アウェイ・フロム・ハー　君を想う

認知症のいうテーマを、監督の若い感性を持ちつつも、丁寧に描いていて詩的な会話も心地よい。心の深い場所を少し触られた感じ。私より年下とは思えない類稀なる才能だ。バロンやドーンオブザデッドで出演していた人子が作ったとは思えない。でも若い監督なので心をガッチリ掴まれるようなほどではなかったが、それでもここまで描けるのは凄い。

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妻がアルツハイマーになってしまい・・・という話は、
『アイリス』や『きみに読む物語』でも描かれていて、
その度に、愛する人に自分が誰であるか理解して貰えていない辛さを
ひしひしと感じてましたが、今作では愛する妻が老人ホームで
出合った男性と恋に落ちてしまうという、さらに切ない展開になっています。

結婚して44年になるグラントとフィオーナ。子供もおらず、二人暮らしの二人にとっては
相手が心の支えになってる部分も大きいんでしょうね。
ホームに入居して30日間の電話・面会禁止がすでにグラントには辛そうでした。
フィオーナもグラントとそんなに長く離れたことがないから、すごく不安だったんだろうし、
だからこその「早く立ち去って」っていう言葉がとても切なかったです。

軽度のアルツハイマーだと思っていたグラントは、30日後の再会で、
フィオーナが夫の存在を忘れてしまっており、ホームに入居している男性と
仲良くなっていた、その衝撃は辛さを増したことでしょう。
ひとりで少し離れたソファーに座り、一日自分の妻を見守るわけです。
普通なら、そんなことできないですよね。でもグラントは静かに見守る。
それは昔、フィオーナを家にほったらかしにして、浮気していた罪があるから・・・
グラントはぐっと我慢して、その罰を甘んじて受け入れているんです。

恋してるフィオーナはグラントを思い出すことなく、ホームを退去してしまった彼、
オーブリーと離れ離れになった辛さから、どんどんと衰弱していってしまう。
それを見ていられないグラントは、ホームに戻ってくれないかとオーブリーの妻に頼みこむ。
フィオーナが元気を取り戻してくれるならって妻のために自分の想いを封印するんですよぉ。
もう、ほんとに胸が締め付けられて痛い。。。

自分だったらどうするかなぁ・・・もう何十年も連れ添ってきたという歴史があるのに、
自分の存在を忘れられてしまい違う人と老人ホームで違った人生を歩み始めていたのなら、
長年の絆と深い愛情があるから簡単には突き放せないし、突き放したくない。
でも相手の幸せを望むのであればそっとしておいてあげた方がいいし、離れることで
自分も愛しているからこその苦悩から解放されて楽ってのもある。どっちかなぁ〜。
その時に連れ添った相手と同じくらい支えになってくれる人がいたなら後者を選べるのかな・・・

二人がこの岐路にたち、今後どんな人生を歩むことにするのか。
それは最後言及されていなかったけど、フィオーナがグラントの記憶を
留めておくのは難しそうだし、やはり後者を選ぶのでしょうか。
フィオーナの中で一瞬甦ったグラントの記憶。
それが今生最後の別れなのかもしれないんですよねぇ。
ハッピーエンドのようでいて、ハッピーエンドにはならない物語。

静かだけれど、心を打つ映画でした。
若いサラ・ポーリーが作ったとはとても思えないほど成熟した映画。
それとも、もっと年老いてこれを見たらまた違うように思うのでしょうか。

フィオーナの人がきれいで、まさにレディ。
ただのきれいな純愛映画ではなく、どう捉えていいかわからない展開もまたよかったです。

夫婦って、たくさんの物事を一緒に経験していく、それが絆を深まらせてくれると思うのですが、それを片方だけが段々と失っていくってつらいでしょうね。
時折はさまれるスキーのシーンが象徴的で効果的でした。

「きみに読む物語」を思い出します。
あちらもいい映画でした。

レビュアーの皆さんのかなりの高評価に惹かれ借りてみました。


徐々に記憶を失っていく妻をかたわらでじっと見守り続ける夫。
求婚した時の若く美しい妻を繰り返し想い、結婚生活は幸せだったと肯定しつつ、でも本当は自分は決して良い夫ではなかったのではないかと自責の念にかられています。
妻が記憶を失っていくのは、良い夫ではなかった自分に対する罰なのではないのか。妻は罰を与えるためにわざと記憶を失っていくように演じているのではないかと疑ってみたり、妻同様、夫の心も混乱しています。
さらに、妻は入所した介護施設でかいがいしく他の男性の世話を焼きはじめ、どうやらその男性に好意を持っている様子。
もう、夫の心は穏やかではありません。力づくでも妻の気持ちを自分の方に取り戻そうとしますが、妻は夫のことも忘れてしまって…

シビアなお話ですよね。自分が最も愛する人がどんどん記憶を失っていき、ついには自分のこともわからなくなってしまうなんて。
ただ、実際に夫がどのような夫だったのか、懺悔するほどのことを何かしたのか、その辺がまったく描かれていないので、夫にも妻にも共感できないのです。
映画では年を取った二人がノルティックスキーを楽しむシーンだけで、どんな結婚生活を送っていたのかはわかりません。
だからどうにも判断しようがなくて…

夫の苦悩は充分に伝わってきます。妻の気持ちがどんどん自分から離れていく恐怖はどんなに大きいことか。
また、自分の目の前で他の男性をいたわっている妻の態度は屈辱的ですらあると思います。
でも、それが病気のせいならばどうしようもないのです。
ラスト、妻の全てを受け入れて、妻の望むようにしてあげようとしたときに奇跡的に妻の記憶が戻った瞬間はぐっときました。
それが一瞬の出来事だとしても救われる思いがしました。


こうやってレビューを書いているとなかなか良い映画だったなと思えてきましたが、結構淡々と進む話にこちらも淡々と観てしまい、それほど大きな感動とか感銘は正直、受けませんでした。
何年か後、もう一度観たらまた違うかもしれませんが。

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　アルツハイマー病を患った妻と献身的に見守る夫の物語は、高齢化社会の図式を見ているようで現実的過ぎて重いなと感じながら、前半は観ていた。
　一見仲睦まじい夫婦愛に見えるが、どうやら過去に夫グラント(ゴードン・ピンセント)に女性問題があったらしく、ひと山ふた山を乗り越えてきた夫婦だと分かる。しかしお互いに年老いた現在においては、それは遠い過去のことになりつつある様に見えた。

　妻フィオーナ(ジュリー・クリスティ）の回復を願って施設に入れた夫だが、その後、意外な光景を目にする。妻が自分が夫であることさえも忘れてしまったら、それは大変に悲しい出来事である。いたたまれないだろう。
　同じ施設に入っていた男性オーブリーの奥さんに相談を持ちかけているうちに、同類の情が生まれ恋仲になるのも、仕方がないとも言える。残酷な話しだが、現実に生きている者として、そうなってしまうのも理解できなくはない。
　女性介護士の「今からでも前の自分に戻れる」という言葉も意味深である。グラントにとっては彼女の言葉も助けになっていたのだろうか。
　しかしフィオーナは二人が会っている姿を２階からしっかりと見ているのだ。フィオーナは以前見た花の色も覚えていたのだ。
　そして最後には「捨てていいのよ」と記憶が戻ったかのように突きつける。グラントが感じていた「彼女は芝居をしているのでは・・・」という疑いが、ここに来て真実味を帯びてくる。ここまで来るとこの映画は怖いなと感じる。　

　これはもう男が試されている。男の過去に対する復讐劇といっても良い。高齢化社会の夫婦愛という美しさに名を借りた、愛憎劇のようなものだ。良い映画に見えるが、男としては過去のことを引きずり回されているようで、こういう作りは釈然としない。そら恐ろしい映画である。★★★☆