２１グラム

すばらしい！こんな作品は初めてだ。頭から終わりまでこんなに集中して作品を見たのは久方ぶりである。私はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャロトゥ監督の作品を見るのが初めてだったので見始めてから１０分ほどの間、訳がわからなくて少しパニックになった。その訳はストーリーの時間軸がクロスしながらストーリーが進行していくからなのだ。つまり、話が前後するのである。過去のショットもあり、未来のショットもありそれぞれのショットの時間が前後しクロスしていくというような凄く変わった手法を使って３人の人生を描いていく。こんな手法は見た事がない。見た感じは全く違うが、現在・過去・未来を行き来し真相を究明するいう映画「リプレイ」という作品もあったがそれとはまた異質な作品に仕上がっている。

物語が前後しても凄く自然で違和感がない。まるで悩まないのである。それどころか快感まで感じたほどである。まるで頭の中でジグソーパズルのピースをひとつひとつ組み立てていっているような感じといえばわかるだろうか。話が繋がった時に新たな発見があったりしてもの凄く楽しめる。短いショットが時間軸をクロスさせ次から次へ展開していくので頭の中でパズルのピースを自然と組み立てている自分に気が付く。そして何の違和感も抱かずにストーリーの内容がしっかり理解出来ているという優れた作品である。これは凄い作品だ。こんな驚きは映画を見始めて初めて味わう。

この作品のおもしろさはそれだけにとどまらない。旦那と二人の子供を失い、ナオミ・ワッツ演じる抜け殻のようになってしまうクリスティーナ、ショーン・ペン演じる心臓移植を受けた数学者ポール、ベニチオ・デル・トロ演じる神を信じる前科者ジャック、この３人の人生が交通事故によってクロスリンクする。この３人の演技は文句の付けようがない程すばらしい。彼らの演技は最初から最後まで目が離せない。ストーリーの展開手法が手法なだけに彼らの演技と相まって次にどんなシーンが展開するのだろうか？次はどうなる？その次は？ともう画面から目が離せなくなってしまう。テーマは重いが重くなければ彼らの演技も編集手法も役に立たなくなるし、おもしろみもなくなってしまう。人生は死が訪れるまで何があろうと続くというのはある意味残酷な事なのかもしれない。

とにかく３人の演技をじっくり楽しむべし！役を見事に演じきった３人に乾杯！

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最新作『バベル』がアカデミー賞の候補となり、でもそれ以上にフィリップ・ガレルが『恋人たちの失われた革命』のパンフレットの中で注目している監督としてイニャリトゥの名前を上げていたので興味を感じて彼の作品を観てみました。

デビュー作であり『アモーレス・ペロス』も、その成功によりハリウッド作品として製作された本作『21グラム』も、そしてどうやら『バベル』も、三つのグループに別れる人物達が一つの出来事を軸にして関係し合うと言う点と、それを意識的に錯綜させた時間軸で語ると言うほぼ同一の構造、タイプの作品のようです。事件(出来事)も人物像も断片的に語られますから細かな事柄でも脇見をして見過ごすとその後の繋がりが読めなくなってしまいますから画面への吸引力はありますし、ラストもしくはラスト近くになってこれらがまるでパズルのように一つの形を形成するのは謎解きの面白さも感じられます。私自身両作品とも時間を忘れ・・・と言うほどではありませんでしたが、さしたる飽きを感じることもなくそれなりに楽しく作品を見続けました。

また、物語の語り方以外にもほぼ一貫して手持ちカメラを用いているところ、それも適度な利用方法に留まっているためラース・フォン・トリアー等のドグマ95の作家達のような違和感を感じさせないところも、手法的な統一感や独自性と作品としての仕上がりの調和がうまく取れているとも思いました。

しかし、ならば見終えた後に満足感を感じるかと言うと、大きな不満こそ感じなかったものの何だか消化不良感が残ってしまうのです。いや、消化不良と言うよりも、見た目はものすごくしつこくて、実際に舌に載せてみると確かにねちっこくて、でも嚥下したら違和感どころか味わい感も足りない・・・あっさりした感触しか残してくれない、そんな不可思議な料理を食したような感じなのです。

思えば錯綜した語りと時制は何もイニャリトゥの専売特許でも先行事例でもなく、多くのレビューの方が指摘されている通り、ポール・トーマス・アンダーソンの諸作やタランティーノの『パルプ・フィクション』、ポール・ハギスの脚本・監督作品などがすぐに思い浮かびますし、モザイク的な作品の組立方という点においてはデヴィッド・リンチとの類似性さえ指摘できるでしょう。もちろん映画においては先行作品や作家の参照、模倣、引用は大いにありですし、不可避なものだと思いますから似てるからダメだなどと言うつもりは毛頭ありませんが、『パルプ・フィクション』あるいはPTAやリンチの作品には錯綜という言葉だけでは言い切れない何かがあったと思いますし、手持ち主体に時間の錯綜というほぼ同一の特徴を持つ廣木隆一の『ガールフレンド』にはこの特徴の持ち味を最大限に生かした良さがあったように思うのです。

単純とは言えない複数の物語を時間軸を交錯させて過不足無く語るにはそれ相当の配慮が必要ですから、作品としての破綻を感じさせない、いやそれどころかこぢんまちしていると感じさせてしまうほど見事にまとめ上げているのですから、その力量は素直に賞賛したいと思います。しかし、策士策に溺れると言う諺があるように、策(手法的なもの)が前面に出てしまうとそれが自己目的化し作品としては本末転倒な結果を生み出しかねません。Ｔ♪さんが、「時間軸をずらしてランダムな映像が続くんだけど、あまり効果的じゃなかった」と述べられていますが、逆な言い方をするならジグソー・パズルを組み立てる作業自体は複雑であってもできた絵柄の見透しはあっさりしていると言うことだと思いますし、正直言って私も同様に感じました。

ジグソー・パズルのコマを複雑に細かくすることに注力するのではなく、ジグソー・パズルの絵柄そのものを見据え直すことがイニャリトゥの今後の課題ではないでしょうか? 『バベル』に期待したいと思います。

P.S.映画において「あっさりしている」の反意語は「奥深い」とか「深みがある」では無いと思います。人間ドラマとしての「あっさり」と「奥深い」なんてことは単なる比較の問題に過ぎず、これに対する反語は敢えて言えば「(言葉で説明できるようには)見通せない」と言うことになるんだと思います。

秀作です。
ジグソーバズルをしているような面白さがあります。
過去と現在がいろいろな人たちの側で展開されていくので、最初は解りずらいく？？？？なんだけど、徐々にパズルのピースを埋めるようにストーリーがわかってくる。
そして最後の１ピースがカチっとはまったようなラスト。
なかなかどうして、巧みな魅せられ方でした。
ショーン・ペンがすごくいいです。
お勧めの作品。

激しく揺さぶられました。
言葉が出ません。

あとは　ただ観てください、としか。

　この映画は、できごとをすべてばらばらにし、未来も過去も空間もなんの脈絡もなく繋いでしまう。映画の冒頭にラストシーンを見せられたかと思うと過去に戻りまた未来へそして再び現在へ。いや、どれが未来なのか過去なのか現在なのか、それすらわからないように編集された「むちゃくちゃ」な映画だ。だが、絡みついた糸をほどいていくと、そこには壮絶な物語が見えてくる。

　本来出会うはずもなくまた出会うべきでもない心臓移植のドナー遺族とレシピエント。その二人が出会い愛し合ってしまったら？　突然の事故死という不幸と移植による再生という幸運の二つが同居する脳死移植の表裏が重なったとき、ドラマが動く。

　生きる希望のすべてを失わせるような試練を3人それぞれに抱えさせた脚本は、その3人がどのようにその「生」に決着をつけるのかを描いていく。その苦しい「生」は、自殺すら許されない。とりわけ、＜どうやってでも生きる＞ことを強制されるという苦しみを背負わされたジャックにとって、生き続けることこそが罰のように見える。

　きっと、「生命」と「人間」とは別物なのだろう。「生命」にとって生きることは歓びであり善であっても、人間にとっては違う。人間とはつまり、生命が持つ「生き続けようとする本能」が壊れた存在なのだ。イニャリトゥ監督は、「死すべき者は死せよ。生きるべき者は生き続けよ」というメッセージを観客に送ってくる。

　3人の登場人物の誰に感情移入するかでまったく違った見方ができる映画だ。それだけ彫が深く、込められたテーマも広く複雑なのだ。

　イニャリトゥ監督の映像感覚は素晴らしい。色を何色か落としたような色彩と陰影を深くとったライティング、ざらざらごわごわした画面はそのときどきによって夢の中の世界のようにも思える。手ぶれの多いドキュメンタリータッチの画面と共に臨場感を盛り上げる。見事な絵が描かれた花瓶を粉々に割ったかけらを見せられているような物語の積み上げ方が、未来を先取りする不安をかき立てる。

　暗い・重い・つらいけれど、見終わった後にずしんとくる深い感動を呼ぶ傑作。
（レビュー全文はhttp://www.eonet.ne.jp/~ginyu/040616.htm）