戒厳令

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　私が、紅顔の美少年だった高校２年生の頃。所属していた演劇部の大先輩が三国連太郎さんの付き人をしながら、演技を学んでいました。その先輩が
「今度、戒厳令という映画に出してもらえることになった」
と言っていたので、公開と同時に観に行ったことを思い出しました。
　先輩は、憲兵の１人でクレジットにも名前が出ていたのですが出番も台詞もごくわずかでした。後日、
「三国先生に、おまえが一番姿勢がよくて、憲兵らしかったぞと褒めてもらった」
と嬉しそうに話していましたっけ。
　決して面白い映画ではないですよね。　
　パロさんの「偉大なる失敗作」という評価は、言い得て妙だと感心します。

　２．２６事件の首謀とされる北一輝を描いた作品ですが、豪傑のようで居て、自分の思想がどんどん一人歩きして行くのに戸惑てみたり、事件が起こりその責任が追求される事に怯えてみたりとけっこう情けない小心者です。社会主義革命を唱える北を支持したのは天皇制を掲げる将校達で、矛盾だらけのように感じます。
　国粋主義者の社会主義者という難解な北という人物は、この作品だけで理解するにはちょいと難しいですね。
　でも当時としては斬新なカメラワークと音楽、なによりも北を演じた三国連太郎の怪演は評価できるのではないでしょうか。三国連太郎は、日本の名優だと思うのです。「釣りバカ」シリーズのすーさんも悪くは無いのですが、こういう凛とした人物を演じてくれると（反面、情けない部分も）さすがだなと思ってしまいます。

　脚本が別役実なんですね。どうりでわかりづらいはずだ（笑）
　ＡＴＧという、非商業主義の制作・配給会社があったからこそ作ることが出来た作品でしょうね。大島渚、新藤兼人、吉田喜重、東陽一、大森一樹、森田芳光等々、ＡＴＧが世に出した監督は、けっこう多いんですよね。

全編凝りに凝った・・・と言うか作りすぎの画面で構成されたやり過ぎとさえ感じる作品だ。その凝り具合はウェルズやエイゼンシュテインも真っ青になるほどで、この映画がATGで撮られ、またこの映画を撮った後「人間の約束」を13年後に撮るまで映画を撮る機会に恵まれなかったのもある意味理解できる。ちなみに「人間の約束」はとても良くできた「普通の映画」だったが。
でも、私はこの作品が決して嫌いではない。確かに珠玉と言ってもよいであろう素晴らしいシーンがある一方で、やりすぎ故に全体の流れや統制感を崩してしまうような部分も少なからずある。そういう意味では殆ど例外なく全編が素晴らしい画面で構成された例えば「ダウン・バイ・ロー」や「百萬両の壺」などとは比べるべくもない作品であると思う。しかし、これほどまでに画面の自立性や場面場面の存在感に賭けた作品というのもそれはそれで価値があるのではないかと思う。こういう作品のことを恐らく偉大な失敗作と言うのではなかろうか。

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　予告編に字幕で出る「日本の根源的不条理」って天皇制のことでしょうか。北一輝と２．２６事件を背景に近代天皇制の孕む矛盾ないしは不条理を抉ってみせたと解釈すればなかなかの問題作。吉田喜重と別役実のタブーへの挑戦の気迫は認めます。

　不条理のひとつは、国家の元首にして最高権力者であるはずの天皇の地位が実際は空虚であること。これはおそらく「神聖ニシテ侵スヘカラズ」と神格化しておきながら統治権を行使する元首（場合によっては誤ることもある人間の権力者）と規定した明治憲法の矛盾から生じるのでしょう。北一輝の革命思想は神としての天皇が憲法など超越して民衆ために政治を執り行うべきだとしたことにありました。しかし映画が描くようにその願いは砕け散ります。法華経を献上した北への宮内省の受領証が白紙であったこと、何度も登場する御真影の眼差しがどこか虚ろに映ること、何よりも処刑される直前の北が、青年将校たちとは違って「天皇陛下萬歳」を口にしなかったこと、これらのエピソードは「陛下」が実は無力であることを北が知っていたことを暗示しているようにも思えます。憲兵隊の幹部たちも「陛下は何も考えておられないのではないか」と話しています。権力の中心の恐るべき空虚。戦争の責任がいつのまにか霧散してしまうのはそうした構造のせいでしょうか。

　もうひとつ映画が示している不条理は「陛下は知っていてくださる」ということの欺瞞。物乞いの男と北との対話は陛下は臣民すべてを知り見守っているが、臣民は陛下を見ることができないというちょうど監視装置のような天皇制のイメージを語っています。実際天皇が個々の国民を知るよしもないことは明らかなのに、すべてを知り許す神のような存在として心の内に君臨させる制度の魔力。権力機構としての天皇制を拒否することはたやすくとも、この内なる天皇制を振り払うことは案外難しいかもしれません。

　三國連太郎がまさに怪演しています。北一輝がマゾでリストカッターであったとは知りませんでした。吉田喜重作品らしく女性が美しく撮られています。若い兵士がいつも妻を伴って行動するのには少々うんざりしましたが。空間が斜めの線で仕切られ片隅に人物が置かれる構図、首筋や目のアップなど不安と緊張を高める映像がこれでもかと繰り出されます。しかしここまで凝られると自己完結してしまっていると言うのか、観客忘れた自己陶酔めいた気配が多少。ちょっと力みすぎの感のある異色の作品でした。

モノクロで、カットの構図がすべて斬新。すばらしい。ストーリーは重々しく、行きそうで行かないというような感じ。三国連太郎は一人で映画に重りを与えている。ただ、おもしろいかと言われればおもしろくはない映画。

五一五事件から二二六事件までを、二つの事件の思想的指導者であった北一輝と北を信奉する一兵士を通して描いています。
感想は・・・・う〜ん、難解。観念的な台詞が多くてストーリーがつかみづらかったです。構図が面白いカットは時折あったのですが、肝心のテーマをとらえないことには、どうにもなりません。
北一輝（三國連太郎）は、仏壇の前で観音経をあげてるか、思わせぶりな台詞を言ってるかのどちらかだし・・・。
天皇との関係性についての台詞がいくつも出てくるんですけど、皇国思想に疎いものには、これまた理解不能。
首をひねりっぱなしの1時間50分でした。