ゴールデンボーイ

人間の深層心理が丁寧に描かれているのは、さすがキングだなぁ。と、思います。
人間ってここまで狂気に走れるモノなんでしょうか？
ブラッド・レンフローの無邪気な顔とイアン・マッケランの悪を見てきた顔の対比もナカナカです。

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私自身、中学から高校にかけて非常に戦争に興味を持った時期があり、写真や映像（悲しいかな当時はＶＨＳも無かった）、文献、ノンフィクション等色々漁りましたが、殊に感心を惹いたのはホロコースト、日本の植民地支配、沖縄戦等、総じて非常に残酷なものに偏っていた様に思います。
程度の差こそ（相当）有りますがその意味に於いて、少年の興味は解らないでは無いのです。

潜伏するナチ戦犯を脅し、当時の物語を強要する少年。
封印していたかつての姿を、少年によって呼び覚まされる老人。
嫌々の軍服に軍帽、途端に老人の口の端に浮かぶ歪んだ笑みの怖さ。
行進の真似事をするうちに蘇る老人のかつての姿は、少年になぞ太刀打ち出来ない本物の「狂気」、それに引き摺られて少年に現れるのもまた「狂気」です。
小動物に向けられる暗い殺意が人間に繋がるのは当然辿る道で、「殺すってどんな感じ？」「殺した時どう思った？」、互いの質問には答えない彼等ですが、言葉は無くてもその感覚は共有出来る。

偶然が重なり至るべくして至る結末ですが、老人の過去の「狂気」が選んだ道と、少年の新たな「狂気」が進もうとする道は１８０度の違いを観せ、疑惑を突きつけ詰め寄る大人を恫喝する少年には凄みさえ漂います。
ごく普通の家庭に育った優秀な少年に現れる「狂気」が、思春期特有のものなのかそうでないのか、私には判断がつきかねます。
しかしこの少年程能動的で無くても、強力な外的要因が有れば自分にも生まれるかも知れない内なる「狂気」の怖さに暗澹とするのです。

戦後何十年経とうとも当時の戦犯を世界規模で追うユダヤ人社会の執念に、ナチスの「狂気」、罪の重さを再確認した作品でもありました。
娘がその一連の小説が大好きで、でも私には余り理解出来なかったスティープン・キングがほんの少し解った様に感じた作品でもありました。

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「ワルキューレ」を観てレビュー書いたら、友人から同じB.シンガー監督の本作も観てみたら、と奨められて借りて来ました。ほんとこういう的確なアドヴァイスしてくれる「通」の友人がいると助かりますねぇ。
同じ「ナチス」を扱ってますが、こちら時代は現代です。大戦中のユダヤ人収容所で「虐殺」を指揮し、戦後逃亡してアメリカで身分を隠して生き続ける戦争犯罪人の老人ドゥサンダー（イアン・マッケラン）と、ホロコーストに異常な興味を持ち、偶然ドゥサンダーを「発見」して彼との奇妙な交友（？）関係を持つ高校生トッド（ブラッド・レンフロ）のオハナシですし、こちらの原作はあのスティーヴン・キングですから、「ワルキューレ」とは殆ど何も関連性が無い（ように見えます）。
しかし、これが厳然たる「共通点」があるんですねぇ。それはつまり原作者キングでは無くシンガー監督独自の「主張」だと思われますし、私が「ワルキューレ」で感じてレビューに書いたことでもあり、さらには本作を奨めてくれた友人も同様に感じた点でもあるわけで、こういう鑑賞経験が出来るって素晴らしい！とちょっと感動しておる次第です。
「ワルキューレ」は有名な「ヒトラー暗殺未遂事件」のオハナシでしたが、一見それが現代のその辺にある普通の企業内の派閥抗争と見紛うほど「人間誰にでもある出世欲、権力欲、保身欲」の物語として淡々と描かれていたことにちょっとビックリしたんです。あの悲惨極まりない大殺戮と破壊をもたらした第二次世界大戦の元凶である「ナチス」も実は決して「異常な」人間たちの集まりであったわけでは無く、知性も教養も愛国心も「普通に」備えた人間たちであった、という呆気無いほどの事実が逆に非常に怖かった。
本作でも、「元」ナチスのドゥサンダー老人が発散する「異常な」雰囲気よりむしろ、ドゥサンダー老人に収容所での残虐な処刑の話を語らせてそれにのめり込んで行く「普通の」健康で優秀で健全な家庭に育った高校生トッドが心の裡に飼っている邪悪さ、残虐性、支配欲のほうがよっぽど怖い、というのが本作のミソなんですね。
B.シンガー監督のこの2作に通底するものは、ある種の「特殊な」人間の「異常さ」が悲惨をもたらすのでは無く、人間「誰もが持っている」普通の（と誰もが思っている）欲望が元凶なんだ、という「主張」であるように思えるのですね。

でも私は楽しめました。
ガンダルフ老人がホモだってどうでもいいじゃないですか？

「ホロコースト」「シンドラーのリスト」「マイ・ファザー」「オデッサ・ファイル」等等・・・

私も少年の頃不思議だったんです。
６００万人のユダヤ人を殺したジェノサイド。
んで文献読み漁りましたよ。
でも先生も歴史書も教えてくれない。
彼（主人公）と私との違いは、高校や大学の授業でも取り上げられなかった問題。
当事者と出会うようなことが無かった（まあ日本で西洋人と知り合うのは稀でしょう）。
だからそういう問題に出会うことは無かった。
ユダヤ側からのこの問題提訴は良く聞きます。
そりゃ自分も虐待され家族や友人を殺されたのですから忘れることは出来ないでしょう。
一方ジェノサイドを行った側からは正式回答はありません。
あっても葬り去られたかもしれませんね。
彼らが未開人？キチガイ？
そんなこと無いでしょう。
文化が高かったから出来たんでしょう。

少年の何故何故何故？は全く共感できます。
「人を殺すってどんな感じ？」
老人は答えません。
逆に老人が人を殺した少年に聞きますが、勿論答えません。
Ｓ・キングだって答えられませんからね。

老人は少年の罪まで全て被って自殺します。
少年の罪をかぎまわる学校の指導教員、逆に少年に脅されます。
「知らなくて良い事だってあるんだよ。」
（これ以上踏み込むと、あんたがホモで、男子学生を食い物にしてきたことばらしちゃうよ。）
ゴールデン・ボーイの勝ちですね。

観てよかった、ジェノサイドの何故？は解消できませんでしたが何で教科書や大学で教えてくれないのか良く分かりました。

まあ、スティーブン・キングの原作な時点で
後味のいい感動作なわけがないんですが。
そういうのが好きな人にはいいかな。あたしは好きです。

ラスト、原作と違うんですね。全然違う話になってしまってる。
なんだ、結局一番悪い奴は高いびきかよ！って。
まさに「傲慢なアメリカ小僧め」と思っちゃいましたね。