ガス人間第１号

と言うには人物描写が不足しているし、本格ＳＦとしたら穴がありすぎる。三橋達也の軽妙な演技が終わりまで見せる重要な要素となっている。八千草薫は言うまでもなく美しいのだが。

遠い昔子供の頃に見た記憶があったんで、懐かしくて借りました。
それなりに面白いモンですね、八千草薫さんのかわいいこと。

昨年（2019年）逝去された宝塚歌劇団出身の八千草薫さんを知ったのは、東宝特撮作品「白夫人の妖恋」（1956年　豊田四郎・監督）と「ガス人間第一号」（1960年）でした。
その「ガス人間第一号」のＤＶＤ（発売元：東宝）特典に、何と八千草薫さんが本編映像に合わせて解説するのオーディオコメンタリーが収録されています。聞き手は娯楽映画研究家の佐藤利明さん。
圧倒的な美しさの八千草さんは必見！！
スタッフは、監督・本多猪四郎、特技監督・円谷英二、製作・田中友幸の東宝最強特撮トリオ。
生体実験でガス人間にされた男（土屋嘉男）が、美しい踊りの家元（八千草薫）のために数々の狂行を行う、東宝変身映画の第３弾！
ＣＧのない時代、円谷特撮の怪獣映画とは違った手作りの魅力に加え、オーディオコメンタリーで八千草さんが語られる作品の思い出、スタッフの苦労話や、「白夫人の妖恋」の逸話、ご主人”谷口千吉”監督の話が本編とともに楽しめるＤＶＤの１枚。
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　冒頭、誰もいない金庫室の扉がひとりでに開いて……。という不気味な銀行強盗から始まり、犯人の車がクラッシュして、追いかける警察がその車両を調べると誰もいなくて……というのもツカミがばっちりでした。

　警部補と記者が独自に調べていく前半、捜査線上に落ちぶれた日本舞踊の家元のヒロインがいて強引に逮捕し、また他の銀行強盗をした男が自ら名乗り出てくる。すると真犯人だと自首してくる男が自らガス人間だと現れる。
　途中で犯人が自首してくるという展開も面白く、そこで自らガス人間のパワーを見せつける。このとき、ガス人間だと証明するために人殺すのはちょっとやりすぎじゃないのかと思ってしまいますが、人体実験でそういう感覚はなくなってしまったのかな?　と思いました。
　
　ガス人間の正体がわかってからは、この男の悲しい運命の物語とシフトしていきヒロインとの恋愛メインになっていきます。この時の警察も無茶苦茶で、逮捕よりもどうやったらガス人間を殺すことができるのかという解決法も物凄いです。
　そしてクライマックスの日本舞踊の発表会でのガス人間とヒロインの気持ちが交わるのは、なかなか感動的だったと思います。かなり日本舞踊が長いのでこの映画の雰囲気を異質な空気感なものにしていたと思います。

　よくよく考えると自由自在に移動できるガス人間が冒頭では何で車で逃げていたんだろう?　とか。しかもヒロインの屋敷までわざわざ行っちゃったり、ガス化してるのに喋れたり、物を掴めたりとどういう仕組みになってるのかとか行動とかがわからない部分もありますが
　人体実験で予期せぬパワーを手にしてしまった男の悲しき純愛物語でとても面白かったです。

ガス人間役を演じた土屋嘉男の演技が妙に印象に残る。多分、三橋達也が主役なんでしょうが、脇役に見えてきちゃいますよね。
この土屋さんという役者、あの「7人の侍」では、オーディションに参加しなかったのに、何故か黒澤監督の目にとまり、以後、
黒澤作品に欠かせない俳優となっている一方、特撮映画「ゴジラ」にも興味があり、本多監督の映画にも出演するという異色の
俳優さんだったそうです。
そして、本多監督についてもこの映画で見る目が変わりました。「ゴジラ」で有名になった後も東宝特撮映画を数多く監督し、
そのせいで円谷特撮監督の影に隠れているように見えますが、あのゴジラが出るまでの緊張感を演出し、この映画でもガス人間
が、人体改造実験のためにガス化されてしまった悲劇を見事に描き出し、ガス人間が人間としては、ひどく孤独でありながら、
打たれても死なないという無敵性ゆえに人間を見下しもするようになったところまで、納得を得るような脚本に仕立て上げてお
られます。
その名声はむしろ外国では黒澤に匹敵するほどであるらしく、土屋がガス化した状態から人間の姿に戻る際に、胸に手を当てる
仕草を外国のファンから求められることもあったそうである。SFファンタジーとしては特撮シーンが派手でなく、若い頃に観た
印象では非常に地味な作品に感じられましたが、日舞というのか、能というのか、八千草薫がオーディオコメンタリーで「練習
が大変だった」という踊りのシーンは、確かに外国から見ればオリエント感満載の異次元的な雰囲気が盛り上がるシーンだった
のではないでしょうか。
外国の映画監督でも本多監督をリスペクトする監督はおられるようで、彼らが子どもの頃、この映画を観ていたのなら、CG技
術の発展でよりイメージを反映しやすくなった映画の世界で「透明人間」や「ターミネーター２」の液体金属ロボットなど様々
な映像が撮れるでしょう。でも、透明人間になった博士が戻れないとわかったときの心情描写や液体金属ロボットの殺人方法
でも単に腕をナイフや針に変えるよりも液体のまま人間に入り込んで殺してしまう方が面白いのでは、とイメージさせるほど
CGなしでガス人間を描写する工夫が考えられていて面白かったです。