コッポラの胡蝶の夢

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幻想奇譚という響き、「胡蝶の夢」というタイトル。
それにひかれてこの映画を観た。
失意のまま死にゆく老人が若返ってやり直すチャンスを与えられるという、そう書くと幼稚なファンタジーだが、若返ったことで出現した自分の分身やらナチスの影、様々な古代言語、転生、人類の未来まで、ちょっとてんこ盛りにしすぎで、やや難解。
しかし、映像がヨーロッパ的な色を帯びて美しく印象的な映画だ。

生涯をかけてきた研究をやり遂げられないまま年老いて絶望する言語学者ドミニク。
彼には時間が足りなかった。
突然、奇跡が起こって若返ることでその時間を与えられ、同時に天才的な知能も獲得した彼は、別人として第二の人生を生きる。
さらに、成就できなかった恋人ラウラと瓜二つの若いヴェロニカをも得て、美しい地中海の島で幸福で静かな日々を過ごすはずだった。
しかし、思いがけない不思議な現象によって、ドミニクは再び「研究の成就」か「最愛の人との別れ」かを選択しなければならない。。。

彼は第二の人生を生きて、結局、研究を成し遂げることも最愛の人と添い遂げることもなく、物語の冒頭と同じブカレストの夜の街にひとり彷徨う。
いったい、彼は本当に若返って第二の人生など生きたのかどうか。
すべてが死の間際の夢だったのか。
それでも、彼は寂寞とした孤独な絶望ではなく、一輪の美しいバラを手に、充足感を得ることが出来たのだ。
彼に必要だったのは、時間ではなく、愛する人を守る満足感だったのかもしれない。
3本目のバラは、ラウラに渡すイメージが欲しかった。

「胡蝶の夢」の無常観を語る幻想奇譚としてコンパクトにまとめたら、もっと美しい映画になったんじゃないかと思うのだが、演出過剰気味にいろんな要素を盛りすぎてごちゃごちゃした不思議物語になってしまった。
東洋思想に着想を得て映像化してみたものの、残念ながら、哲学的な風を装ってるというか、少し底が浅いという感じがする。
理解しようとするより雰囲気を楽しめればいいと思う。

最近、若返りの映画が流行ってるみたい。
ブラッド・ピットが主演の変な映画を観たばかりで、またこれも？！っていう感じ。
深夜に眠れなくてテレビをつけたりすると、身体を若返らせるための運動器具とかサプリメントの宣伝ばっかやってるけど、映画のネタまでその路線かよ！
ちょっと前までは吸血鬼の映画がやたら多かったけど、これも考えてみると不老をテーマにしたとこが大であった。みんな、年とるのはヤなんだよね・・・。

私も、できれば若返りたい。若返ったついでに超能力も使えるようになって、頭もよくなって、なんでも覚えられるようになって、若い美女に愛されたりしたら、さぞ嬉しかろう。
けど、そんなことがあるわけない。我々は現実の世界に生きていて、厳しい自然の摂理をねじまげることはできない。与えられた環境の中でいかにして幸せになれるか、を考え、努力しなくてはならない。努力は報われることが少なく、人生には失望することが多いわけだが、そこに夢を持たせてくれるような映画はすばらしい。
ありえない設定で夢物語を語られても、夢は持てない。励まされもしないし、勇気づけられもしない。そんな映画なら、運動器具やサプリメントの方がありがたい。

コッポラも年とって、ボケてきたんだろね。
黒沢明も『乱』をつくってるうちにボケがきて、その次につくったのは『夢』だった。

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陽の落ちかけた夕暮れの窓辺、ゆっくりと揺れる揺り椅子に座る老人の、皺を刻んだ肉厚の手のひらに包まれたブランデーグラス。ゆるやかなカーブの底で濃い琥珀色の液体の鈍く揺蕩ううねりの中で始まり、そして終わった。そんなお話でした。

言語の発祥をテーマに研究に没頭する学者ダニエルは、一生をかけてきた研究が未完のうちに命の終わりを予期します。そんなころ落雷に打たれ、奇跡的に命は助かり、更に70歳の彼は30台へと若返るのです。時は第二次世界大戦前のハンガリー。侵攻してきたナチスに生命科学の研究対象として追われ、ヨーロッパ各地を逃亡する事となります。前半のこの辺りはまるでサスペンスのように進みます。

ダニエルは若い頃、研究のために大切な人ラウラと離れますが、ある日、最愛のラウラに瓜二つの女性と出会います。その直後に彼女もやはり落雷に打たれるのですが、他者の記憶を呼び覚ましており、古代インドの女性の生まれ変わりでした。程なく恋に落ちる二人。切なくも甘美なラブストーリーとなっていきます。それも最初は優雅でクラシカルなのですが、徐々に時空を超えた壮大さを見せるのです。

二人が一緒に暮らし始めると、彼女は夜な夜なうなされ、何かに憑依されたかのように激しい振る舞いをします。
無意識下では古代インド語であるサンスクリット語を話し、徐々に時代は遡りエジプト語、そして更には言語の形を成さない言語の創成期にまで遡っていきます。この辺りや分身の様な人物の登場ではすこしホラー風にも感じます。

それが彼の研究の役に立つと喜ぶのもつかの間、彼女はやがて身体の老いを味わう事なり、容顔は20歳以上も更けてしまいます。自分が原因していると察したダニエルは側にいられなくなり、別れを決意します。そして遠くから見守り続けるのです。そして月日は過ぎて・・・
全体的には夢か現かのファンタジーなのでしょう。

でもこのお話はどこまでが現実でどこからが夢なのでしょう、すべてが現実でありすべてが夢なのかも知れません。あらゆる要素がふんだんに盛り込まれ、戦時中とその後はまるで別物語のようでもあります。荒唐無稽な話のようで全編ゆったりとした流れの中に包み込まれとても自然に感じました。そして、私には幾つかの謎が残って、更に心が引かれ続けます。なんて魅力的な映画でしょう。とても好きになりました。

奇想小説の映画化ということですが、せっかく奇想の世界を描くのだったら、もっと想像力を自由に羽ばたかせた映像を構築して欲しかった。
そのあたり、アメリカ人に愛され続ける映画「ゴッドファーザー」をつくったコッポラの常識人としての面が出てしまったのでしょう。
同じ小説を、例えばデヴィド・リンチがつくったらと、考えてしまいます。
でも、コッポラは体質的に合わないながらも、こういった映像化の難しそうな作品を取り上げたことには意義があると思いますし、ハッとするシーンもあり、飽きずに２時間過ごすことができました。
こういった作品は、製作者のいろいろな意図が込められているのかもしれませんが、考えたら迷宮から抜け出せなくなってしまうこともあり、この類の作品に出会うと、小難しくいろいろ考えて意味づけをするよりも、映像から受ける印象をその場その場で自分なりに素直に受け止めて流していく、そういう観方をしています。
本作は、あえて劇場の大画面で観たかった、と思えなかったというのが私的評価です。

"コッポラの"という邦題タイトルの冒頭に怖気づいて敬遠したままになっていた。
そういう作品は年末鑑賞にピッタリ　？　
・・ぴったりでした。
面白かった。全身くまなく蝶と化しラストまでひらひら状態。
気持ちよく空腹感萎えるお話しでした。
昆虫は好きなのだけど、蝶はちょっと......。嫌いではないけど、昆虫としては好きになれない。
昆虫らしくない。どちらかといえば蜘蛛の仲間。あと二本、足をどこかに隠していると内心確信している。
その蝶が期待通りの振る舞いをしてくれている今作。好ましかった。
ゆらめく映像と色が素晴らしい。特に炎と青。
「無」という漢字が
羽をたたんで地面に横たわっている蝶の死骸のように見えてきた。
たぶんこれからも。デジャブな美しい形をした漢字。

ヴェロニカ と ラウラとルピニを演じたアレクサンドラ・マリア・ララ。綺麗な声。唯一ひらひらしていなくてしっかりと画面にはまっていた。未来新種、甲殻を持った蝶のごとく。
長身の彼女といるときドミニク（ティム・ロス）が彼女の羽に見えた。あやふやな輪郭の鱗粉のない湿った羽。
飛ぶためには左右が必要。右と左のドミニク。巧みな映像に見蕩れた。
毎夜、夢の中で過去へ過去へと戻りながら、叫んでいる誰かがたくさんいるんだろうと想像できるようにもなった。
目覚めて覚えていない、まともな夢を生きていれば見ることができる.....あたたかいラスト。
観終わって、眠りたくなりました。