アメリカの夜

映画への愛に溢れたフランソワ・トリュフォーの傑作。
あるメロドラマ映画の撮影風景を通し、映画作りに集まった人々の人間関係やトラブル、仕事ぶりなど、様々なエピソードを織り交ぜながら、トリュフォー自身の映画製作に対する愛情、苦悩を浮き彫りにする。

南フランスのニース。映画スタジオで「パメラを紹介します」というロマンス映画の撮影が始まる。
ハリウッドからやって来た主演女優のジュリー（ジャクリーン・ビセット）は、病み上がりでいつ倒れるか分からない。男優のアルフォンス（ジャン・ピエール・レオ）は、記録係りのリリアーヌ（ダニ）との恋愛で演技に集中できず、出番はほったらかし。監督のフェラン（フランソワ・トリュフォー）は、トラブル続きの現場に悩まされるが、映画を愛してやまない彼は、撮影終了までひたすら情熱を傾けていく。

映画製作そのものを描く映画、とはいっても、トリュフォー監督はドキュメンタリーには興味がないと公言している。事実に基づきながらも、撮影現場のスタッフや俳優たちが、それぞれのドラマやロマンスを抱えながら展開するコメディ・タッチの群像劇、それが見どころだ。

それにしても撮影現場でのトラブルの多いこと。
往年の名女優セブリーヌ（ヴァレンティナ・コルテーゼ）は、アルコール中毒でセリフが覚えられず、同じシーンで間違いの繰り返し。
スタントマンと駆け落ちする記録係りのリリアーヌ（前述のダニ　⇒　女優名）。
撮影したフィルムが現像所の停電でボツになってしまう。
妊娠３ヵ月で水着になるのを嫌がる脇役女優ステイシー（アレクサンドラ・スチュワルト）。
言うことをきかない子猫への演技指導。
そして、ベテラン俳優アレキサンドル（ジャン・ピエール・オーモン）の交通事故死。
次から次へと降りかかるトラブルに、トリュフォー扮するフェラン監督が、どのように映画完成にもっていくかという興味は、確かに存在する。
（結果的に、映画はまるで魔法のように出来上がっていく）

映画製作の裏側を描いた点で、非常に興味深いことは確かだが、アメリカ映画ならまったく異なった毒気のある作品となっていただろう。サスペンス映画に様変わりしていたかもしれない。

世界中で作られている映画の裏側で、今も繰り返されている様々な「真実」を、軽妙なタッチで描いているのはさすがトリュフォー監督。
ラストに近づくにつれて、人々の気持ちがまとまり盛り上がっていくような、ありふれた展開にはなっていない。それどころか、映画を作り上げようと本当に専念しているのは、トリュフォー自身が演じている‘監督’だけである。

若手俳優アルフォンスを演じたジャン・ピエール・レオ。
５９年「大人は判ってくれない」（トリュフォー監督）で、１２歳の主人公アントワーヌ・ドワネル少年を演じた彼も、本作では２９歳になっている。当時の面影は感じられない。

懐かしきヴァレンティナ・コルテーゼもいいが、やはりジャクリン・ビセットの優雅な美貌。
６８年「ブリット」、７０年「大空港」ですっかりファンになった一人。
優しい顔だちと、吸い込まれそうな青い瞳に、この映画でも魅了されてしまう。

トリュフォー監督の一言によれば、‘真実’と‘真実らしく見えるもの’のどちらに、本当の真実が存在するのかを描きたかったとのことだ。

舞台裏が垣間見れて面白い作品でしたが、内容はあまりよく分かりませんでした。

美術監督・種田陽平氏が薦められていたのでレンタルしてみました。映画撮影の裏側が観れて非常に楽しめました。またそれ以上に解説トレーラーに収録されていた俳優さん達のインタビューが興味深かったです。キャストされた時の仕事状況、どのようにキャストされたか、トリュフォー監督についてなど色々と語ってられました。彼ら彼女らの他の作品を観たい、また他のフランス人俳優についてももっと知りたいと思いました。

ここでもトリュフォーはド直球に映画を信じ切っていて全く迷いが無いのだ。映画こそ人生で、人生こそ映画なのだと。
だからこそ、僕のような捻くれた映画好きの胸をも打つ。

しかし、あなたはそのうちスタジオで映画を撮ることになりますよ、と50年代の若きトリュフォーに言ったら吃驚した顔をするんじゃないだろうか。
ドルリューの名曲はウェス・アンダーソンが「ファンタスティックMr.FOX」でも引用していたな。

この映画はトリュフォー中期の作品で”大人は判ってくれない”以降、なかなかヒット作がなかった彼にとって全世界に名を知らしめる事になった作品である。
　
　相変わらずトリュフォーは切り口が面白い。
　監督なら誰でも一度は”映画に関する映画”を作ってみたいと思うだろうが、彼の手にかかると魔法のようである。
　
　まずタイトルに”アメリカ”tもってくる時点で、いかにアメリカ（ハリウッド）を敬愛しているかの象徴でもあるし、、実際ハリウッド映画の監督や作品の名前も随所で出てくる。
　映画製作の現場、舞台裏を通じての群集劇であり、そこにコメディ、ロマンス、サスペンス、女性への憧れ、ひいては同性愛、までを網羅して描かれているから凄い。
　１歩間違えればごちゃごちゃした内容になりそうだが、
　それが見事な化学反応によって昇華してゆく感じで全く飽きない。

　　今回のジャクリーン・ビセットは実に上手いキャスティングだった。同じ英語圏でも　米女優を選ばない所が上手い。美しく、知的で抑え目な女優こそ、何か”内に秘めるもの”を感じさせる。トリュフォー作品に出てくる女優は脇役であれ皆美人　　が多い。彼の女性への関心の高さ、憧れを伺わせるし、”女は魔物か？”という終始繰り返されるアルフォンスのセリフを通じてて自問自答しているのだろう。
　
　そしてこの作品では”フェラー監督”として彼自身が出演しているのも鍵で、”（ヒッチコック同様）予算削減のために自身が出演する”という意味と、トリュフォー自信が”カメラの内と外の存在”になることで現実と虚構世界（作品）の境界を曖昧に　したという２重の意味があると思う。
　従って、私達も、何となくどっちの世界の話なのか混乱しそうになるし、それがまた面白い。（この”曖昧さ”こそヌーヴェルヴァーグなのだが）



　ちなみに”day for night”とは特殊フィルターを通して昼に撮影したものを夜のように見せる撮影技術の事で、これまたハリウッドへの敬愛である。
　他にも車の撮影や、スタント、室内撮影や雪を作って街に敷き詰めるシーンなど、どうやって映画を撮影しているか、画面に映らない部分で皆何をしているかが丸見えで、　　たまらなくワクワクする。

　真の映画好きなら絶対見ておくべき作品だ。