不貞の季節

人間ってあやふやで多面性があるものだけど、何処かで社会的な体裁や見栄なんかに捕らわれ装う自分を作っているところがありますね。夫婦の間では、そういった装いが剥がれかなり本音の部分でぶつかることがあります。特に性的なものは動物としての本能に深く関わる部分ですから、人間の本性が垣間見える瞬間かもしれません。"変態"という台詞が何度も出てきますが、何が変態なのかを定義づけるのも難しいことだと思います。
本作に登場する夫婦もお互いに愛が全くなかったわけでもないし、愛がありながらすれ違いを起こしていったように思います。あやふやなものがぶつかり重なりを見せるだけに、夫婦とは難しいです。

全編に渡ってあやふやなものによって構成されている映画です。和洋折衷の家、真夏の海での熱い柳川鍋、田んぼの中の一本道を歩くことによってSMの世界に浸っていける京子(山崎絵里)などなど。冒頭付近では、帰宅した妻・静子(星遙子)が、SMを実演している夫・黒崎(大杉漣)の書斎に白々しい顔で入っていきますが、この夫婦の性に関しても決してオープンではない、装う自分と本音が葛藤する、あやふやで不安定な関係を端的に表すシーンではないでしょうか。

あやふやで放置できていたものが、ある時突然放置できなくなります。妻との不貞を川田(村上淳)に告白され狼狽する黒崎。二人の絶妙の演技の間もあって、私たち観客には非常に滑稽に写るのですが、あやふやなものが崩れ、それに対して何らかの答えを示さなければならないところに追い込まれる黒崎の滑稽さではないかと思います。その後の川田の状況説明もビール瓶を性器に見立ててなど、説明の中にもあやふやさが継続されていて、視覚的にも面白いです。

言葉では表現しきれない、あやふやな夫婦の関係を滑稽なトーンで描写する本作はなかなかに面白いですね。廣木隆一らしい長回しも至る所にありますが、ねちっこく執拗に演技を捉える箇所も多々あり、軽快なリズムを刻む滑稽なトーンの演技とは裏腹に妖艶さもたっぷりあって、これらのミックスもあやふやな多面性が織りなす妙でしょうか。

ポルノの免疫があれば男性にはそれほど堪えない映画だけど、性的な放送禁止用語が生々しく発せられますし、女性(特に関西の方)にはあまりお奨めできないかも。でも女性(妻の立場)の方のレビューも読んでみたいですね。女性はレビューしづらいかな。(^^;)

大杉漣さんのファンになり、この映画を見てみました。映画そのものにはあんまり期待をせずに見始めたのですが・・・いやいや、面白かったです〜。大杉漣さん、とってもいい味出してました！浮気をされる夫の姿に、少し哀れで可愛そうな気もするけど、コミカルに演じられていたので見てて面白かったです。
普段はあんまり邦画を見ないのですが、邦画もいいなぁ〜。と思わせてくれた作品でした。村上淳さんもかなりイイ感じでしたよ〜。

仕事とプライベートが、なんとなく結びついてしまっているところ
（完全に切り離せないところ）が、幸せでもあり、不幸せの
始まりになってしまう感じですね。
妻の知らない女としても部分に嫉妬しているけれど執筆活動の
手が進んでしまう旦那の切ない部分の最後は・・・でした。
旦那としては、きっととてもステキな、本人も大満足な小説が
出来上がり、妻にも読んで欲しかったのでしょうが。
妻も気持ち的に、自分の快楽と旦那の仕事の協力という部分の
板ばさみ状態で複雑な気分だったのではないでしょうか。
淡々と物語が進んでいて、それが余計にその部分について
考えさせられるステキな作品でした。

ラスト直前に、大杉漣が離婚して去っていく妻に自分の書いた作品の原稿を差し出して「ちょっとくらいは愛があるかもしれない」という台詞にはほろりとさせられた。

団鬼六さんの作品が大好きでした！
心からご冥福をお祈り申し上げます。