セレブの種

参ったね。
スパイク・リーだよ。
とんでもないもんをテーマにしたもんだなあ。
降参。

でね。
映画自体は、アメリカでも賛否両論、喧々囂々いろいろ物議をかもしたようなんですが。

この映画の日本での売りかたってもんに、心底がっくり、というのが今回一番の感想です。
もともと、映画のテーマにはエイズの新薬の開発と認可をめぐる企業の裏側事情や、株のインサイダー取引や内部密告という、現代社会の抱える暗部みたいなものが大きく取り扱われています。

映画の前半は、ほぼこんな話で始まっていく。

セレブの種　という邦題にもなった「レズビアンのカップルに子種を売る」商売を主人公は始めるわけですが、その背景には上記の事情が色濃く敷き詰められているわけで。
原題は「She hate him」です。

ま、確かにレズビアンカップル相手に一晩何人もセックスするシーンは繰り返れて、かなりＨな場面も、コミカルな場面もたくさん出てきますが。

でも、結果的には、アメリカでアフリカ系の黒人が、生まれも育ちも学歴もルックスも申し分のない「セレブ」の種を持つ男として、レズビアンのカップルに熱望されて、種付けをして、結果的にアフリカ系黒人の「セレブ」な子孫を１ダース以上作ってしまう、と。

そういう、もうむちゃくちゃ皮肉な展開となっていくわけで、そこに大企業の陰謀がからんで、ウォーターゲート事件を布石にしたダブルストーリーが介在してくる。

これはもう、スパイク・リー独特のむちゃくちゃシニカルなはじけかたなわけで。

アメリカでの公開用予告は、こうしたあたりをきちんと加味しているんだけど、
日本の予告は、ただただ、セックスシーンのみ。

邦題も「セレブの種」。
そして、「スパイク・リーが贈る愛のかたち」……って、あーた。

まあ、それにつられて私も見たわけですが、なんつーか、この映画がこういう見方しかされないのだとしたら、なんと平和なことよ、日本は。。。。と思う私でありました。

もともと、スパイク・リーの映画は、日本人である私には理解しきれないものをたくさん内包しているなあといつも思っていたのですが、それにしても「セレブの種」はないだろう、と。

最後の終わり方に、理解不能という人や、倫理的にどうなのよという人も多かったそうですが、そういうことを求めているんじゃなくて。とにかく、もうこの皮肉に満ちたはじけ方の中に潜む、ずっしりと重い現実をどう受け止めていいのか、途方にくれましたが。
でも、サービス精神満点、かなりおもろい映画だったと思います。くれぐれも、邦題につられてスケベ心だけで見終わらないでほしいなあ、と切望です。

本作を観て、スパイクリーは本当に器用で、センスのある人だと関心しました。これまでは黒人問題を主に深く問題を提起すると認識していた方ですが、
人種差別、介護、大企業の陰謀、内部告発やインサイダー取引、司法問題、ウォーターゲート事件までオーバーラップさせてアメリカの暗部にかなりの時間を割いてます。それらを重苦しくなく提起しながら包んでいるオブラード役がレズ対象の生殖ビジネス。
まるでコメディと勘違いしてしまいそうです。
しかし、全てに共通するのはマネー社会の実態と、個人の価値観。

とっても面白く上手く取りまぜてあり私は大好きです。いい映画じゃないでしょうか。オシャレだし。
脇役は実力者揃いで、細かいところまで完成度が高い。大体、飛び降りた先にあの結果を持ってくるとこなんか、ちょっと突きがきついが脱帽。そしてイタリア系マフィアの娘まで顧客として登場させちゃう。

豊富な素材を多彩な味付けで華やか、しかもカジュアルに盛り付けたパーティーのオードブル皿みたい。何でも食べ物に表現してしまう癖はご容赦下さい。

もっとサッパリ系のコメディだと思って観たせいか、とっても疲れました。風刺物的表現が多く、コメディとはジャンルを分けた方が良さそう。内容的には倫理感や道徳観、差別や正義と非常に重たい雰囲気。もっと言うと１４０分は長い。せいぜい１００分前後にまとめて欲しかった。最後の方は疲れちゃって、話もダラダラ感が鼻に付いちゃいました。題材的には興味深いテーマで非常に考えさせられる部分はあるものの、とにかく疲れちゃう作品でした。

　セレブの種と言う題名からして面白そうと借りて観れば、結構硬い内容なのでどうしようかなと我慢して観ていましたが、暫くすると方向が変わる。
　同じ精子をもらうならやはり優秀な種が欲しいですよね。その女性の夢ともいえる事柄をこの映画の中では行っています。
そして、何人もの父親になった主人公。そして最初の場面との絡み。結構、楽しめる映画です。笑えるし、考えさせられる点など、作者の意図が何となく理解できる楽しい娯楽でありながら、理念を考えさせられる作品です。

なんてこんな宣伝のしかたをするのか？「生殖ビジネス」という題材や、過激なセックスシーンにばかり焦点をあてるような売り方だから、そりゃ誤解してがっかりする人も増えますよ。
レンタル用ディスクにも、モニカ・ベルッチが大きく印刷されていますが、そんなに大きな役じゃないのに。ケリー・ワシントンの方がよっぽどきれいでした。(私もあんなふうに生まれてみたかった・・・。）
エンロン事件やウォーターゲイト事件から題材をとったり、人種差別問題にもふれ、内容は盛りだくさん。ちょっと長い気はしたけど、私は嫌いじゃありませんでした。
終わり方も、いろんな家族のかたちがあっていいんじゃないかなあと思いました。自分にこんなことができるかどうかは別として。