スクリーミン・ジェイ・ホーキンス伝説〜Ｉ　Ｐｕｔ　Ｓｐｅｌｌ　Ｏｎ　Ｍｅ

　ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で、ハンガリーからやって来たエヴァが、街角でテープのスイッチを入れる。ズンチャッチャ、ズンチャッチャと三拍子で流れ出す、なんだかとっても耳に残る曲。ブルースかなと思っていると、なんだか雄叫びに変わっていって・・・歌うはその名もスクリーミン・ジェイ・ホーキンス。
　その後『ミステリー・トレイン』なんかにも出ていたんだけれど、どういう人なのか詳しくは知らなかった。これは彼の最晩年のギリシャ・ツアーの様子と、面白い小話でいっぱいのインタビュー、ジャームッシュなど縁の人の証言で構成されたドキュメンタリー。
　へーこういう人だったんだ。しょっぱなから鼻の下に角が生えてて、ドクロの杖を振り回して、ブードゥーの呪術師？　イメージと違うなあ。
　でも話が面白くて、サーヴィス精神が旺盛で、まさにチャーミングなおっさんだなあ。六回結婚したというのもよく分かる。
　そうか、戦争で日本軍に酷い目にあったのか、と彼の語る逸話を少ししんみり聞いていたけれども、2000年で亡くなった時に70歳だったという。なら、1945には15歳。詳しくないので確実じゃないけれど、ちょっと若すぎやしません？
　まあ本当かどうかは、面白いからどうでもいいや、と思わせる、虚実入り混じったアウトサイダーの生涯に惚れ惚れ。６０点。

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（ネタバレ御免です）「評価」するなんておこがましい。実在した魔人アーティスト、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスのドキュメンタリーだ。　これがまた、べらぼうに面白い！　彼にまつわるエピソードや、彼の話す事は、いちいちぶっ飛んでるが、実はリアルでもある。

鼻に刺した骨、首に蛇を巻き、そして忘れてならない、ヘンリー君♪　歌うというよりは、スクリーミン（叫ぶ）、ホーキンス。　彼の歌はブルースなのに、まるで大地溝帯の最初の人類の雄叫びの様にも聴こえる。そう、歌声というより、鳴き声だ。

しかしどうやら、このお方、イカレてるわけでも、狙ってるわけでもないんだ、というのが分かってくる。何というか…片方の足を置いてるのが別次元で、もう片方の足は、しっかりこの世の地面を踏みしめていて。この世の者とは思えなかったりする瞬間と、とてもリアルな存在に思える瞬間が同時に在るという感じ。
受け手が常識人であるほど、この人の在り様には惑わされてしまうだろう。確かにこの人の傍に居て、この人を認めてしまったら、自分の価値観がひっくり返されてしまうような気がする。

ネィティブ・アメリカンに育てられ、戦時中は日本軍の拷問を受けるも、きっちり手榴弾で復讐を果たす。ポール・アンカやキング・エルビスを、面と向かって罵倒する。７０歳になっても勃起する事を自慢し、６回（くらいの）結婚を成す。そんな彼が最終的に憧れたのは、オペラの舞台だったという…なんなんだ、この人いったい（笑）


『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で使われた『 I Put A Spell On You 』は、それまで聴いたことの無い程に強烈な曲だった。映像と相まってのことだが、あれほどの衝撃を受ける曲には、以来ほとんど出会えていない。あの歌はデジタル・オーディオで聴くべきではない、再生ボタンを押すと「ガシャコンッ」と言うようなカセットプレーヤーで聴かなければ。

彼の人生を語るのに、１０２分程度の尺で足りよう筈がない。お願いだから、誰か続編を作ってくれ。もっともっと、ヘンリーが見たい！

「ストレンジャーザンパラダイス」の中に於いて最もストレンジだった「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」。あの強烈に下品でワイルドでふざけていて尚かつ胸に迫る稀代のカルトナンバーを歌う、変なおじさんジェイホーキンスのドキュメンタリー。
圧倒的に狂ったステージングと止まらない下ネタ。当時７０歳とは決して思えないバイタリティ。どこまで本気で語っているのか定かではないインタビュー。私たちは彼のその奇抜な演出や奇声やユーモアの中から真実を見つけ出すのだ。「本当のこと」は実はそんな中に鏤められているのだ。
カメラの前でひたすら陽気で有り続け、怒りや悲しみや孤独は棺桶の中に一緒に放り込んで逝ってしまったジェイホーキンス。彼の真価はこれから先もまだまだ問われ続けなければならない。