スパイダー　少年は蜘蛛にキスをする＜特別版＞

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クローネンバーグ監督の主戦場、虚構と現実世界の物語。

まず全体的な印象ですが、クローネンバーグ監督の作品にしては非常に分かり易く
不条理や理不尽な点は皆無なので、物語にどっぷり浸れると思います。

物語は中年男デニスが久方ぶりに故郷の駅に降り立つ所から始まります
彼は幼い頃に罪を犯しそれが原因で精神を病み療養所暮らしでしたが退院し
社会復帰に向け支援施設での新たな暮らしが始まります
ですが施設の責任者であるウィルキンソン夫人と対面した直後
デニスの中で何かが鮮明な記憶と共に蘇ります
一体彼の過去に何があったのか、正に虚構と現実を合わせ淡々と描かれます
果たして記憶は真実を浮かび上がらせる事ができるのでしょうか
それとも彼自信が生み出した虚構に取り込まれてしまうのでしょうか
レイフ・ファインズの神がかりな演技と共に、皆さんも自分の過去と記憶は
本物で全てが真実だと確信を持って断言できるだろうかと。

本作グロも不条理な展開も無いので、らしくないと思われるかも知れないですが
クローネンバーグ監督の追い求めてきた精神世界の明確な答えではと感じます
人は如何に弱くも強い生き物なのかと私は感じました
要らないものを排除し、研ぎ澄まされた空気感を味わってもらいたいですね。

主人公は少年期に父親が母親を殺害するところを見たらしく、そのことが原因で精神に障害をおこしたらしい。彼が、精神病施設から社会復帰訓練療養所のようなところに移り、昔住んでいた家などを訪れながら過去を回想するといったストーリィ。
さすがにクローネンバーグ監督で、英国の湿った大気を画面に充満させながら、人間の心の闇をうまく描いています。
主人公の視点が現在、過去、現実、空想と境目がなく混じっているのですが、混乱しないように描かれており、最後にはまとまってきます。
真実と嘘とがせめぎあい、嘘の網の目から最終的には真実に到達するという、クローネンバーグ監督の巧妙な映像手法には驚きました。
ただし、地味なつくりのため、映画的な面白みには欠けるので、たいくつな作品に映る可能性があります。
そこを助けているのが役者陣。レイフ・ファインズ、ミランダ・リチャードソン（三役の演じ分けが見事）、ガブリエル・バーンが好演です。おまけに少年期のスパイダーを演じる子役が、成長したスパイダーのイメージと合っています。
この映画のオリジナルは日記風の小説らしく、著者自身が脚本を書いていますので、小説に映画と表現方法は違っても内容は同じだと思うのですが非常に現実味のある暗い話です。昨今日本でも心を病む人が多いのですが、その原因のほとんどは外部要因です。それとは違いここに描かれているのは内部要因。自分ではどうしようもない遺伝的に発生するものであり、そのせいか見終わった後に、より一層の恐怖感を感じました。
結局のところは、過激さは違えども「悪魔のいけにえ」と同じようなサイコが現れてくるということになるのでしょう。
特典映像の監督インタビューで映画の不明点を解説していますので必見。
ただ謎として残ったのは、主人公は蜘蛛なのか、それとも蜘蛛の網にかかった獲物なのかということ。「スパイダー」というタイトルを主人公の少年期の単なるあだ名からとってきたとは考えられません。彼は蜘蛛と獲物の両方だったのかな。
クローネンバーグ監督は円熟期に入ったのか、商業的なものを全く意識していません。作風が悟ったように淡彩になっています。

星★★★★★です！

描かれていない部分がたくさんあって、それを想像できるほど僕は頭が良くもなくて、さらに描かれていることでさえ半分くらいしか掴めてなかったんだろう。DVD特典の監督の話を聞いて、そう思った。でも、おもしろかった。そんな状態でも全く問題なく、おもしろかった。

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舞台はロンドン。列車から皆が降りた後、最後に一人の男が降りた。何かに怯えているようで、足取りもいまいち覚束ない。向かう先はアパートなのか、女性管理人が出迎える。後で分かったのだが精神療養施設の一種らしい。入居者の老人が話しかけてくるが会話に応じない。ひと言も喋ろうとしないその男は個室に案内されるが、落ち着かないようすだ。ひとりでバスタブに入ってる姿に孤独や不安のようなものが感じとれる。男は普段、４枚もYシャツを重ね着しその上からブレザーを着ている。管理人に注意されるが、これが気に入ってるらしい。1人で散歩をしたりカフェに行く。回想シーンと重なるので、観客は最初、現実だと勘違いするかもしれません(私がそうでした)。でも、観ていくうちに自然とわかりラストでハッキリします。
とにかく言葉を発しない男だが、ボロボロの手帳にビッシリと字を書きとめている。外出する時はカーペットの下に隠している。大切な物らしい・・・。
題名のスパイダーは男が少年時代に母から呼ばれたあだ名だった。
サスペンス風にストーリーは進んで行く。少年の頃の記憶を辿る男。殺人事件を目の当たりにしたスパイダー。犯人の記憶が鮮明に浮かび上がる。そして部屋に戻りクモの巣のように糸を張り廻らせる男。果たして、犯人は一体誰なのか・・・。そして、その結末は・・・。

「私の母は殺された。」このコピーからして不気味ですね。この作品。それに、少年は蜘蛛にキスをするなんて副題もついていますし。この作品は精神を病んだ男性の過去を追っていくお話です。彼の過去・現在・真実・虚構が複雑に絡み合い、いつの間にか観ている私たちがその絡み合った彼の記憶に足を踏み入れて引きずられて同調して行くわけです。彼の記憶の混乱に揺さぶられて揺さぶられて最後は驚くべき真実をみることになるのです。

この作品は映像や脚本に派手さはありませんが、不気味な彼の部屋といい、病んだ人間の心の闇をうまく表現しています。クローネンバーグ監督と主役を演じたレイフ・ファインズのコンビネーションがこの作品をここまで完成させたのでしょう。

賛否両論はあるかと思いますが、私にはすばらしい作品です。お試しあれ。