いされ、ミジンは娘をひとり残したまま、仕方なく仕事に出る。
待ち合わせに現れたのは、冒頭と同じ男。
そして、同じ坂道に車を停め、ミジンは促されるままに男の家に入る。
男が手にしていた鍵束。。。

この二人の女の失踪を、ジュンホ（元刑事で、今はデリヘルの経営者）は、電話してきた客によって売り飛ばされたのだと考える。
以前にもあった店の女の子の失踪の時と、今回の客の電話番号が同じだったことから、ジュンホはその客を捜し始めるのだった。

・・・　・・・　・・・　・・・　・・・　・・・　・・・　　　

ミジンが招き入れられた、高い塀に囲まれた大きな家。
何よりも、客の男が手にしていた、おびただしい鍵の束が不気味でした。
その後の、ミジンが味わった恐怖や、やっと自力で逃亡したにも関わらず、再び迎えなければならなかった惨事を思うと、私は身体中の力が抜けてしまった様でした。
どうして？
どうして・・・？
私の頭の中は、たくさんの疑問で溢れています。
犯人のヨンミンは、何故、連続猟奇殺人犯となったのか。
生きたまま頭部をノミと金槌で打ち付けるという犯行の手口は？
ミジンの娘の行動と、あの怪我は一体・・・？
彼が知人の部屋の壁に描いた白黒の絵画の謎。
自ら殺人を自供している犯人を、何故もっと拘置できなかったのか？
相次ぐ行方不明者がいて、一部は惨殺されて発見されているのに、警察のあの暢気さは？
ヨンミンが、「最後の女は生きている」と言っているのに、警察が本気で捜そうとしなかったのは何故？
犯人を尾行しておきながら、犯行を止められなかったのは、どうして？
凶悪犯だと分かっていて、女性刑事を一人で尾行させたのは何故？
ミジンの通報に迅速に対応しなかったのは何故？
ミジンを助けようと必死だったのに、どうしてジュンホは、彼女からの電話に気づかなかったのか？

ヨンミンがミジンにかけた「おまえが消えても、誰も捜さないさ」という言葉は、人間の存在などちっぽけなもので、他人にとっては人ひとりが居なくなっても影響はないのだと言ってるようです。
幼いミジンの娘が、大人たちの会話や様子から、母の身の上に起こったことを感じ取って車の中で泣き叫ぶシーンは、胸が張り裂ける気持ちでした。
ミジンを商売道具としか思っていなかったジュンホが、この少女にとっての母の存在の大きさ、この子のこれからに思いを馳せることができたことは、せめてもの救いでした。
私たちが生きていく上で、他人を案じたり、自分の身に置き換えてみるという想像力は必要です。
想像力の少なさが、世間の無関心や冷たさに繋がっていくのだと思います。
この作品のモチーフとなった『ユ・ヨンチョル事件』を調べてみて分かったのは、犯人が重度の色弱だった事。
壁に描かれたモノクロの絵は、そういう理由から来ているのでしょうか。
作品全体のトーンも夜の闇の中が多く、モノクロのような映像が多かったように思います。
その画面の暗さは観ている者の気持ちをより重くし、打ち付ける雨は陰湿さを増し、救いようの無い思いに拍車をかけます。

・・・　・・・　・・・　・・・　・・・　・・・

特典映像のポスター撮りのシーンは、興味深く観ました。
一瞬にして、その場を作品の雰囲気に作り上げてしまう監督と俳優さんの力は流石です。

※劇場公開時に書いたものです。

主人公を含め登場人物のほとんどが影を持ち、妥協を繰り返して、この腐ったドブのような世界を作り出している一部になってしまっているという設定が皮肉でおもしろい

そして、主人公たち（≒私たち一般の大人）とは別の次元にある二つの魂と対峙させてある。それは、母（ミジン）の愛によりまだ"汚れていない幼き娘"と、今までの常識とは全く"別のモラルの中に生きる犯人"・・・

どちらの魂も、この世界が生み出した人間であって、主人公（ジュンホ）がぎりぎり踏みとどまった光の先で生まれたのがミジンの娘であり、ジュンホが踏みとどまれなかった闇の世界が生み出したのが犯人なんやというのを主人公（≒観客）につきつける。

このまま世界を腐らせて行けば、犯人のような人間をさらに生み出して行き、ミジンの娘が汚れずに住める世界はますます無くなってまう・・・いや、既に無くなってもーてるんやないのか！？

そして、この映画は、私たち、この世界の一部を担ってる人々に問いかける・・・"この世界はこのままでいいのか？犯人とミジンの娘、どちらの未来の為に世界を残すのか？"

□■□■□■□■□

けっこー暗い映画っすけど、観て損はないと思います！

・・・なんか最近マジメにレビューっぽいことやってんな〜・・・

個人的満足度　82点

本当にあった事件（一年足らずの間に，20〜30人ほど殺害されたらしい。）が基になってるといえば，思い出すのが「殺人の追憶」です。ただ，本作の場合は追う刑事側よりも，犯人と思われる青年ヨンミン（ハ・ジョンウssi）の演技が光っていて，決して「殺人の追憶」の二番煎じというのではなく，緊張感のある“サスペンス作品の秀作”に仕上がっています。
ただし，目を背けたくなるようなグロい場面もありますので，覚悟してご覧ください。

元刑事ジュンホ（キム・ユンソクssi）がなぜデリヘル業者に成ってしまったのか，殺人鬼はなぜ風俗店で働く女だけを狙ったのか，追う方も追われる方も，その身元や過去は明らかにされません。ただただ坂道の多い住宅地を全力で疾走します。カメラは固定されず，ピントも甘いのですが，これが反って緊張感を高める演出効果を上げています。
また，泣き出す子どものシーンや，殺害される女性のシーンでサイレントの技法を使ってますが，これは視聴者には，陰惨な事件を情報として認識させることができても，当事者達の叫びは聞こえてこない，という事を演出したのだと思われます。

本作は，韓国では500万を超す大ヒットとなりましたが，レオナルド・ディカプリオがリメーク権を取得したという話もありますので，ハリウッドがどのように演出するのか楽しみですね。

韓国映画の、こういった暴力的なサスペンス好きです。
日本やハリウッド作品に比べて容赦がなくて、ヒリヒリした緊張感がある。観てて“痛い”から、苦手な人もいるでしょうけど。

個人的には、このテのものの最高傑作は『殺人の追憶』だと思っていますが、本作もなかなかイイ線。予測不能なストーリーとタイトルにふさわしい疾走感で、グイグイ引き込まれます。でも、終盤はちょっとコクがありすぎるかな〜。裏の裏をかいたようなラストの展開がしつこ過ぎて、ちょっとモタれちゃいました(o´Д`)=з
荒削りなところが、新鋭監督の処女作ならではの魅力なんでしょうけどね。

ディカプがリメイク権を買っているそうだけど、こんな映画、ハリウッドで作れるのかな？残酷描写はもちろん、韓国の空気感や風景があってこそ、魅力のある作品に仕上がったと思うんですがね…。