股旅

が必死で生きるアンチ・ヒーローもの。市川崑の映像美がでている。最後は笑ってしまうほどあっけない。

アウトローで不器用な3人が繰り広げるズッコケなロードムービーで、コメディの様な展開なのに笑う事が出来ない小さな不幸の繰り返しで織り成されています。
挿入歌が１曲だけあるのですが、琵琶？大正琴？で入ったり縦笛で入ったり時々の雰囲気を醸し出しています。時々入る戸田さんのナレーションがいい味を出しており、まるでハウツーヤクザの様な解説用のビデオみたいな雰囲気です。
この数年後に横溝シリーズが始まり作風が大きく変わりますが、その変化前の作品といった感じも、市川監督お馴染みの短いカットや光の加減などが時折見られ、面白い効果音も前半に１回だけ使っていた様です。金田一シリーズに向けての実験の様にも見えました。寅さんのとはちょっと違いますが映画＆時代劇好きならこの仁義とバナナの口上は聞いておいて損はないと思います。

- - 時代劇の復活を切望中 - -

TV「木枯らし紋次郎」のヒットのお蔭で製作された、本来市川昆が撮りたかったのは本作の方と聞いた事がある。丁度アメリカンニューシネマの時期とも重なる日本のニューシネマの感がある。当時ATGにはこういった低予算だが魅力的な作品が多数あった。多分時代考証がしっかりされているのだろうが、田舎の渡世人などはこんなんだったろうと思わせるリアリティである。昔、主役の小倉一郎のエッセイで本作の事も書かれていたが、相手役ショーケン、萩原健一とよく衝突していた事が書かれていた。憶測だが小倉が深作の「仁義なき戦い・頂上作戦」に出演した事に対する嫉妬ではないかと私は勝手に思っている。それ位萩原が「仁義」に出たがっていたのを読んだ事がある。そのショーケンが最近の本で市川昆がイヤな奴で大嫌いと書いてあった。残念な話だが、本作自体はユーモアもあってラストのチャンバラもド素人で面白く、唐突な小倉の転落死、ショーケンが一人路上で仲間を呼ぶ印象的なラスト、とかくクセがある演出で特に好きではない市川昆のこれはさっぱりとした作りの好感の持てる最高作だ。

久しぶりにしっかり見ました。画像や音楽とともに記憶は間違いなく刻み込まれていました。
ショーケンも尾藤イサオも若いあの日の通りに息づいていました。

「木枯し紋次郎」もしかりですが、時代劇という「型」を破るためのリアリズムは、今見ても新鮮でした。
アメリカン・ニューシネマはもちろんのこと、当時の映画界は古い型を壊すことが使命のような作品が濫立していましたが、今もなお残り続けるには、なにか「本物」を感じます。

数多くの視線(観客や批評）に耐えてこそ、時代に刻み込まれ、さらに次世紀へも語り継がれるもの。
クラシック音楽は言うまでもなく、古典とは、そういう意味でも「本物」であるという証でありはしないか？

弥次喜多道中みたいなのを期待していたんだけど、おもったより暗い感じに仕上がっていた。一宿一飯の恩義といえども寅次郎風の気ままな旅烏とは違い、股旅は死の恐怖そのものを抱え込んでいる。