エステサロン　ヴィーナス・ビューティー

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頃合のいいテンションとテンポの、女性向け映画。Bunkamuraル・シネマで連日好評だったのも、うなずける内容でした。

この手の、数人の女性の恋模様を平行して描く映画はほかにもいろいろありますが、この映画が独特の存在感をかもし出しているのは、ひとえに舞台の「ヴィーナス・ボーテ」がかもし出す、ヨーロッパ的な光と影の寂寥感では、なんて思います。
蛍光灯の光がまばゆいばかりの、アメリカンなビューティサロンとは違う、街角に古くから存在して、老いも若きも、さらには男性たちまで一手に引き受けて、頑強に存在しているエステサロンの貫禄のようなものが、石畳の町にさびしげな華やかさを持って光るピンクと水色のお店の照明と、独特の雰囲気をかもし出すＢＧＭとの相乗効果で、巧みに表現されているなあ、と思いました。

最後は、この「ヴィーナス・ボーテ」のピンクのネオンサインが打ち砕かれて、きらきらと雪のようにきれいに舞うシーンで終わります。光の処理が、とっても上手。


さて。
中身に関しては、特別びっくりするような展開はありませんが、３人の女性の３様の恋愛模様が、派手すぎず、でも適度に刺激的に描かれていて、最後まで飽きずに鑑賞終了。
人生のあれこれを背負ってしまった４０歳の臆病な恋、若さと美しさゆえに退廃的な冒険に走るオドレイ・トトゥの恋、もてあますエネルギーが仕事と恋で迷走する２０代の恋。

個人的には
・こんなに突然恋に落ちたと若い男が追いかけてくることなんて、あるわけないじゃん！（これは同年代としての嫉妬）
・４０歳設定のナタリー・パイ。きれいだけど老けすぎじゃん。あたしもっと年上だけどもっと若く見えるぜ！（これは同年代の悪あがき）

なんて心のささやきはあったものの、なかなかの小品としてきちんと楽しみました。
年下男性を演じたジャック・ボナフェ。「Ｃ階段」でいい味出していたのですが、結構いい男なんですねえ。最初に汚く登場させて、あとからどんどんいい男に仕立てていく。うまいです。

ただし、４０歳のナタリー・パイとジャックの恋愛模様は、見る人の立場で感想は二分されるかも。４０すぎた私には「いいわねえ」となるけれど、２０代の頃の私が見たらはらわた煮えくり返ったと思います。
あたし、２０代半ばですごい年上の女に彼氏を寝取られたことがあるのさ。若い子にとって、年上に持っていかれるってすごい屈辱なのよ。最後に捨てられちゃったジャックの若い恋人、レビューで触れている人がほとんどいないのですが、私は彼女の存在が見逃せず、手放して年の離れた恋を祝福できない気分で見終わりました。最後に美しく振るネオンの光は、彼女のはなった銃声によるものです。この映画は、だから実はハッピーエンドのようでいて、そうじゃないのです。ま、恋愛なんてそんなもんですよね。

「アイドルたち」でかわいらしい少女を演じていたビル・オジェのふけっぷりも見事。いい頃合に心に残る小品でした。

あまり期待しないで観たんですが、意外と良かったです。
フランスの恋愛映画は、フランスの文化だったら現実に起こりそうだし、起こって欲しいものが多いけど、これもその一つでした。ナタリー・バイって素敵だなあとしみじみ。
オドレイ・トトウは『アメリ』とはまったく違った魅力でした。

音楽の素晴らしいこと。
作品のどこにも　語られない情感、悲哀のようなものが
この曲を聞いてしっくり来てしまうんです。
何も驚くようなロマンスじゃない、でも
やっぱり音楽の魔力には勝てません。

そうして考えてみると　
いままで「大好き」と書いてきたものは
音楽の魔力の効いたものが多いですね。
単純、ですよね。。

人が何かに臆病になる時必ず理由がある。臆病にならないためにその理由を克服しないの？理由がわかっているなら簡単でしょう？ 皆そう言う。察してもらえる限り、黙して語らず。察してもらえるのであれば 説明しないでい続けたい。何だかそうすることしかできなくて。そんなこともある。

でも人はいつか語りだす。
扉を開くための鍵を持った
誰かか何か　がやって来て、ドアをノックしてくれたなら。そうして大きな一歩を踏み出す。

そんな心の動きを
主人公演じるナタリー・バイが素晴らしい演技で魅せてくれる。それはフランソワ・オゾン監督の「まぼろし」でシャーロット・ランプリングが魅せた演技、またはミヒャエル・ハネケ監督「ピアニスト」でのイザベル・ユペールの怪演と同じく、繊細かつ大胆にして秀逸。

愛に飢え諦めかけた４０代の女性の悲哀、そう受け止めるだけではもったいない。この作品によって観る者は　察する力を試されている。タリー・バイはその演技によって多くを語ってくれるけれども、セリフというコトバによって説明されることは少ないから。

エステサロンにやって来る数々の個性的な顧客。誰もが愛すべき人たち。一人一人の愛情の深さや慈愛に満ちた心、それらが集まったとき本当の癒しの空間が生まれるのだと思う。

若くもなく、「もう歳だから〜」という言い訳も出来ない中途半端な年齢の閉塞感に身の置き場をなくし、その場限りの男女関係で自分をごまかしている主人公。彼女の自由で有るようで自由でない毎日にある日突然「一目で好きになった」と言う男が現れ何かが変化し始める。反抗しながらも少しずつ彼を受け入れながらちょっとずつ自分を解放していくアンジェルに好感を持てるが、男の愛情表現があまりにもストーカー的押し付け行動的で「これはありえない〜〜」とばかりに唖然としてしまう点多々あり。
ただし、エステサロンで働く女性たちの高度な技術や仕事を全うしようとする情熱というか一途な姿勢に対しては、エステというものに興味が有る人もそうでない人もそれなりのリアルさを感じて結構好感を持てるかもしれない。この映画はエステサロンで働く女性たちそれぞれが、いろいろな体験をしながら日々を暮らし成長（いえ、解放？）していく前向きな良作品といえるあなどれない一品でしょうね。期待せずに観た作品ですが、観て損はありませんでしたね。
ちなみに全裸姿の女性がサロンの中を歩き回り、美しい背中を見せる（もちろんおしりも全て見せる）シーンがありますが（正面からのストレートなびっくり全裸シーンも有り）・・・この映画にとって必要なシーンなのか？？現実にこういう度胸の有る人がいるということなのか？？・・・私的に意味不明・・・（笑）。機会がありましたら一度どうぞお試しくださいませ〜。