ラスト・アメリカン・ヒーロー

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　夭折したジム・クロウチの“I Got a Name”にのって走っていく黒のフォード・マスタング。実在したレース・ドライバーの若き日を描く本作の出だしは柔らかい。全体のトーンも、レース映画というには淡々としたもの。
　父親が作る密造ウィスキー（絶品だそうだ）を運ぶうちに、どんどん運転の腕を挙げたというジュニア・ジョンソンを、ジェフ・ブリッジスが軽やかに演じている。アメリカン･ニュー・シネマの秀作に数えられる『バニシング・ポイント』や『ダーティー・メリー・クレイジー・ラリー』でもそうだけど、車を猛スピードで走らせるってのは怒りや焦燥感に結びつきやすい。けれどこの映画のジョンソンは、そういう鬱屈した内面がほとんど感じられない。そこそこ熱心、そこそこスケベ、そこそこ家族思い。モデルのある映画だし、ドラマが薄いと見ることもできると思うけど、この軽やかさがこの映画の、ジェフ・ブリッジスの魅力ではないかと思う。
　本作のもとになったトム・ウルフの記事（クレジットにはarticleと出たと思うので、新聞か雑誌の短編ルポかな？）は邦訳があるみたいだけど読んでいない（ひょっとして、トム・ウルフの持ち味かなあとも感じないこともないけれど）。
　だんだんレースにのめり込んでいったジョンソンに近づいてくる女、ヴァレリー・ペリンが安さ爆発で素晴らしい。レースドライバーと次々とベッドインしてジュニアも翻弄するのだが、不思議と厭味が残らない。ネッド・ビーティ、ゲーリー・ビジー、エド・ローターら70年代映画の顔が並んでいる。
　大した事件は起こらない、まさにシンプルな物語、奇をてらわないまっすぐな演出、『サンダーボルト』に並ぶジェフ・ブリッジスの魅力（まだ観ていない『クレイジー・ハート』が楽しみになってきた）。ドラマチックではないけれど、今まで見たラモント・ジョンソンの映画ではいちばんいい。65点。

「ラストショー」で一躍有名になったブリッジス。その時の彼はシビルシェパードとベッドに入ったがモノが役に立たず彼女にモロ軽蔑されたいささか軟弱な役だったが、本作はタフな男っぽい役がハマり以後の彼のイメージを形作った様な気がする。未見だがこの時期の彼の「ロリマドンナ戦争」「夕陽の群盗」もDVD化してほしい。このキャラが次の「サンダーボルト」に繋がりイーストウッドと対等に相対す事になった。カーレースの映画はハズレも結構あるが、本作は結構いい出来だ。主役の彼のキャラがヤンチャだが魅力的でイキイキとしていて、ラストも現実的で金と女の描き方もドライでいい。このキャラとブリッジスの演技がピタリはまっている。後に「ビッグウェンズデー」、オスカー候補になる「バディホリーストーリー」でブレイクするゲーリービジーも弟役でいい味を出している。