ボウリング・フォー・コロンバイン

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ムーア作品で感心するは、視点の広げ方がうまいと言うこと。アメリカを震撼させた少年犯罪を中心点として、その要因はどこにあるのか問題点を直線的ではなく、放射状に広げていく。その引き出しの広さと着想の豊かさを見ていると、日本のワイドショーで見られるゲームが悪い、ゴスロリが悪いと言った、短絡的な分析がほとほとアホらしく見える。

で、その理知的な分析を裏付けるのが突撃取材、というこの落差のコンビネーションが映画としてのダイナミズムを生み出している。「華氏911」でも書いたけど、ムーア作品にはムーアらしいやや先走った思い入れもそこかしこに見られる。が、監督の思い入れがないと映画とは呼べんだろう、と思うのだ。ゆえに、本作を見て「こんなのにダマされるな！」と言う人がいてもいい。先日見た「不都合な真実」があまりにもお利口に見えてつまらない理由がここにある。

歴史、メディア、福祉、経済…とめまぐるしく論点が提示され、最終的にたどり着くのは、「それでも我々は世の中を変えることができる」という力強いメッセージだ。少年が同級生を無差別に射殺するというこの上ない悲しい事件が発端でありながらも、Kマートに銃弾の販売を停止させるという具体的な成果＝行動することの大切さに帰結させていく。それは、かすかな希望でもある。世の中を憂うことは誰にでもできるが、希望を見せることはそうそうできることではない。Kマートの結果は偶発的かも知れないが、「取材する」という行為を通じて「希望を示す」というのは、メディアに関わる人間全ての願望ではないか。ムーアは、それをこの作品の中で体現している。そこが、私の五つ星の一番大きな理由。

さて、ムーアの取材対象としてチャールトン・ヘストンもその開き直りぶりがインパクト大だが、私が最も印象に残ったのは、マリリン・マンソン。彼がムーアに漏らした「恐怖と消費のキャンペーン」という言葉は、この問題の本質を捉えるのにこそ最もふさわしい。これほど的を得たキャッチコピーが、少年犯罪のスケープゴートとされている張本人の口から出たこと自体驚きだし、このインタビューは過激な歌手マリリン・マンソンが実は思慮深く、賢い人物であることを顕わにしている。着眼点にも、取材映像にも、新たな発見が本当にたくさん詰まっていて、何度見ても唸らされる作品だ。

監督自身、「コロンバイン高校の事件はトリガー（きっかけ）に過ぎなかった」と語っているように、アメリカ銃社会だけを問題にした映画ではありません。
これはその後の「華氏９１１」にもつながるテーマですが、”アメリカ社会は恐怖をコントロールされている”ことを懸念しています。人々は自己防衛のためと言い、近所で銃を買うのです。
作中、マイケル・ムーア監督とその点意見が一致していたのはマリリン・マンソンだったとうことをお忘れなく。彼が一番まともでした。

劇場公開当時に見たのですが、このときのマイケル・ムーアは大変新鮮でした。アポなし取材は「アメリカの電波少年」などと言われていましたが、当然、ハプニングのみを狙ったお下劣な電波少年とはまったく逆の極めてマジメな映画なわけで、むしろ「ゆきゆきて神軍」を見たときのような感覚でした。チャールトン・ヘストン宅に突然、インタビューに行くところなどは、やっぱりワクワクします。米国とカナダであんなに防犯意識が違うというのも、初めて知ってびっくりしたし、いろいろ発見も多く考えさせられる映画でした。このころのマイケル・ムーアにはユーモアがあり、まだそれほど政治的ではなくどちらかというとジャーナリスティックで良かったです。「華氏９１１」になると、もはやプロパガンダで、ユーモアにも乏しかったです。日本社会はカナダからアメリカへ以降しているようで、私の周りでもピッキング強盗やら痴漢やらが頻繁に出没しております。銃がなくて本当に良かったですね。

もともとドキュメンタリー好きな私ですが、
この映画を観て「なるほどこういう手法もあるのかっ！」と目からウロコの作品でした。
ドキュメンタリーですが、ほんまにこれ“映画”です。
あとマイケル・ムーア氏の銃をかまえて微笑んでいる映画のワンシーンの写真が、これを観るまではこの作品のイメージとして私の中に定着していたし、アカデミー賞でも問題発言（？）をしたこともあって、
「マイケル・ムーアは絶対ヤバイ。アポなし取材っていうのもきっと慇懃無礼にやってってるんだろうなぁ…」
と思ってたんです。でも、実際は本当に丁寧で謙虚に取材をしていってるんですね。本当に頭が下がりました。

確かにこのような映画として、ユーモアも交えながら（しかも絶妙にこれを絡めていることに脱帽！）社会の問題を投げかけられると、すごく考えさせられました。
私自身、マイケル・ムーア氏に突撃取材されたような衝撃を受けましたよ。

マイケル・ムーア監督は、「キワモノ」だと思っていました。
かなり時代や国に切り込んだ作品を作っているようなので、興味はありましたが、
ちょっとかなり偏った人ではないか・・・という偏見がこちらにあったので、なんとはなしに敬遠していたようです。

この映画、思ったより直球です。
アメリカの「銃社会」をするどく切り込み、その上、なぜゆえそうなってしまったかの歴史をうまく描いています。
そして、なぜ「コロンバイン高校銃乱射事件」が起こったかを描いているのです。
こういう言い方は、かなり失礼で、申し訳ないのですが、アメリカの現実を、マイケル・ムーア監督ほどきちんと認識している人は珍しいのではないでしょうか。
しかも、エンターテインメント性も高く、その上きちんと主張され、こんな人まで突撃取材？！（チャールトン・ヘストンさんとか）を逃げずにやっています。

映画の中には、ちょっと誤認識や見る側に誤解されるような表現がないこともないのですが、主張に筋が通っているので、それはそれでいいと思います。
なぜ高校生の乱射事件が起こったか、世間は大騒ぎし、犯人が心酔していたという理由だけでスケープゴートにされてしまった歌手のマリリン・マンソンとか、
映画やゲームの影響とかいろいろ論争をわき起こしたそうですが、
マイケル・ムーア監督は冷静です。
そもそも、全米どこにでもある「Ｋマート」で高校生が気軽に銃弾が買えるその社会こそがおかしいというのです。

この映画を観ると、アメリカの「銃社会」からの変貌は生半可ではない現実、なぜゆえアメリカは戦争ばかりしているのか・・・という空恐ろしい現実が見え隠れします。
アメリカの内と外、両方に向けて銃を向けているアメリカ人。
その弾の行く末をするどく見つめた良作です。