ライ麦畑の反逆児／ひとりぼっちのサリンジャー

2017年(アメリカ)

1951年に「ライ麦畑でつかまえて」を発表して、大ベストセラー
そして若者の代弁者として熱狂的に支持された作家J・D・サリンジャーの半生を描いた作品です。

サリンジャーを演じたニコラス・ホルトが繊細で傷つきやすい芸術家を
好演して、とても魅力的です。

20歳で作家を志すサリンジャーは大学教授のウィット・バーネットを
敬愛して彼の出版する「ストーリー」に、やっと短編を掲載してもらう。その掲載料25ドルが作家のスタートでした。

後の「ライ麦畑でつかまえて」の主人公・ホールデン・コールフィールドを主役にした長編を書くようにとウィットにサリンジャーはアドバイスされます。

真珠湾攻撃が勃発。1942年から1945年、サリンジャーは軍隊に志願して
ノルマンディー作戦や過酷な前線で戦うのです。
その経験からPTSDを発症して日夜、幻覚に悩ませられることに。

そんな中でも信仰宗教に精神的安らぎを得て、遂に「ライ麦畑でつかまえて」を完成させるのです。

大幅な書き直しを要求する「ニューヨーカー誌」からの出版を拒否して
書き直しを命じず、そのまま出版する出版社を選択して、本になります。
「ライ麦畑でつかまえて」は大ベストセラーとなりサリンジャーは一躍
「時の人」になってしまいます。

『バーネットは僕です』と言って付きまとうファン。
徐々にプライバシーは侵されて自由を失い孤立して行くサリンジャー。

1951年がアメリカ出版で、日本では1984年にやっと出版されたのです。私も直ぐに読みましたが、主人公バーネットの生意気な発言や皮肉な口調、文学的レトリックに、あまり共感を覚えなかった・・・が正直な感想でした。まあ多感な10代からは遠かったですしね。

サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」が読者に与えた影響は信じられないくらいに多大でした。
ジョン・レノンを射殺した犯人の愛読書だったし、ジョンソン大統領の暗殺未遂犯の愛読書でもあった・・のは有名な話です。
「ライ麦畑・・」イコール「親殺し」説にはとても同調出来ませんが一説にはそんなのもありました。
発禁の時期もあったのです。

エピソードとして1943年当時、交際中で、戦地で文通もしていた恋人の
ウーナ・オニール(18歳)がチャールズ・チャップリン(当時54歳)と、
電撃婚するニュースを新聞で知る・・・。
サリンジャーのショックは計り知れないですね。

そして成功の後に名声を捨てて、ニューハンプシャー州の片田舎に
引っ込んでの隠遁生活。
彼は名声よりも心の平安を選びました。
そのことが、彼を神格化して伝説にしたのですから皮肉ですね。

隠遁生活で書き溜めた作品は2019年現在、遺族の手で出版の準備が進んでいるそうです。
「ライ麦畑でつかまえて」は、
作家がそしてその作品が社会に多大な影響を与えた・・・そんな時代の終焉を告げた作品とも言えるようです。

恥ずかしながら「ライ麦畑でつかまえて」を読んだことがない私
そんな私でも、Ｊ・Ｄ・サリンジャー＝ライ麦畑でつかまて、ぐらいの知識はあります(笑)
これはサリンジャーが大ヒット作「ライ麦畑でつかまえて」を出版するまでの生い立ちと
出版してからの苦悩をニコラス・ホルト主演で描いています。
小説の主人公ホールデン・コーフィールドは自身を投影したものだったようです。
（読んでないので、何も言えない、何も書けない。。トホホ）

ただ言えるのは邦題と内容が何となくかみ合わないな、ということ。
サリンジャー自身は特に反逆児ではないし
ひとりぼっちというわけでもない気がしました。
人を寄せ付けないような神経質なところはあったにしても
第二次世界大戦中にヨーロッパ戦線の兵士としての過酷な体験から
ＰＴＳＤ症候群にはなっていたみたい。
兵役で離れているときに、愛する人から裏切られたこともその要因かもしれませんね。
本が売れてからは、狂信的なファンから逃れるためもあり
隠遁生活のように田舎で過ごすようになり
自分から好んで独りぼっちでいたのではないでしょうか？
サリンジャー好きな人なら、興味深く楽しめる作品でしょう。

『アバウト・ア・ボーイ』でぽっちゃり少年だったニコラスくんが
今やハンサムな一流俳優として活躍しているとは歳月の早さを痛感してしまいます。
最新作は『トールキン 旅のはじまり』で、これまた作家の役どころ。
ニコラスくんには作家がお似合いなのでしょうか？(笑)

ＲＥＢＥＬ　ＩＮ　ＴＨＥ　ＲＹＥ
この原題からイメージしたのが、世間に浸透した「ライ麦畑でつかまえて」のイメージの世界において、新しい風を吹き込む「反乱的な」作品、ということ。

著名人を取り上げて、その若い頃をセンチメンタルに紡いだ「美」を見せる作品、というイメージを持って見始めたら、終盤にはWOW!!となっていました。びっくり、いい意味で衝撃。

脚本が素晴らしい、監督、撮影も素晴らしい、と思って見ていたら、監督＆脚本　ダニー・ストロングなのですね。字幕版で見て、字幕翻訳家の力量もあってかと思いますが、本当に無駄のない展開、台詞。批評家たちには低評価らしいですが、・・・これはあくまでも推測として、おそらくケヴィン・スペイシーの「反乱」のあおりをくらったのではないか、と。本当にもったいない。

ケヴィン・スペイシーの存在もユニークでしたね。この人のプライベートは、世間の評価同様、困ったものだ、という思いもありながら、役者としては大好きだったので、とても残念。（ハウス・オブ・カードﾞ・・・涙）　フランクを見慣れていると、この映画で最初に見かけたときに「スペイシーに似てる俳優？」→「やっぱりスペイシーだ」となるまでに数シーンを要しました。

ニコラス・ホルトは、最高のキャスティングでしたね。内面の複雑な変化を表すことが、また隠すことが美しく表現できる俳優。「X-MEN　ファーストクラス」ですでにそれが見えていましたね。ハンク。

ウーナ、誰かに似ているな？と思ったら、リー・トンプソンのお嬢さん。そういえば、どことなく「Back to the Future」の香りが漂うシーンが・・・。

サラ・ポールソンの知的な落ち着いた美しさが際立っていましたね。彼女の存在で、映画全体もきりっと締まった感じがしました。

戦争シーンの描き方も、あまりに刺激的になりすぎず、しかしサリンジャーに与えた大きなダメージと、その後のPTSDへとつながる重要な場面を必要最小限のシーンで押さえた、という印象を受けました。

今であれば、帰還兵の心のケア（実際は、脳神経のケアなのでしょうね）が大切にされてきていますが、彼らの時代では、自分で乗り越えるしかないという苦境が、映画全体の主題を超えない範囲で、しっかりと組み込まれていて、映画全体がひとつのメッセージとして、サリンジャーの人生を通して、しかし個人のテーマを超えた部分も伝えてきているように受け取りました。

「ライ麦畑でつかまえて」だけでサリンジャーは語れないのだ、と。もっともっと深く知ってほしい、理解してほしい、それがあなた自身をも理解することになるのだから・・・制作陣はそう語っているように感じました。勝手な憶測でしかありませんが。それが「ライ麦畑における反乱」。

実は「ライ麦畑でつかまえて」は読んだことがありません。青春時代、なんだか面倒くさいな、と思った記憶があります。当時は自分のことで手一杯、もうこれ以上、余計なことには巻き込まれたくない、と。（笑）

この映画を見て、図書館で、以前の翻訳版、村上春樹さんの翻訳版、そしてあれば原書をいっぺんに開いて、読み比べてみたいと考えています。夏のいい時間が過ごせそうです。

すごくすごくよかった。

初めてサリンジャーを知ったのは中学生の頃。
「ライ麦畑でつかまえて」
ブルーとサンドベージュのシンプルなツートーンにピカソの絵が描かれた本を
教室の一番後ろの席でこっそり読んでいたあの日を思い出した。

初めてみる文体。
ホールデンの世捨て人みたいな語り口やすてっぱちな感じ、
世の中にうんざりしてる感じに、
まるでわたしみたい！
とドキドキしたものだ。

周囲に理解してもらえるような友達がいなくて、孤独だった。
そんな時に現れたのがホールデンだ。
当然、子どものわたしはサリンジャーに夢中になり、サリンジャーをかたっぱしから
読み漁り、ホールデン気取りで生きていた。

後からそんな１０代が世界にはうじゃうじゃいること、サリンジャーは極端に
人嫌いでインタビューも全く受けないことを知った。
そして、ジョンレノンが撃たれた時、手に持っていた文庫本があの本だと知った時
ショックを受けた。

新聞の片隅でサリンジャーの訃報を見つけ、もう新作も読めないし、
どんな人かも分からないままなんだと思っていた。

ところが、時間が経過し、映画やサリンジャーのことを知る人の本が出始め一気に
サリンジャーの等身大を少し知ることができた。

この映画で描かれていることがどこまで現実に忠実なのか、
サリンジャーが見てどう感じるのかは分からない。

でもわたしにとっては、１０代からずっと心の中のおともだちみたいなサリンジャーが、
思っていた通りの人物として現れてほんとに嬉しかった。
どんな家庭で育ち、どんな風に作家となり、どんな恋をし、どんな生き方をしてきたのか。

それが知りたかった！
がちゃんと描かれていた。
嬉しかった。
サリンジャーをもっと大好きになった。

サリンジャーの大学の教授の言葉も響いた。
雑誌の編集長もしている教授に、サリンジャーは何度も何度も作品を書いて
渡す。
でも、毎回掲載はNO。

ついにYESが出た時サリンジャーは教授に問う。
なぜこんなに書いたのに採用は１作目なのか。
教授の答えに痺れた。

君は何のために文章を書いているのだろう。
見返りを求めて書いているなら、それは本物じゃない。

教授のこの言葉もすごく今の自分にずーーーんときた。
サリンジャーを演じたニコラス・ホルトがすごくイメージ通りで良かった。

サリンジャーをまた読み返そう。
そうか、バナナフィッシュは、切り離しちゃダメなんだ。
一つの単語として表記しなきゃいけないんだね。

「ライ麦畑でつかまえて」タイトルだけは知っているけど読んだことのない本です。ただ、この本を題材にしたものって多くあるので（フィールド・オブ・ドリームスもそうですね。）作者が隠遁生活に入ったという話も知っておりました。

ということで、名前だけは知っているサリンジャー。いったいどういう人なのか、ということなのですが・・・映画を観たあと、ウィキペディアとかでみたら、映画のスジどおりの半生が書かれてました。

映画は上記したように、彼の人生をなぞったまんまですので、若干のドラマ的な色付けはされてはいるのですが、劇的なことはなく、淡々とすすんでいきます。途中「恋人がチャップリンの妻となった？？」とか思ったのですが、これも本当のことだそう。で、それを深く掘り下げることもなく淡々と進んでいきます。

悪くはない映画だけど、特別観たいと思うようなものでもなし。芸術家系（ファッション、音楽も含む）の半生の話だとやっぱり派手な部分や、貧乏で苦労した話などがあって、そこそこ観れるのだけど、これは特になぁ・・・

やっぱり「ライ麦畑でつかまえて」を読まないとダメだったのかな・・・サリンジャーってどういう人だろう？と思った人向けの作品でした。