Ｓｗｅｅｔ　Ｒａｉｎ　死神の精度

　唐突に人からこんな問いかけをされたらきっと面食らうだろう。「私なら・・・」、と考えてみる。自分が死ぬかもと思った瞬間はそれほど経験していない。一度だけこれはダメかもと思った瞬間があった。学生の頃バイクで山道を登っている時、突然対向の乗用車が右折してきた。
　死ぬ直前本当に全てがスローモーションになる瞬間があるとは聞いていたが、その時初めてそれが本当だと思った。「ブレーキ？、それとも直前でコケル？バイクのローンが・・・」などほんのコンマ何秒の間に様々な思考が湧き上がる。そして車に激突。その瞬間から時間が流れを普通に流れを開始した。

　バイクは数十メートル吹っ飛んで廃車。救急車で運ばれるものの、脚を4針縫うくらいの軽症ですんだのは奇跡的と医者からは言われた。
　その時死神は「実行」を見送ってくれたのだろうか。

　「死」に対する私の感じ方はほぼこの映画の死神たちに近いように思います。「死」は特別なものでは無い。貧富や性別、人種などを超えて必ず死はやってくる。大事なのは「死」迎える時にそれまでの「生」を悔やむかどうかの違いが大きいのではないでしょうか。
　
　この映画の死神は一般的にイメージされる死神とはちょっと毛色が変わっています。浮世離れした飄々としたそのイメージはどちらかというと仙人のような雰囲気が漂っています。必ずしも積極的に人の命を奪うというわけでも無く、かなりアバウトに「実行（死なせる）」か「見送り（死なせない）」を決定しています。人の「死」に対して特別な思い入れがない分その決定はあっさりしたものです。
　これまで何千、何万と繰り返してきたであろう死神のルーティンワーク。そのルーティンワークに少しほころび（変化）があったのを描いたのがこの映画のストーリーです。その変化はそれほど大きなものではないので、映画もわりと大人しく進んでいきます。
　出だしこそ「ああまたテレビ局主導の映画の典型か？」と思ったのですが、その後は奇をてらうことなくじっくりと進んでいくお話が、画面の中で降り続ける雨とあいまって、いくばくかの寂寥をともなった透明感として描かれていたように思います。
　オムニバス風に進んでいくように見えた展開もラストで上手く繋げられていて、「なるほどね」という感じです。途中でもかなり大きな伏線（ヒント）として提示はされているのでそれほどの驚きは無いものの、なかなかきれいなお話だと思いました。

　ラスト前までサイドの低い映像を引っぱっておき、ラストの色を際立たせたのは正解でしょう。

　ドラマチックさや派手さは無いものの静かな時間が流れ、優しさを感じる映画だと思います。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

「アヒルと鴨のコインロッカー」でお馴染みの、伊坂幸太郎の小説を原作にしたファンタジックなドラマ。

７日後に死ぬ予定の者の前に現れ、観察した後に生死を決める仕事が死神、千葉（金城武）の役目という設定が面白いですね。
人と人との交流によって、運命の不思議さを知る死神が良かったと思います。

一見関係のない、３つのエピソードからなるオムニバスのように見えますが、実は、それぞれが時代は異なるのですが、１つに繋がっているというのが、ポイントです。
観ている時は、それぞれの時代設定に気づかず、最後の章で、な〜るほどと思ったのです。
さりげなく、セリフやグッズで時代を表す努力をしていましたが、ちょっと解りにくいのが、不満です。

１９８５年（過去）は、小西真奈美がクレーム処理のパートの役。この電話が黒電話というところと、ＣＤショップが古いのを設定したようなのですが、ちょっとオシャレです。
そして現在は、息子の話、さらに２０２８年の未来は、ヒロインがおばあさんになってという設定ですが、人間そっくりなロボットが登場したかと思うと、車は現代のもの・・・ちょっと滅茶苦茶です。
見ていて、時の隔たりがあまり感じられなかったのが、残念です。
もっと細工をして解りやすくしてくれたなら・・・って思ってしまいました。

物語の展開に今一つ盛り上がりは感じられないものの、役者さんたちを楽しむことが出来ました。
金城武は、浮世離れした人物像が嵌まり役ですね。
音楽を聴くのが、左右に首をふる辺りや、おとぼけキャラが良かったです。
小西真奈美は、いかにも死神から狙われそうな暗い女性で、薄幸さを表現していたと思います。

原作を読んでいるのですが、正直この作品の映画化は難しいだろうと思っていました。なぜなら、6話程度のショートストーリィから成り、2時間という尺でうねりを出すような風合いの物語ではないからです。言わば、間を楽しむといった手合いの小説。しかし、観てみると期待以上の出来映え。ふんわりとしたムードを押さえつつ、3話のエピソードが死神を軸にしっかりと１つにまとめあげられています。これは、脚本がうまいですね。上手に削り、上手に付け加えました。原作に相棒の黒犬は出てきませんが、犬と死神が無言で会話するという現実離れしたシチュエーションも作品が醸し出す浮遊感をうまく盛り上げています。

何と言っても本作の面白味は、「何事も達観している死神」と「目の前の出来事に一喜一憂しているちっぽけな人間」の対比が実に良く効いていること。その一番の貢献者は、やはり死神を演じている金城武です。近年の彼の作品の中ではベストアクトではないでしょうか。浮世離れした風貌、飄々としたセリフ回し、どんな設定の人間になっても何色にも染まらない透明感。立場は人間より上ですが、全く嫌味がありません。しかも、その存在がでしゃばり過ぎていない。だから、３つのエピソードの人間たちの悩みや苦しみがきちんと際だっているのです。焦点の合わない目でヘッドフォンを付け、リズムに合わせて肩を揺らす様子も実におかしい。

また、3話のエピソードは時を超えて繋がってくるわけですが、ラストにかけてどうだと言わんばかりの仰々しさが全くないのも非常に好感が持てます。作り手としては、どうしても観客をあっと言わせたいがために、種明かし的な演出に走りがちですけれども、実にさらっとしています。そして、そのことによって、最終的には金城武演ずる死神の人生がクローズアップされてくるんですね。それまで語り部としての役割しか持たなかった死神に、初めてこの世の美しさ、人間世界の温かみといったものを体感させる。なかなかじんわりできるエンディングで◎。不安が多くて足が向かなかったのですが、こんなことなら映画館で観れば良かったと思わされました。続々、映画化される伊坂作品。次は「重力ピエロ」らしいですが、本作の出来映えが良い意味でプレッシャーになってくれるといいですね。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

井阪幸太郎は、この作品の映画化になかなか首を縦に振らず、断り続けたのですが、金城武が千葉を演じるというので了承したそうです。
　たしかに、この死神役は金城武にとてもよく似合ってますよね。
　肩に力が入りすぎず、さりげない雰囲気が全編を通して流れていて、人の死という事象を扱っていながら、妙に暖かく優しい気持ちになれましたね。
　原作は読んでませんけど、基本的にこれは文章で、文字で見せるものなのだろうなとは思います。
　千葉が、人間の言葉を深く理解していないので、会話の中で生まれる齟齬が、まあ小ネタと言いますがギャグだったりするんですけど、たまにスベってますね。「ナンパ」と言う言葉や「ミニクイ」を勘違いするくせに「ヤサ」だとか「ガセネタ」なんて言葉はきちんと理解してるんですよね（笑）文字で読むと面白い言い回しが、セリフとして発声されると違和感を感じてしまう部分もあるのでしょう。そう言う意味では脚本にもう少し、練り込みが必要だったかも知れません。

　現実世界との差異を見せるためでしょうか、死神界にはＣＧが多く使われています。メインとなるシークエンスの中でも回想シーンとか、死神が素手で触れた物が色が変わっていったり（人なら気絶してしまうとか）何カ所か使われるんですけど、こんなレベルのＣＧなら、逆に使わない方が良かったんじゃないかと思ってしまいます。

　小西真奈美は今まで観た中では一番良いかも知れません。正直、あんまり好きな女優ではないんですね。清楚な雰囲気を出そうとしていても、その気の強さがにじみ出てしまっていますからね。いや、それがいけないと言うことでは無いんですが・・・。
　女優という仕事に真剣に取り組んでいると言うことなんでしょう。新人の頃、つかこうへい劇団に所属し、その後野田秀樹の作品にも出演してますが、ある意味雲の上の人のようなつかや野田の演技指導に対しても、
「それはおかしいと思います」
と食ってかかったとか・・・。

　三つのエピソードが４３年を越えて、繋がりを持っているのですが、２つ目のエピソードが好きです。光石研、石田卓也と金城武が絡んでいると、物語の厚みが増しているような気がするんですよね。

　全体的には、プロットに感心する部分はあるにしても、展開なんかはわかりやすくて、すぐに読めてしまうし、秀作と言えるほどではありません。しかし、人間の最後のシーンのプロデューサーとも言うべき死神の判定基準が曖昧でありながら、
「価値を見つけたか」
「死ぬに値するか」
と言う基準であるというのは、なかなか面白い設定でしょうね。
　さしずめ私なんぞは、
「まだ、死ぬに値しない」
と言うことで生かされているんでしょう。（笑）
「善人は早死にする」
はずなのに・・・おかしいなあ・・・。

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

本作は6編の短編の中から、3つをオムニバス形式で映画用にアレンジしたものらし
い。オムニバスとは言っても映画的な仕掛けが施されていてつながりがある。実際
に3つ目の作品である「死神対老女」の女性は原作では「藤木一恵」なのかどうかは
知らないのだが、私的には違うのではないかと思えた。

死神という響きやイメージから普通はリュークのような雰囲気がイメージしやすいの
だが本作では人間の形をしており、いまいち人間界の言葉を理解していないようで
会話がかみ合わないことも多く、これで柔らかいイメージに仕上げているようだ。こ
れは、「死」というもの自体の恐怖的概念を払拭することに一役買っている。しかし
逆に本来死神というもののもつイメージとのギャップが違和感として残るのも事実。

死神云々というよりも意外とハートフルなドラマに仕上げてあって、そういう見方を
するのであれば悪くない作品だ。しかし、千葉役は金城武ではない気がする。特段
面白いわけじゃないけど、つまらなくもない。可もなく不可もなくといったところでしょ
うか。。