「暗殺者の家」(1934、英国、白黒、75分)。ヒッチコックの英国時代の作品。原題は「The Man Who Knew Too Much」で邦題は直訳。原作はチャールズ・ベネット(1899〜1985)、D・B・ウィンダム・ルイス(1891〜1969)共作の原作、共同脚本はA・R・ローリンソンとエドウィン・グリーンウッド、台詞はエムリン・ウィリアムズ──脚本と台詞が別に練られているのが戦前トーキー映画の特徴ですね。音楽はアーサー・ベンジャミン。 スイスのサンモリッツでは、ジャンプ競技大会が行われていた。この場面で、主要な登場人物がすべて登場します。見事な始まりです。 ロンドン在住の「ボブ」(レスリー・バンクス)と「ジル」(エドナ・ベスト)の「ローレンス」夫妻は、一人娘「ペティ」(ノヴァ・ピルビーム)を伴い、当地へバカンスにやってきた。ホテルのダンスホールで、夫妻の知人「ルイ」(ピエール・フレネー)が「レヴィン」(フランク・ヴォスパー)という男に銃撃され、「ボブ」に「英国領事に届けてほしいものがある」と言って息絶える。「ボブ」は「ルイ」の部屋で紙片を発見。それは「レヴィン」を操る「アボット」なる謎の男を頭にした国際的暗殺団の戦争誘発企みを暴く内容だった。「ルイ」は英国外務省の諜報員だったのだ。紙片にはロンドンで計画されている暗殺の大まかな日・地名が記されていた。英国領事に紙片を届けようとした矢先、夫妻の娘「ベティ」を「レヴィン」が誘拐してロンドンへ逃げる。脅迫を受けた夫妻は、娘を救うため、ロンドンに帰る。……紙片に記された暗殺団の秘密連絡所は、怪しげな宗教教会で、「ボブ」もそこで人質になってします。妻「ジル」は友人「クライヴ」(ヒュー・ウェイクフィールド)から、暗殺がその夜、アルバート・ホールの音楽会であることを知らされ、会場に向かう。交響楽が始まり、その音に紛れて「レヴィン」は某国要人を射殺しようとする。夫と妻を人質に取られているが、思わず「ジル」は叫ぶ。 主要人物を一気に見せる見事な導入、その後の意外な展開でサスペンスを盛り上げ、誘拐が起こり、第一クライマックスでは交響楽を巧みに用いたスリルを劇的に高め、第二クライマックスでは一転、銃撃戦のアクション劇と、娯楽要素をすべて盛り込んだ傑作です。英国時代のヒッチコックは更に「三十九夜」(1935)、「間諜最後の日」(1936)、「サボタージュ」(1936)、「第3逃亡者」(1937)、「バルカン超特急」(1938)を創り、各々魅力ある作品ですが、本作は「バルカン超特急」と並ぶ6連峰の双耳・最高点にあると思いました。 クルト・クーラント(1899〜1968)の陰影ある白黒撮影は、近・遠景とも映画の緊迫した雰囲気を盛り上げます。夫妻の夫が誠に頼りなくて、妻が大活躍するのが楽しいです。脇で主役を喰うピーター・ローレの怪演には、同監督の「間諜最後の日」(1936)の「将軍」役で再会することができます。では続けて、セルフ・リメイク作「知りすぎていた男」(1956、米国、カラー、120分)を鑑賞することにします。
「暗殺者の家」(1934、英国、白黒、75分)。ヒッチコックの英国時代の作品。原題は「The Man Who Knew Too Much」で邦題は直訳。原作はチャールズ・ベネット(1899〜1985)、D・B・ウィンダム・ルイス(1891〜1969)共作の原作、共同脚本はA・R・ローリンソンとエドウィン・グリーンウッド、台詞はエムリン・ウィリアムズ──脚本と台詞が別に練られているのが戦前トーキー映画の特徴ですね。音楽はアーサー・ベンジャミン。 スイスのサンモリッツでは、ジャンプ競技大会が行われていた。この場面で、主要な登場人物がすべて登場します。見事な始まりです。 ロンドン在住の「ボブ」(レスリー・バンクス)と「ジル」(エドナ・ベスト)の「ローレンス」夫妻は、一人娘「ペティ」(ノヴァ・ピルビーム)を伴い、当地へバカンスにやってきた。ホテルのダンスホールで、夫妻の知人「ルイ」(ピエール・フレネー)が「レヴィン」(フランク・ヴォスパー)という男に銃撃され、「ボブ」に「英国領事に届けてほしいものがある」と言って息絶える。「ボブ」は「ルイ」の部屋で紙片を発見。それは「レヴィン」を操る「アボット」なる謎の男を頭にした国際的暗殺団の戦争誘発企みを暴く内容だった。「ルイ」は英国外務省の諜報員だったのだ。紙片にはロンドンで計画されている暗殺の大まかな日・地名が記されていた。英国領事に紙片を届けようとした矢先、夫妻の娘「ベティ」を「レヴィン」が誘拐してロンドンへ逃げる。脅迫を受けた夫妻は、娘を救うため、ロンドンに帰る。……紙片に記された暗殺団の秘密連絡所は、怪しげな宗教教会で、「ボブ」もそこで人質になってします。妻「ジル」は友人「クライヴ」(ヒュー・ウェイクフィールド)から、暗殺がその夜、アルバート・ホールの音楽会であることを知らされ、会場に向かう。交響楽が始まり、その音に紛れて「レヴィン」は某国要人を射殺しようとする。夫と妻を人質に取られているが、思わず「ジル」は叫ぶ。 主要人物を一気に見せる見事な導入、その後の意外な展開でサスペンスを盛り上げ、誘拐が起こり、第一クライマックスでは交響楽を巧みに用いたスリルを劇的に高め、第二クライマックスでは一転、銃撃戦のアクション劇と、娯楽要素をすべて盛り込んだ傑作です。英国時代のヒッチコックは更に「三十九夜」(1935)、「間諜最後の日」(1936)、「サボタージュ」(1936)、「第3逃亡者」(1937)、「バルカン超特急」(1938)を創り、各々魅力ある作品ですが、本作は「バルカン超特急」と並ぶ6連峰の双耳・最高点にあると思いました。 クルト・クーラント(1899〜1968)の陰影ある白黒撮影は、近・遠景とも映画の緊迫した雰囲気を盛り上げます。夫妻の夫が誠に頼りなくて、妻が大活躍するのが楽しいです。脇で主役を喰うピーター・ローレの怪演には、同監督の「間諜最後の日」(1936)の「将軍」役で再会することができます。では続けて、セルフ・リメイク作「知りすぎていた男」(1956、米国、カラー、120分)を鑑賞することにします。