ファントム・スレッド

映画通好みの作品、男女の愛の形の一つを描いているが単純に表現すると「愛の主導権争い」ということになるのだろうか。
1950年代のイギリス、オートクチュールの天才デザイナー、レイノルズと田舎のウェイトレス、アルマとの出会いからスタート。
さほど美形にも見えないアルマを誘ったのは別に一目惚れしたのではなさそう、レイノルズの職業的な審美眼がそうさせたのだろう。
レイノルズは亡き母の面影をひきずりながら新しいドレスを作ることに没頭しているが決して自分の生活パターンを崩そうとはしないしそれを邪魔されるのを極端に嫌がる。
単に気難しいというのではない。
モデルとしてアルマを自分のチームに加えたレイノルズ、彼が美しいと思うのはアルマ自身ではなく彼女がまとっているドレスにしか他ならない。
それが分かっているアルマ、レイノルズが完全に主導権を握っている愛の形、自分は何のために彼と一緒にいるのだろう。
自分の愛の表現にも興味を示さず、冷たい目を向けるレイノルズにアルマのとった異常な行為、これを境に愛の主導権は傾いてゆくことになる。
「倒れる前にキスしてくれ」終盤で発せられるレイノルズの名言、これが全てを物語るものと言えよう。
いささか理解に苦しむ流れではあるがこれも一つの愛の形なのだろう。

物語は・・・なんだろう、男女の部分はいまいち疎い者にとっては、よくわからんやりとりがただただ続いていくだけの作品にしか観えなかったです。

でも・・・主演のダニエル・デイ=ルイスさん。さすがです。格好いい。あんな格好いい男いないよ。映像もよく出来ていて、それも相まって、至極の男でした。だからこそ、相手さんとのやりとりは、よくわからんかったなぁ・・・まぁ、それも愛なんだろう、きっと。

セレブ御用達でドＳの初老仕立て屋がアシスタント的なつもりで雇った田舎娘に出会ったら、支配していたつもりなのにいつの間にかドМな部分を開発されてしまった話。に見えた。

素敵な衣装、縫製の雰囲気。
少し前の時代の服はやはり丁寧な職人の世界なので良い。その職人の妻になるのは自分の時間を減らして、人のために待つ、支える、自分の感情も相手に合わせるというので大変だと思う。
私の場合は相手の仕事に惚れ込んでいたら支えるのは光栄で頑張れるが、自分の感情を相手と合わせるのは苦手なので夫婦になれないだろう。

ダニエル・デイ=ルイスといえば
『存在の耐えられない軽さ』や『NINE』での女にだらしのない男ぶりが
私の中では印象的で、イケメンではないけれど
彼の口元のセクシーさに何故か心が震えたものです。
年を重ねても、その口元のセクシーさは健在でした。

そして本作。
気難しく、自分にも他人にもストイックな
オートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコック。
彼はウェイトレスの年の離れた若い女性アルマを
自分のハウスにモデルとして住まわせる。
当然アルマはレイノルズに惹かれているからこそ彼の側にいることは
嬉しいわけです。
レイノルズにきつい言葉で窘められても
共同経営者らしきレイノルズの姉の突き放したような冷たい視線にもめげず
次第にレイノルズの心を掴み始めるアルマ。
そして彼女はレイノルズを自分だけのものにするための計画を立てるのです。

アルマの行動は究極の愛なのでしょうか。
こんな風にして手に入れた愛でも嬉しいものでしょうか。
アルマを演じたヴィッキー・クリープス はどこか田舎の香りがする地味な顔立ちで
却ってそれがアルマという魔性の女の魅力を引き出していたのかもしれません。
地味な風貌なのに、その中身には魔女が住む、女は怖いよ、という見本かもしれません。

ナイトの爵も授かっているイギリスを代表する名優であるダニエル・デイ=ルイスは
本作をもって俳優を引退し、ファッションデザイナーに変身したようですが。。。。