モダン・タイムス

ロキュの６９日連続レビュー�U　(参考記録　)その６２

いろはレビューの「　も　」

(,ネタばれあり　)
１９７２年、東宝東和が創立４５周年に「　ビバ　!　チャップリン　」というリバイバル連続上映を企画。
同じ年の初めに、チャップリンはアカデミー賞の名誉賞を贈られて、２０年ぶりにハリウッドに凱旋。
世界的なチャップリン・リバイバルの流れでの企画。
ごぞんじない若い世代の方のために申し上げておくと、東宝東和は戦前からの映画輸入配給の老舗で、川喜多重政・かしこ夫妻、そして娘の和子さんの３人の、日本の洋画文化に果たした貢献はとても大きい。
ウィキペディアに川喜多かしこ、和子の項目がないのは残念と言うか、日本の映画文化の底の浅さが出ているとさびしく感じます。

この「　ビバ　!　チャップリン　! 」は淀川さんの旗振りもあって盛況で、成功する訳ですが、その第１弾が本作で、ぼくらの世代はチャップリンを劇場上映で観ることができました。
ぼくにとっても、初期の短編を除けば、本格的なチャップリン初体験であり、『　街の灯　』『　独裁者　』などが続き、中野好夫訳の赤い表紙の「チャップリン自伝」を読んだりして、追体験していったのでした。

改めて観ても、やはりチャップリンはおもしろくて、すごい　!
１９３６年作。だから、もう時代はすっかりトーキー(　１９２９年〜 )。
サイレントだった前作の『　街の灯　』から５年ぶり。　
基本サイレントで一部初めて声を聞かせるわけですが、その出し方にまたこだわりが・・・(笑)
「　ティティナ　」の名演。

子どものころは「タイムス」というので新聞の話と勘違いしましたが、「現代」のこと。　(　日本公開時にはその肩書きに「流線型時代」と書き添えた、とは、当時ユナイテッド・アーチスツ日本支社の宣伝部員の淀川さんの証言　)
時代遅れのサイレント映画に、凡百のトーキー映画が持たないジャーナリスティックなテーマ性という攻めの映画作り。

ルネ・クレールの『　自由を我等に　』にインスパイアされてる部分も指摘されますが、チャップリンは自分のものに消化してますし、ジョージ・オーウェルなどはおそらく本作や『　メトロポリス　』を観て影響を受けてるのでは、と思わせ、後世への影響も見てとれます。
共産主義者、扇動者だと間違われてしまうチャーリーの姿は、のちの本人を予言しているようで、驚かされます。

ポーレット・ゴダードはチャップリンの共演者、結婚相手の中では、自己主張が強くて異色。
「おてんば」というより肉食系かな。　チャップリンとは籍を入れてなかったとかいうけれど、６年で別れた後、再婚するのが『　ロッキー　』などで知られる俳優バージェス・メレディス、次が『　西部戦線異状なし　』の作家レマルク。　死別した後６４歳のころのボーイフレンドが２０歳年下のアンディー・ウォーホール。
女優はやめても、晩年までセレブとして優雅に暮らし、死後ニューヨーク大学に2000万ドル以上寄贈したというのだから、たくましい。

チャップリンの「妻」となってからは、屋敷のイギリス趣味のしぶい室内装飾から明るいモダンなものに変え、ロールスロイスしかもカスタマイズし、毛皮に、宝石と金遣いが荒いものだから、長年仕えてきた秘書の高野虎市と衝突。　高野がチャップリンのもとを去る原因となる。
といえ、『　モダン・タイムス　』そしてとりわけ『　独裁者　』を作るに当たって、ユダヤ系の彼女の影響を考えないわけにはいかない。

ともあれ「　スマイル　」「　ティティナ」の名曲、そして映画史に残るラストシーンにまたもや目頭が熱くなりました。

チャップリンは　苦手ですね。
タチの世界と全くの異質の世界。
なんでそう思うんでしょうね。

冒頭　なだれ込む家畜の群れが
勤めへと向かう男たちの姿へとうつる。
仕事に追いまくられ追い詰められ歯車の間で身動きができない
笑うどころか　固まってこれを眺めていました。
効率、生産性、時間の短縮　忘れ去られる味わい、人間性
なんて怖い作品なんでしょう。

チャップリンは決して手を抜かない。
体制側の人間にも人柄を与えるし
貧しいはずの労働者にも　ずるい一面を与える
小さくてボロでも住み心地のいい我が家を
決して簡単には与えてくれない。
この作品でチャップリンは　はじめて肉声をあらわしたといいますが
使われた言葉はどこの国のものでもない、とか。

チャップリンの笑いの原点は“怒り”のように思えます。
踏みにじられた何かを　しっかり閉じ込めて笑いにする
どんな状況にも　笑顔を旗印にしっかり掲げ面をあげる。

いつでも帰れる家があるユロおじさんと違って
チャップリンは　どこへも帰れない。
この鋭さが　チャップリンの凄さでしょうが
ふふふと笑いたい私には　ちょっとキツイんですよね。

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チャップリンが風刺した機械文明。流れ作業的にネジを締めていく男の精神状態に失調を来たしたり、自動食事介助機の故障でとんでもない事になったり・・・。かなり笑えるシーンではあるが、考えてみれば怖いお話でもある。

チャップリンのお話に欠かせないのが警察官と若い女性。今回もチャップリンは警察官に追いかけられたり若い女性と恋に落ちたりするのですが・・・、今回は二人の恋はとてもうまくいっているではないか！しかも相手は推定10代の可愛らしいお嬢さん。チャップリンが羨まし過ぎるぞ。二人はとても仲睦まじいカップルで、チャップリンが留置所暮らし（無銭飲食などでね）から出てくる度に彼女はお迎えに来るのです。ほのぼのと話が進んでいく・・・

そしてラスト、二人で歩く後姿が、何かこれからの輝ける未来を暗示しているかのようでした（ちょっと感動物です）。ところで、未成年（推定ですが）をこんな形で連れ出して良かったのでしょうか？（余りに羨ましかったのでちょっと突込みなど）

これ、完全に反則だと自覚しておりますが、DISCAS様には最大限のご容赦を頂きたくお願い申しあげます。旧レビュー側のホチャ様が掲げていらっしゃった「いったい何と歌っているのでしょうか？」に今頃気づき、向こうで既にレビューを書いてしまった為、こちらで情報を提示させて頂きました。

同様の疑問が　Nonsense Song のサイト
http://www.groupsrv.com/movies/ptopic37187.html
で揚げられており、有志から耳でひらった歌詞やD.Robinson先生が著書で示した歌詞の紹介などが閲覧できます。

【一例】
Se bella piu satore, je notre so catore,
Je notre qui cavore, je la qu', la qui, la quai!
Le spinash or le busho, cigaretto toto bello,
Ce rakish spagoletto, si la tu, la tu, la tua!
Senora pelafima, voulez-vous le taximeter,
La zionta sur la tita, tu le tu le tu le wa!
　(Chaplin: His Life and Art, p. 468)

　1936年の初公開から36年を経た1972年、中学生になった僕は生まれて初めてチャーリーの映画を観ました。それがこの「モダン・タイムス」で、東宝東和が企画した「ビバ！チャップリン」イベントのおかげでした。
　当時チャーリーがまだ存命中だったことや、彼の最盛期を直接知る日本の著名人も多く世に在った頃でもあり、TVでも特番が組まれ、チャップリン映画が華々しく宣伝されたと記憶しています。

　当時の私と同じく、チャーリーのサイレント（無声映画）作品を初めて鑑賞されようとするお若い方には、このモダン・タイムスは入門編としてとてもオススメできます！
　というのは、本作では英国フレッド・カルノ劇団の舞台役者を経てサイレント映画の喜劇俳優になったという、それまでのチャーリーのキャリア、マイム芸の総決算が行われているからです。
　口立て芝居調の初期の筋立てから大きく成長して、本作のストーリーは社会派ともいえる内容で、サディスティックな表現や皮肉だって随所に仕込まれているのですが、それを上回るように自分の短編、長編からイイトコ取りした笑えるプロットや芸も随所に散りばめており、我々観客を飽きさせぬように見事に工夫されています。
　本作より20年前、チャーリーが27歳の時にMUTUAL社で作った「THE RINK（邦題：チャップリンのスケート）」で、彼はすでにローラー・スケートの名人芸を見せていますが、実はさらに前の21歳の頃、母国英国カルノ劇団の寸劇「スケート」で大成功を収めています。そのローラー・スケートが本作でも出てきます。エスカレーターのプロットといい、チャーリーは過去の財産を大切にしますね。

　またファンには良く知られているように、チャーリーはこの作品の終盤で映画人としてのキャリア上初めて「声」を発し、「ティティナ」という無国籍語の歌をマイムと共に私たちに披露してくれるのですが、♪お腹が出た太っちょ美髯の金持ちオヤジがダイヤモンドを餌にグラマーな娘さんをドライブに誘い・・・♪なんてやってますね。チャーリーは自伝で「心にも無い謙遜など抜きで言わせて貰えるなら、パントマイムに関しては（私は）名人だと思ってる」なんて言ってますが、ホント、お見事ですよ、あなたは名人だチャーリー！
　声は出したけれど、無国籍のデタラメ語故に本作の分類はあくまでサイレント映画になってて、チャーリー最後の無声映画作品とされています。（例えば下記のように）

The 8126 ft. final cut from 215,000 ft.
Shot from Oct. 11, 1933, to Aug. 30, 1935
at cost of $1,500,000
in the last open sky studio in Hollywood
The last film of the "Tramp" character.
The last "silent" film.