カッコーの巣の上で

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６０年代アメリカにおける精神病棟の実態を告発することによって、管理社会による人権侵害を象徴的に暴き出し、人間の尊厳を問い正したヒューマンドラマです。

映画のテーマは非常に多岐に渡り、ロボトミー手術に象徴される人間の尊厳の破壊も包括した拘束と搾取による人権侵害の問題、管理社会における自由という体制対反体制の構図、マクマーフィの行動がもたらす個としての自己の解放と覚醒などなど。そのため、現代にも通じるものがあり、作品全体に古さを感じさせる事はありません。

また、主演女優賞に選ばれたルイーズ・フレッチャー演じる婦長の存在にも考えさせられるものがあります。彼女を患者の自由や人間の尊厳を剥奪する「悪」の存在と取るか、もしくは、この作品には描かれていないその後を見据えて、今は辛くとも、先々改善される事を信じて行動しているとして「善」の存在として取るか。観る人によってだいぶ違う印象を持たせる存在のはずです。話の中で、院長たちがマクマーフィを、見捨てようとした時、一人反対したのは婦長でした。それを考えると、婦長は暴君的な存在ではなく、信念を持って職務に当たっていたような気がします。ただ、マクマーフィたちには、病棟の独裁者として映っていたのでしょう。

無機質な白い精神病棟で、マクマーフィの人間臭い行動によって少しずつ変わっていく患者たちの表情、その丁寧な描写が印象的でした。海に出た彼等の子供のように生き生きした顔や、ゴールを決めたチーフの笑顔が、ロボトミー手術によって生ける屍のようになってしまったマクマーフィと対照的で、いつまでも脳裏に焼きついて離れません。切なくやるせないラストは「感動」の一言では表現出来ないです。

そして、最大の謎であり、この作品のキーポイントはマクマーフィの行動です。「なぜ逃げなかったのか？」彼の計画は完璧に遂行できたかもしれないのに、あの一瞬彼を躊躇させ引き止めてしまった要因こそ、この映画の核心に他ならないのではないでしょうか。望めばいつでも病棟を出られる患者たちにしてもマクマーフィにしても、彼等に共通するものは「不適応者」という烙印なのです。逃げ出すことが自由と幸福に必ずしも結びつくとは限らないという彼等が置かれた閉塞した社会的状況、それはある種の連帯感をも生み出しマクマーフィの最後のチャンスを奪い去ってしまうのです。結局マクマーフィが残した自由への渇望は、チーフを始めとした患者たちの胸に深く刻まれる事になります。

酷く残酷な結末ではありますが、人間に守られるべき誇りと未来への揺ぎ無い希望を湛えたエンディングは感動も伴い圧巻としか言い様が無いです。脇役の俳優の方たちの演技もすばらしく、味わい深かったです。ラストシーンを含めて好みの分かれる作品であるとは思いますが、個人的にはジャック・ニコルソンの鬼気迫る名演にも注目の多くの人に一度は観てもらいたい作品です。

【ロボトミー手術について】
前部前頭葉切截術、第２次大戦後には精神分裂病の患者に対して盛んに行われたが現在は医療効果への疑問と人道上の問題から行われていない。

【タイトルとストーリーの由来】
いずれの邦題も一読して意味を理解することは難しいが、原題は最後に患者が一人 (One) で自由を求めて、精神病院 (the cuckoo's nest) から飛び出して脱出する (flew over) ことを象徴している。カッコーはホオジロやモズの巣に卵を産みいわゆる托卵によってヒナをホオジロやモズに育てさせる。カッコーのヒナがいる巣では、ホオジロなどがカッコーのヒナに餌を与え、ヒナも親だと思って餌を受け取る。居るべきはずではない場所にいてそれを疑わないヒナに、ある種の洗脳がなされている点は舞台となった病院と共通する部分がある。また自殺した患者は母へのトラウマを抱えており、母子関係の問題を提起しているし、病院で患者をケアしなければいけない婦長の冷たい態度も母性欠如の問題とカッコーの生態を対比させているようにも見える。 またカッコーの巣(cuckoo's nest)は、「精神病院」の蔑称のひとつである。(ウィキペディアより)

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1975年度アカデミー賞
主要五部門獲得作品。

これで見るのは3度目だ。

精神病棟を画くことによって、体制に操作されている私達一般大衆を深く画いている。

出演者も豪華だ。監督助手にスピルバーグがついているのも面白い。

Jack Nicholsonは刑務所から精神病を装い、連れられてくる。
そして体制側の代表である婦長と対決をする。

逃げられるチャンスもあったが、体制に流されて、最後は不孝にも、「自由」にはなれず「死」を迎える。

それも、一番、狂っていないと思われる人物に、「狂気」によって殺されるのだ。

見終わったときの、いらだち、襲ってくる不安感は、この映画のすばらしさを物語っている。

一件、精神病棟の不合理性を画いている形を取っていることが、
素晴らしい点だ。
チェコスロバキアという国がまだあった頃、体制(ソ連）から抑圧されていた人民の心の叫びが聞こえるようだ。
89点

精神病院というものが、精神症を患った患者を社会へ復帰させるためのものではなくて、そういった人間を社会から隔離するためのものだということが一般的だった時代のお話。だから、そこでなされる治療は総じて、いかに効率よく管理できる患者をつくるかが重要になってくるわけで。
まあ、現代でも若干そういった部分はありますが。

と、いたって重苦しい素材を扱った映画なんで、極めて重苦しい映画になりがちなんですが、この映画のなにがいいって、そのユーモアにあふれた演出だな。もちろん全体としてはかなりシリアスな内容なんだけど、あいまあいまに顔を見せるユーモアがこの映画をほんと軽やかに、豊かにしてくれる。

そして、こういった映画の中のユーモアって、えてして精神異常者のきちがいを笑うみたいな差別的な方向に行きがちだけど、この映画は決してそうはならず、患者ひとりひとりを愛すべきユニークな人間として扱っているのがうれしいし、さらに、患者ひとりひとりの人格にリアリティーを与える役者たちの演技の達者ぶりがまたすばらしくて。このあたりが、この映画をメジャーにさせてくれているんじゃなかろうかな、と思った。

もうほんと昔に観て以来だったから、ラストの印象だけは鮮明に覚えていたが、それ以外はいまいちおぼろげだったんだけど、改めて観て、やっぱ名作と言われるだけあるすばらしい映画だったな、と実感。

カッコーは自分の卵をモズの巣に産んで育てさせます。
生まれたカッコーの雛はモズの卵を巣の外に押し出します。
ジャック・ニコルソン演じるマクマーフィーはカッコーの卵に、ルイーズ・フレッチャー演じるラチェッド看護婦長はモズに例えることができるでしょうね。

重いテーマで、難解なはずなのだが全く目が離せない展開に圧倒されました。
作品賞や主演男女優賞他多数のオスカー獲得も納得です。

恐るべきはロボトミー手術。
この映画を観てはじめて知りましたが、当時暴れる者は、異常者だから仕方ないという理由で脳に傷をつけて大人しくさせるという術法が実際に用いられていました。

日本でも「本人の了解なしに医師の判断で」行われていて、その結果、1979年にはロボトミー殺人事件という悲劇が起きました。
この作品は人間の尊厳についても問いかけています。

ラストは彼が望んだ結果なのかもしれません。
ストレスが溜まってる時には観ない方がいいかもしれない作品。

『シャッターアイランド』を見て以来、ずっと頭の片隅に引っ掛かっていた作品
精神異常やいわゆるロボトミーなどの共通点があるのもその理由の一つですが
高校時代の恩師である英語の先生が、当時、教科書の授業２時間分を返上して
私たち生徒全員に見せてくれた、思い出深い作品でもあります。

ジャック・ニコルソン演じるマクマーフィの演技が素晴らしいのは言うまでもなく
何よりも印象的なのはラチェッド婦長。

婦長である彼女は言い換えれば病院の治療方針そのもの
しかし、精神病を患った患者たちの団体生活の中では
彼女の毅然とした態度と常に冷静な判断が必要で
訪れた結末が悲惨なものでも婦長を責めることはできない

厳しい規律と定められた日課の中で反抗を繰り返す問題児マクマーフィ
転院を考える関係者の中で、それでも婦長は最後まで
「必ず救えるはずだ」と見離さなかった

彼女は彼女なりの信条で患者たちのことを考え
淡々と進むセラピーの中では彼らのどんな発言にも耳を傾け
彼らを正しい方向に導こうとする姿勢に共感する部分もありました

ただ、強制ではなく殆どの患者が有志で入院している彼らが
結果として自らを取り戻すきっかけとなったのは
マクマーフィと共にへまを外し、どんちゃん騒ぎをすることだったわけで
社会に順応できずに病院に閉じこもる彼らが
ある種の外向きの勇気をここで手に入れたんだと思う

人と人が接する上で何が正しくて何が正しくないのか
そこに答えは無くて、頭で考えるだけでは不十分で
婦長が毎日繰り返すセラピーが必要な患者もいるだろうし
皮肉なことだが、マクマーフィも彼らを救おうとして
行動していたわけではなかった・・・

クリスマスの夜、一晩中開かれた窓
その時の、窓の外の自由な生活に思いを馳せる
マクマーフィの表情の長いアップに彼の人間性が滲み出ていて
とても感慨深いものがありました

自分勝手に見えるマクマーフィでも
数ヶ月の共同生活で少なくとも彼らと友情が生まれていたのは事実で
そして
その後に起こる負の連鎖と
一番の友人であった大男チーフが起こしたその結果を
ありのままに受け入れるしかない非力な私がいたこともまた事実です