１９００年

１９００年夏、イタリア北部のある村で、同じ日に二人の男の子が生まれた。
大地主の孫、アルフレードと小作人頭の孫オルモ・・・・
原題『NOVECENTO』 とは９００という意味で、一つは１９XXで表される２０世紀を指し、また９００ヘクタールという広さも指していて、その土地を所有する大地主の家と小作人たちが生きた２０世紀を描く壮大な物語。

数十年に及ぶ村の歴史、夏秋冬春そして夏という季節を描くため、撮影は１９７４年７月から７５年４月まで１０か月に及んだ。

成人のアルフレードを演じるのはロバート・デ・ニーロ。
撮影当時３１歳。本作撮影中に『ゴッドファーザーPART�U』でアカデミー賞助演男優賞受賞、次の作品が『タクシー・ドライバー』という時期。
成人のオルモを演じるのはジェラルド・ドパルデュー。
撮影当時２６歳。　『隣の女』『終電車』などで知られるのは後年で、新進気鋭の時期。
そして悪魔的人物を怪演するドナルド・サザーランド　撮影当時３９歳。

ドミニック・サンダ２３歳。　他にバート・ランカスター、スターリング・ヘイドン、ステファニア・サンドレッリ、アリタ・ヴァリらが出演。

撮影はベルトルッチ作品や『地獄の黙示録』『レッズ』などのヴィットリオ・ストラーロ
当時３４歳。
音楽はエンニオ・モリコーネ　当時３６歳
そして共同脚本と監督は、ベルナルド・ベルトルッチ　当時３４歳。
『暗殺の森』『ラストタンゴ・イン・パリ』に続いて本作制作ですが、みんなそんなに若くしてこんな超大作撮ったのかと、改めて驚きます。

上映時間５時間１６分。　イタリアとフランスでは、第一部２時間４２分、第二部２時間２４分に分けて公開。　アメリカでは、配給側がカットを求め、ベルトルッチは裁判まで起こしたが、４時間８分の短縮版で公開。　R指定を受け、評価も興行成績も散々。

日本公開は６年後の１９８２年。　　カンヌ映画祭などの特別公開はあっても一般興業の形で、第１部と第２部との間に休憩は入れたものの、５時間１６分を一挙上映したのは世界で日本が初めて。　ベルトルッチを感激させた。
前にも書いた表現ですが、その映画バカぶりは世界に誇っていいと思います。
キネマ旬報同年1位は『ET』で、２位が本作。　

ロシアでも、日本でも、どこの国にも大河作品と言える映画はありますが、ヴィスコンティ、オルミ、レオーネそしてコッポラ、チミノ、スコセッシとイタリア系は質量ともに群を抜いていると感じます。
饒舌で、エモーショナルで豊潤。　イタリア料理もそうですし、イタリア・オペラもそう。
文化的土壌がそうした映画を生むとしか言いようがあります。
本作もそんな代表作の一つ。

(以下、再見しての感想。　重要なネタバレあり)



まず衣裳、美術のすばらしさ。　映像と音楽が一体となさった映像美。
たとえば白馬にまたがっているドミニック・サンダの美しさだけでも映画脳を刺激します。
ですが美とはキレイとはちがって醜悪さも含み、本作の表現は視覚と聴覚だけでなく、臭覚や痛覚を刺激するなと感じます。

表現が　胃袋から生殖器、いや排せつ器までの肉体性を持って生々しい。
生　だけでなく、死もまた　魂が抜けた後の屍体の肉体性を持って生々しい。
この作品には赤(　共産主義　)と黒(　ファシズム　)の狂熱が描かれますが、政治もまた観念的なものにとどまらず、たとえば赤旗も黒シャツも、肉体性を感じさせて生々しい。
こうした肉食性の表現は、日本人、特に現代人の希薄さ・淡白さとは対極ですね。

近く深い関係だからこそ抱く友情と確執。
愛と憎しみ、激しい葛藤がありながら、離れられないくされ縁。
これだけ濃密な、狂熱と情欲と情念に満ちた愛憎のドラマでありながら、しかし驚くようなあっけないラスト。

『ラストエンペラー』と同じ。　川島雄三の『雁の寺』とも同じ。
天から見たら、後世から見たら、すべてはコップの中の嵐。　
愛も憎しみもすべては過ぎ去ってしまったこと。
ニヒリズムから見た、達観。　それは無常観とも言えるのでしょう。
これが、この作品が異文化であるはずの日本人を熱狂させた理由ではないでしょうか。

5時間という長尺にもかかわらず飽きさせない傑作大河ドラマだが、後半はデ・ニーロ、ドパルデュー、ドミニク・サンダの3人を合わせてもいささか求心力が弱くなった。
というのは前半のバート・ランカスター、スターリング・ヘイドンが全キャリアを結集させたような渾身の演技を披露しているからなのだ。
更に終盤のあからさまな赤旗礼賛には苦笑してしまう。ギャグなのだろうか？

とはいえ、ベルトルッチとストラーロが作り出す映像美にはやはり随所で唸らされる。特に屋外シーンはどれも息を呑む美しさ。
第1部冒頭など完璧すぎて遠方の黒煙の形さえコントロールしているかのように思えてくる。

ベルイマンの「ファニーとアレクサンデル」と並んでヨーロッパ映画を代表する超大作でしょう。

気に入った作品は何度も見るために手元に置きたいと思うものですが・・・。

「1900年は」もう15年くらい前に、ヤフオクでレンタル落ちのVHFを見つけた。
デ・ニーロの作品とはいえ、この先DVDが発売されることがあるのだろうか、これを逃したらもう一生見られないかもしれない。
そう思って競り落として購入しておいた。日本語字幕版です。
そして、そのまま引き出しの奥にしまって、いつでも見られるから大丈夫と安心していた。
ところが、うちのVHSデッキを使うことがだんだん無くなっていって、いつのまにかもう使えないと思い込んでしまった。
最近になって「これもう見られないよねー」と夫に言ったら、接続を確かめてくれてまだデッキが使えることがわかった。
「1900」年は5時間以上の大作なので、じっと座って通しで見るのはつらい。いつでも好きなところから、好きな時間、字幕で見られる。本当に嬉しかった。
同じ大作の「ミッション」は英語字幕版しか手にに入らなかった。
TUTAYAさんのレンタル、「ミッション」は借りようとしたら廃盤となっていた。
ここの「1900年」は日本語字幕なんだろうか。
うちの機械が壊れないうちにDVDかブルーレイの字幕版、手に入るだろうか。
Amazonにもあるけれど、日本語字幕だか英語字幕だかわかりにくいし、ブルーレイは超高値。
困っている。

ベルナルド・ベルトリッチの作品には、必ず「壮大な」が枕詞のように付くけれど、これは「壮大」すぎてわけがわからない。壮大さは「ラストエンペラー」の比ではない。
1982年に日本公開。劇場で見た。5時間16分。途中で休憩タイムがあったのを覚えている。それっきりだ。
VHS持っている。
もう一回挑戦してみる。

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本作は完成してから日本で初めて公開されるまでに相当の年月が経っている。自分はこの作品が出来た頃の国内の映画雑誌でその存在を知っていたので興味津々だったのだが上映時間が5時間という長さ故だと思うがずーっと公開されないままでいたのが残念で仕方なかった。当時はまだミニシアターという存在が無かったので内容が良くても興行的に不安がある作品は中々配給公開されなかった。画期的に変わっていくのが岩波ホールがビスコンティの「家族の肖像」を公開して大当たりさせてからとなる。(但し、本作の評判の良さは伝わってきていた。) 日本公開の見込みなど全く無かった昔、イギリスを観光旅行した際、ロンドン中心部を散策中、名画座的な映画館で偶然本作を上映しているのを見かけ、まだVHSも登場していない時代なのでこれを見逃したら一生観れないと思い内容が理解できなくてもいいので歓んで入館した。ベルドリッチの作品は内容によっては難解な作品もあるが本作は非常にスマートで分かり易くそんなに難しい会話が無いせいもあって推測も交えるがおおよその中身は画面から理解できた。そんな状況で観てもこの作品はとてつもなく面白い傑作であった。脚本が余程いいのだろう、こんな長い作品なのに全くだれる箇所も無く正にイタリアの大河ドラマとなっていて1900年の同じ日に生まれるイタリアの地主とそこで働く小作人の二人の子が幼い頃は仲が良かったがお互いの階級の立場が年齢と共に徐々に影響して遂には対立していく成長を軸にして二つの世界大戦も挟んでイタリアの歴史を描き階級社会の中で抑圧された庶民の生活のバイタリティーが見事に描写されているのだ。当時まだ新人級だが以後、国を代表する役者になっていくデニーロとドパルデューを主役2人に抜擢したベルドリッチの先見の明も凄い。(資料によるとベルドリッチはスコセッシの「ミーン・ストリート」を観てデニーロかハーヴェイ・カイテルのどちらかにしようと考えて結局デニーロにしたとの事だ。カイテルは「地獄の黙示録」でも途中コッポラからマーティン・シーンに交代されてしまっているし運が悪い。)　本作はバート・ランカスターやスターリング・ヘイドン等アメリカ人俳優を起用しているがその中でも特筆ものなのがファシズムの極悪党を演じるドナルド・サザーランドだ。彼とラウラ・ベッティという女優がコンビを組んで二人で悪さの限りをしていく。この男が幼い男の子を笑いながら両足を抱えてぶんぶん振り回して柱に頭を叩き付けて惨殺して相棒の女が笑ってそれを見物しているおぞましい場面がある。自分が長く映画で見てきた悪役の中でトップクラスの極悪演技だ。この役は数多いサザーランドの作品の中で私のベストである。私には元々彼はどう見てもワル顔に見えて「普通の人々」の善良なお父さんよりはこういうワルの方が絶対似合っていると思う。こんな悪党は早々いない。スタッフも一流揃いで撮影がベルドリッチの前作「暗殺の森」で森の中で日光が木々の間から絶妙に差し込むとても美しい画面で残酷な集団リンチの暗殺場面を描写した映像美に目を見張った名匠ヴィットリオ・ストラーロが本作でもイタリアの四季を通じてとても美しい撮影技術を披露する。音楽もイタリアの至宝エンニオ・モリコーネが作品のイメージにどんぴしゃの名曲を提供した。ベルドリッチは話題性では上だった「ラスト・タンゴ・イン・パリ」やアカデミー賞的にはより評価が高かった「ラスト・エンペラー」よりも断然こっちである。本作は自分の生涯観た洋画の中でベスト10中は際どい位置だがベスト20なら間違いなく入る。
余談だが現在公開中のキーラ・ナイトレイ主演「オフィシャル・シークレット」を観たので少し書きたい。この作品は９．１１の報復で何としてもイラクのフセインを攻めたい米ブッシュが大量破壊兵器保持を口実にしたいが為に陰謀を企んでいる情報を知った英の諜報機関職員のナイトレイがマスコミにリークする事で周囲と闘っていく実話で前作「アイ・イン・ザ・スカイ」が大傑作だったので注目していたギャヴィン・フッドという監督の新作という事で期待大にしていたのだが期待通りの力作だった。大昔、アル・パシーノの「セルピコ」を観て以来、内部告発してひとり闘う実録物が大好きなのでこの作品も大満足である。